ロシアンルーレット

 

 

 

 

 

 今日は任務ではなく七班メンバーで演習の日であった。対峙するのはナルトとサクラ。サスケとカカシは横で見学である。ナルトは膨大なチャクラを武器にサクラに攻撃を仕掛ける。一方サクラもチャクラコントロールとその頭脳を武器に耐え凌ぐ。

「結構サクラも頑張ってるねえ。」

「・・・。」

粘るサクラに感心したかのようにコメントを述べるカカシ。サスケは無言のままである。サクラ自身が独自に修行に励んだ結果か、かつてとは比較にならないほど戦闘能力が向上していた。少なくとも、ナルトに打ち負けない程度には。しかしサクラの方はどうも決定打に欠ける。このままではズルズルと体力を削り取られて最後には動けなくなるだろう。それは見ているカカシやサスケ、そして戦っているサクラ自身にも分かっていることだった。

「ちょっとナルト!本気出しなさいよ!?」

「サクラちゃん・・・!?」

普段のサクラからは考えられない挑発である。確かにナルトは本気を出していなかった。もちろん、手を抜いている訳ではない。ただ、螺旋丸といった危険な技を使用していないだけだ。相手が少女、しかも自分が好きな女の子となれば食らえば大怪我必至の技を繰り出すことは難しい。

「それでも忍なの?任務に命を懸ける立場に立つ者なの!?・・・これ以上手を抜く真似したら私はあんたを軽蔑する!それにそんな奴に火影になってもらいたくないわ!!」

「さ、サクラちゃん・・・。」

ナルトとサクラ、二人の視線が交錯する。

「分かったってばよ、サクラちゃん。」

驚いていたナルトの表情が一転して真剣なものに変わる。そしてチャクラを練り上げ印を組んだ。

「・・・口寄せの術!」

ドロン

 ナルトの声と同時に煙のようなものと地響きがその場に出現した。その圧倒的な存在感はガマの親分こと蝦蟇ブン太である。

「蝦蟇の親ビン、やるってばよ!」

ナルトはブン太の上で言った。一方サクラは初めて見るその存在に唖然とした。

(うわ〜、大きい・・・。)

口には出さないがこのようなものを呼び出すことのできるナルトに感心した。

「やるわね、ナルト。でも負けないんだから!」

そう宣言してサクラもチャクラを練り上げた。

「・・・口寄せの術!」

印を組んでサクラもまた口寄せの術を発動させる。さて、彼女が呼び出したものとは・・・?

 

 

 

 煙が晴れて、姿を現したのは一人の少年だった。お世辞にも良いとは言えない顔色と目つきに赤い髪。そして何より背中に負った巨大な瓢箪

「ここはどこだ?」

『砂の我愛羅ぁあああああ!?』

ナルト・サスケ・カカシが絶叫する。そう、サクラが口寄せで呼んでしまったのは本来砂の里にいるはずの砂の我愛羅だった。しかも何故か千歳飴を口にしている。

「な、ななな何でお前がここにいるかってばよ!」

慌てたナルトがブン太から飛び降りて我愛羅の元へ向かう。

「うずまきナルト・・・?」

かつて中忍試験で対決したナルトの出現に疑問を覚える我愛羅。そもそもここがどこなのかも彼には分かっていなかった。そして我らが七班の面々もやはり混乱していた。

(何でこんな所にこいつが・・・?)

と思うサスケ。

(もしかしなくても口寄せ失敗!?)

と思うサクラ。

(というか口寄せの術で出てくるものなのか?)

と思うカカシ。

(それよりも何で千歳飴なんか持ってるんだってばよ?)

と思うナルト。

「おい・・・。」

 反応のない四人に次第に不機嫌になっていく我愛羅。このまま彼に暴れられては木の葉の里は壊滅の危機に陥るかもしれない。それを逸早く察したカカシが説明の為に口を開いた。上手く説明できるかは自分でもよく分かっていない事態なので確信を持てないのが痛かった。

「え〜と、とりあえず木の葉の演習場?」

「・・・何だと!?」

我愛羅の不機嫌数値がいきなり跳ね上がった気がした。しかし怒られてもこちらだって困るのである。

「いや、こっちもよく分かんないんだけどね。多分口寄せの術のせいで――――――。」

詰め寄ってくる我愛羅をかわしつつ、カカシがチラリとサクラの方に視線をやると、彼女は何やら再び印を組んでチャクラを練り上げていた。これに慌てたのはカカシである。

「・・・て、サクラお前何してる!」

「何って・・・。口寄せ失敗したみたいだからやり直すのよ。」

平然とそう答えるサクラ。

「いや、お前のは口寄せというより・・・。」

「・・・口寄せの術!」

カカシの制止を振り切りサクラは再び術を発動させた。

 

 

ボワン

 そんな音と共に現れたのは黒い髪、黒い瞳。そしてカカシとナルトには顔見知りであり、サスケには忘れようとしても忘れられない男の姿であった。

「ん?鬼鮫はどうした。俺は確か甘味処に居たはずなのに・・・。」

『う、うちはイタチぃいいいいいいいい!?』

またもや七班男三人の絶叫が響く。今度はサスケの兄であり一族の仇、そして木の葉の抜け忍でもあるうちはイタチを呼び出してしまったようだ。その片手には食べかけの三色団子があり、先程まで彼の居た場所を堂々と主張していた。

「な、何でてめぇがここに!?」

「サスケー!落ち着けってばよー!」

今にもイタチに襲い掛かりそうなサスケを後ろから羽交い絞めにして懸命に食い止めるナルト。

「サスケ?それにカカシさんにナルト君も・・・。」

イタチがカカシを見遣る。そして話題に取り残されかけた我愛羅も。

「いや〜、何かサクラの奴が口寄せの術したらあんたらが出てきちゃったみたいよ?はっはっは。」

笑い事ではないのだが、笑って誤魔化してみるカカシ。あんたはそれでも元暗部の上忍か?実に頼りない(まあ、それもいつものことか)回答をしてくれる。

「サクラ?」

「ああ、そこの女の子だよ。」

眉を顰めるイタチにカカシが拳を口元に添えて何やらブツブツ言っているピンク色の髪をした少女を示す。

「この少女が・・・!?」

驚愕してサクラを凝視するイタチ。しかしサクラは全くその視線に気づかない。彼女の頭の中では

(チッ、また失敗だわ。)

と内なるサクラが舌打ちしていたのだ。周囲の混乱に気づいてもいない。

「・・・君!」

「・・・はい?」

 何やらサクラを見て考えていたイタチが突然彼女の手を両手で包み込むと呼びかけた。思考を強制的に中断されたサクラは一瞬不機嫌になるが、敢えてそれは顔に出さずイタチに顔を向ける。サスケに似た顔立ちにトキめくかとも思われたが、サクラはそういった反応を示さなかった。乙女のメルヘンとは難しい。

「何ですか・・・?」

じっとこちらを見続けて何も言わないイタチを不審に思うサクラ。そして、とうとうイタチは言った。

「うちの組織(暁)に来ないか!?」

爆弾発言だった。

スカウトしてるー!?】

ナルト・サスケ・カカシは今度は心の中で絶叫した。そんな男達の動揺なんて露知らず、サクラは首を傾げるばかりだ。

「何かよくわからないんですけど・・・。」

とりあえずサクラはイタチの手を振り解いた。

(とにかくもう一回やろう。今度こそ成功させなきゃ・・・。)

そう考えて三度チャクラを練るサクラ。そして嫌な予感がする七班の男達。

「・・・口寄せの術!」

サクラが印を組んで術を発動させた。

 

 

ボワワン

 次に出てきたものは一人ではなかった。二人の、本来この里にいるはずのない人物である。そしてナルトもサスケもカカシもそしてサクラも面識のあった存在である。しかし彼らはこの里に、いや、むしろこの世界居るはずのない存在であった。それを目にしたナルトたちは顔面蒼白にして、眼球が飛び出そうなくらい驚きで目を見開いてしまった。

再不斬ぁあああああああ!?」

と叫んだのはカカシ。

ぅうううううううう!?」

と叫んだのはサスケ。

「し、死人だってばよぉおおおおおおお!?」

と叫んだのはナルトだった。

 現場は混乱の坩堝に叩き落された。完全にパニックを起こすナルトとサスケ、そして動揺を必死で押さえ込もうとするカカシ。事情が分からずリアクションに困る我愛羅とイタチ。さらに呼び出されたものより口寄せが失敗したことを悔しがるサクラ。一方再不斬と白は血みどろで五体不満足という状況ではないにしろ、特に何か話すわけでも動くわけでもなく呆然と立ち尽くしていた。意思があるか否かも現時点では確認できない。それにしてもサクラが使った術は口寄せの術ではないかもしれないとそろそろ本人達も気づいて欲しいのだが、ナルト達は混乱から抜け出せていないし、サクラはどうして自分の術が成功しないかということで思考の迷宮に入り込んでいた。誰か突っ込んでください、この状況に・・・と切に思うのだが、残念ながらそんな奇特な人物は都合よくこの場に通りかかったりはしなかった。

 

 

「くっ、もう一度・・・!」

 サクラが四度印を組みチャクラを練り上げ始める。しかしナルトはそのことに気づいていないし、ブン太と我愛羅は傍目には愉快な様子で混乱しているナルトを眺めている。サスケは度重なる衝撃で脳機能が停止しかけていたし、イタチはサクラの動きに注目していた。再不斬と白は何もしていないが周囲には何となくおどろおどろしい雰囲気が漂ってきている。唯一そのことに気づいたカカシが彼女を止めようとしたが手遅れだった。

「もう止めろ!サクラー!!」

「・・・口寄せの術!」

ボン

「あれ・・・?僕は一体・・・。」

次に呼び出されたのは青年だった。どこかおっとりとした雰囲気を持った優しさと厳しさを併せ持つ青年。その青年の声を耳にした瞬間、カカシは戦慄した。

「!・・・カカシ?」

「よ、四代目・・・。」

そう、この青年は死んだはず四代目火影その人であった。呆然と立ちすくむカカシ。そして彼の顔を知るイタチも目を丸くする。もはや木の葉の演習場は人外魔境現出していた。

「・・・こ、今度こそ!」

止める者がいない中で、サクラは五度目の印を組む。チャクラを練り上げ術を発動させた。

「・・・口寄せの術!」

『!?』

 

 

彼女が何を呼び出したかは神のみぞ知る・・・。

 

 

 

 

 

終わり?

 

 

 

<後書き>

 これ結構昔に作ったネタだったのですが、サクラちゃんの誕生日企画に引っ張り出してみました。サクラ最強説を設定の基盤に置いたギャグです。本当はこの後の展開も書いてあったのですが、オリキャラさんが出てきてしまうのでカットしちゃいました。このオリキャラさんがもし日の目を見るようなことがあったら続きをくっつけてみようかと思います。とにかく、春野サクラ嬢お誕生日おめでとう!

 

 なお、ロシアンルーレットはリボルバー式拳銃に一発だけ弾を込め(一発だけではない場合もある)弾奏を回転させて、弾が次に出るか否かを確認しないまま自分のコメカミを撃つという命懸けの度胸試しの方法として有名です。

 

 

2005/03/28 UP