今日も里は平和です。〜花見編・裏話〜

 

 

 

 春麗らかなある日のことだった。奈良シカマルが自宅の縁側で独り将棋を打っていると、同期の下忍春野サクラが姿を見せた。

「今日は、シカマル。いのが今日の任務午前中で終わったって言ってたから、例の物渡しに来たよ。」

「よう、春野か。」

「何よ、その反応。嬉しくないの?この本欲しかったんでしょ。」

淡白なシカマルの反応に不満を覚えるサクラ。

「契約はちゃんと果たしたんだ。それ以上のことを求めるな。」

「要約すると、御託はいいからさっさと寄こせ?」

「・・・・・・。」

「うあ、何その面倒臭い事この上ないと言わんばかりの顔。・・・はいはい、分かりましたよ。ちょっとふざけてみただけです〜。それでは契約の報酬を受け渡しいたします。」

そう言ってサクラは絹製の布包みを将棋盤の横で開いて見せた。そこから現れたのは一見して古い物と判る書物である。シカマルがそれを手に取り中身を[あらた]める。中身は所謂草書体で記された古文書だ。

「確かに『風林火山』だな。」

そう言ってシカマルは本を閉じた。因みに『風林火山』とは兵法書の一つである。

「これって有名な割にはちゃんと活字化してないのよね。」

「サスケとかも好きだったな、こういう戦術関係。知ってたら欲しがったんじゃないか?」

「ああ、駄目よ。だってサスケ君、古語解読嫌いだもの。おまけに草書だし〜。」

「まあ、普通は面倒だよな。」

「慣れれば楽なのにね。」

「雰囲気あるしな。」

「それに楽しいよね。」

サクラとシカマルはお互いの顔を見てニマリと笑った。流石に里の下忍で一、二を争う頭脳派コンビは言うことが違う。ナルト辺りが聞いたら裸足で逃げ出しそうなジャンルの話題が平気で飛び交っていた。

 実はこの二人、つい先日まではそれ程親しくなかったのである。しかしある事をきっかけにすっかり意気投合してしまったのだ。その出来事とはカカシが花見に行くと言い出したあの日に遡る・・・。

 

 

 

 

 

「えっと〜、卵買ったし、トマト(サスケの好物)も買ったし、おかかは家にあるし・・・。よし、お弁当の食材はこんなものかな?サスケ君喜んでくれるかな〜

 演習が終わった後、サクラは明日のお弁当を準備するために里の商店街に来ていた。材料も集まり明日のサスケの反応を妄想するまで至っている。というかぶっちゃけ内なるサクラが全開だ。そんな状態のサクラが道を歩いているとすぐ前方の店から本を読みながらある人物が出てきた。前方不注意が二人揃えば起こる事は唯一つである。つまり二人は衝突した。

ドン グシャッ

「イッタ〜・・・ちょっとあんたいきなり何するのよ!?」

「あ、ワリィ。でも前方不注意はお互い様だろ・・・て、春野か。」

「何だシカマルじゃない。もう、あんたのせいで荷物落し・・・。」

「悪い。今拾ぅ・・・。」

『・・・・・・。』

サクラとぶつかった相手はシカマルだった。そしてサクラはその時の衝撃で買い物袋を手放してしまった。当然手から離れた袋は万有引力の法則に従い地面に落ちる。頭のいい読者はもうお気づきであろうが、サクラの買った品物には生卵があった。その殻は自転車の籠に入れておいても道路の凹凸が齎す衝撃に耐え切れず砕ける事がある程脆い物である。回りくどくなったが、詰まる所、卵が割れて無残な状態になっていた。少なくともサクラとシカマルに気まずい沈黙を齎す程度には。

「あー、その、春野・・・悪い・・・・・・。」

「・・・明日・・・お弁当・・・サスケ君・・・・・・。」

「お、おい・・・。」

(うわ〜、やっぱ怒ってるか?いのとかもキレると面倒くせぇんだよな・・・。)

シカマルは内心舌打ちしていた。サクラの肩が震えている。キレた女は怖い。シカマルの経験論だった。

「ひ、ひどいよぉ・・・。」

(な、泣いたー!?)

シカマルの予想とは違い、サクラは顔を手で覆って泣き出した。どう対応したらいいのか分からず困惑するシカマル。しかし場所が悪かった。ここは商店街、公衆の面前である。

「まあ、近頃の若い子は・・・。」

「まだ子供なのに女の子泣かして・・・。」

「どこの家の子かしら?全く・・・。」

周囲の視線(特に奥様方の)が痛かった。誤解だと叫びたかったが責任の一端が自分にあることは事実である。

「だー!分かった。弁償する。ちょっと待ってろ。今から卵買って来てやるから!!」

シカマルは世間の目に負け、そう宣言するとスーパーに向かって走り出した。

 

 

 

 シカマルが卵を買って戻ってくると、サクラは商店街の所々に設置してある椅子に腰掛け本を読んでいた。

「おい、卵買って来たぞ。」

「あ、シカマル。」

「ホラ、これでいいんだろ。」

そう言ってシカマルはサクラに買い物袋を手渡した。

「ありがと。あ、これ・・・。」

サクラは卵を受け取ると今度は自分が読んでいた本をシカマルに渡した。

「あ、これ俺の・・・。」

「シカマル置き忘れて買いに行っちゃったから。でも意外ね、古書目録なんて。好きなの?」

「好きというか、何か面白くねーか?写本とか同じ内容のはずなのに印象違ったりするし。旧字とか草書体とか雰囲気が何とも言えない良い味出してるんだよ。」

「え?シカマルもなの!?古書って良いよね。私大好き!特に直筆の一点物とかの貴重本は図書館でもなかなか閲覧できないでしょ?だから目録とかで調べて自分で購入しないとあまり読めないのよね。」

「そうなんだよな〜。時々活字化して出版されたりするけど、余計な解釈とか入って面倒くせぇしな。」

「あ、分かる分かる。変に解釈されるよりそのまま読んだ方が却って良い時あるよね。」

それからサクラとシカマルの二人は古書の話題ですっかり盛り上がってしまった。

「そう言えばさ、シカマルは古書目録で何探してたの?」

 話が一段落着いた所で、サクラはシカマルに尋ねた。

「あー、知ってると思うが昔の兵法書に『風林火山』ってヤツあるだろ。それ探してるんだよ。部分部分を収録したヤツはアカデミーにもあるんだけどさ、全部揃ったのが見つからなくてよ。」

「・・・・・・。」

「まあ片っ端から載ってる本全部集めりゃその内コンプリート出来るんだろうけどさ、んな面倒くせーことはゴメンだし。」

「・・・あのさ、シカマル。」

「何だ?」

「多分それ家にあるよ・・・。」

「マジ・・・?」

「うん・・・。」

サクラからの思わぬ告白にしばし息を呑むシカマル。

「くれ!・・・じゃなくて、貸してくれないか、春野。」

詰め寄らんばかりの勢いで言うシカマルに対して、少々驚いた様子をサクラは見せた。それから何かを思案しているのか顎に人差し指を当てて小首を傾げて見せた。

「・・・別にあげてもいいよ。」

「本当か!?」

「うん、どうせ写本だし。それに内容は全部暗記しっちゃってるもの。」

「流石アカデミーペーパーテストナンバーワン。暗記はお得意ってやつか。」

「そういう嫌味な事を言われると何だか気が変わっちゃいそうだなぁ、私。」

「申し訳ございません、サクラさん。僕が悪かったです。」

若干棒読み加減でシカマルが謝罪の言葉を述べた。

「いいよ、あげるわ。・・・ただし、いくつか条件があるの。」

「条件?」

「それはね・・・。」

サクラはニッコリ笑うと条件について話し出した。

 

 

 

「つまり万一に備えて俺が日向のフォローしてやればいいんだな。」

「そう。ホラ、やっぱり友達なんだし応援してあげたいじゃない?ヒナタはナルトが好きらしいからさ。」

 大体の話を聞いた後、シカマルは確認の意味も込めて必要事項を口にする。サクラからは肯定の返事。しかし続くセリフに彼は思う。

(じゃあサスケといのの件はどうなんだよ・・・。)

サクラと彼の幼馴染である山中いのが親友からライバルになった経緯はシカマルも耳にしている。それにそもそもナルトはサクラのことが好きではなかっただろうか。

(だが下手な事言ってせっかくの取引が駄目になるのは御免だ。)

いろいろ思う所はあったが、シカマルは沈黙を選んだ。

「それで場所についてなんだけど、今、うちの里で一番桜が綺麗な所ってどこだと思う?」

「そういえば、花見には少し時期がずれたからな。今が見頃となると・・・。」

二人揃って頭をひねる。考えること約十秒。

『・・・鎮守の森の一本桜だ。』

奇しくも二人の出した答えは同じだった。

「え、シカマルも知ってたの?」

「そういう春野こそ。」

「私はアカデミーの図書館で古い冊子を見つけて。誰かの書いた個人的なレポートらしいんだけど、里の自然について書かれてたの。そこに一本桜のことも書いてあったのよ。でもアカデミーの先生に聞いてもみんな知らないって言うし。親も知らないって言ってたの。前にこっそり自分で行ってみたことがあるんだけど、あの木、里の他の桜より咲くの遅いのよね。それなのに、なかなか散らないの。不思議よね。だから本の通り、ご神木として祀られていたのかしら。」

「俺は親父に聞いた。あの桜の近くには薬になる植物が自生してるんだとさ。本来この辺りの土地にはないはずのものまで。昔何度か手伝わされたことがある。」

(本当はあの桜自体が薬物として利用できるんだが、それは奈良家[うち]の秘伝に関わるからな。)

最後の言葉は腹にしまって、シカマルは一人頷いた。

「じゃあ、シカマル。ヒナタのこと宜しくね!いのやネジさんが何か言っても教えちゃ駄目だからね!!」

「へいへい。」

 こうして一つの密約・・・もとい、契約を結んだサクラとシカマルは別れた。

 

 

 

 翌日、サクラに誘われたヒナタは弁当を抱えて立ち往生していた。実はヒナタは張り切りすぎて時間を忘れて料理を作ってしまったのである。その結果七班の集合時間に間に合わず、どこに行っていいのか分からない状況に陥ってしたのだ。そんな時である。

「おい、日向。そんな所でどうしたんだ?」

狙い済ましたかのようにシカマルが通りかかった。

「あ、あの、あの、その・・・。」

引っ込み思案で内気なヒナタはシカマルに話しかけられてもおろおろするばかりである。それでも根気強くヒナタを誘導する形で事情を聞きだしたシカマル。内心素晴らしく面倒臭いと感じていたが、全ては報酬のためである。

「ふ〜ん、成る程な。なら良い情報があるぜ。」

「え?」

「この時期一番花見に適した桜の場所は一つしかないからな。」

「ほ、本当・・・?」

「場所、教えてやろうか。」

シカマルの提案にヒナタは期待で瞳を輝かせた。

 

 

 

 この先のことは皆さんが知る通りです。ナルトたちと違って安全で確実なルートを教えられたヒナタは無事彼らと合流することができましたとさ。

 

 

 

 

 

めでたしめでたし

 

 

 

<後書き>

 まず初めに宣言します。これはシカサクではありません!!

 とりあえず宣言完了。水無月は基本的にサスサク推奨者です。サスケ里抜けの『ありがとう』に落とされた口です(笑) それまでは特に推奨CPなかったのですがね・・・。シカマルは中忍試験後半から自分の中で株が急上昇して今ではすっかりお気に入りキャラ。おたまじゃくし(音符)が分からなくても指の動きを見てカバー出来てしまうその洞察力が素敵☆

 

 

2005/03/28 UP