読む上での諸注意
*クラピカとの対決については一先ず保留にします(激原作逆行←笑)
*クロロは普通に念能力が使えます
*多分登場人物は皆性格が別人もいい所です(死)





01:ごめん
〜堕天使讃歌・1〜







『ノストラードファミリー専属の占い師がいなくなった。』
 そんな噂をクロロ=ルシルフルが聞いたのは一仕事終え、一週間程スケジュールが空くことが発覚し たある日のことだった。
(ノストラード?)
どこかで聞いたことがあるような響きに、クロロは口に運ぼうとしたカクテルグラスを途中で止めた。 琥珀色の液体が表面を波立たせている。急に動きを止めたせいだろうか。薄暗いバーの片隅で、それで も裏稼業に身をおく彼にとっては一般人より優れた聴力が何気ない噂話を捕らえる。まあ、元々堅気で ない人々も多く訪れるような店ではあったけれど。
(確かノストラードって・・・。)
ヨークシンで闇オークションを襲撃した際に、そんな名前を聞かなかっただろうか。クロロの脳裏に一 人の少女の顔がふと浮かび上がる。
(ああ、あの子か・・・。)
少女の顔と名前を思い出して、クロロは息を吐く。少女の名はネオン=ノストラード。『 天使の自動筆記

ラブリー・ゴーストライター
』という予言念能力を持っていた人物だ。そしてクロロの『 盗賊の極意スキル・ハンター 』という能力により念能力を盗まれた人物でもある。彼女の予言は的中率がほぼ100%であった。何 故「ほぼ」なのかというと、一ヶ月を詩という形で紡ぐ予言は回避する可能性を与えており、その予言 の忠告に従い、それによって危険を回避した人物もいるので、結果としてその時記した予言が外れるこ とになるので「ほぼ」なのである。
(今頃、どうしているんだろうね。)
念能力を失った少女。まさかそれが最後に占った自分のせいだなんて夢にも思っていないだろう。ピン クの髪に18という年齢の割には童顔で、どこか独特のテンポの持ち主だった。一見可憐な美少女が人 体収集家だなんて、初見で見当のつく人間がどれくらいいるのだろう。
(ファッションセンスもちょっと面白い子だったよな〜。)
甘やかされて育った金持ちのお嬢様なせいか、単に性格が変なのか、 我儘[わがまま] で、でもどこか憎めない少女だった。もしかしたら自分が彼女の予言と言葉に慰められたからかもしれ ない。占いは生きている人間のためにあるものだと語った少女。彼女の能力はとても利用価値があるも のだから、できれば長生きしてもらいたい。元の能力者が死ぬとクロロが盗んだ能力も消えてしまうか ら。
(でも、君は俺が優しく殺してあげてもいい・・・かな。)
いつか彼女の能力が必要なくなったら、慰めてくれたお礼に綺麗に殺してあげてもいいかもしれない。 そんな夢想をクロロは抱く。痛くないように苦しまないように、人形のようなその外見が損なわれない ような殺し方。想像してみたらちょっと楽しくなってきて、クロロは口の端を上げる。
(ああ、でもそれはちょっと惜しいかもしれない。)
小動物のような無邪気な言動が似合った少女。意外に思えることもある感性と発想。話を聞いていて興 味深かった彼女だから、その話を聞けなくなるかと思うと少し勿体無いような気もした。
「まあ、いいか。」
どうせ二度と会うこともないだろう。もしかしたら道で擦れ違う位の可能性はあるのかもしれないけれ ど。そう結論付けたクロロは改めてグラスを口に運んだ。



 そう、二度と会うことはない・・・そう思っていたのだ。クロロ=ルシルフルはネオン=ノストラー ドに。利用する存在でありながら、珍しく好感を覚えた不思議な少女に対して。







バチャンッ ドボン ゴボゴボゴボ・・・

 バスルームのシャワーの音に混じって、突然派手な音がクロロの耳に入ってきた。一週間の急にでき た休暇を過ごすために、急遽泊まることにしたウィークリーマンションならぬウィークリーホテル。部 屋のランクは中の上。バスルームとトイレがバラバラの個室というホテルの中では珍しいのかもしれな い部屋構成で、ベッドはダブル、テレビ・ソファーあり、冷蔵庫・キッチン付。ホテルなのに特大ワン ルームマンションのようにも思える一室である。
「・・・ぷはぁ!・・・うくっ・・・ゴホゴホゴホッ!」
この部屋はクロロが気まぐれに取ったもので、当然クロロがいるバスルームにも彼以外いるはずがなく て、ついでに言ってしまえば、仮にも指名手配犯であるから刺客ならまだ可能性があるかもしれないけ れど、決してピンクの長い髪の少女が服を着たまま 浴槽[よくそう] で溺れかけていたということはありえないはずである。しかも唐突に。
「・・・ああ、死ぬかと思った。」
かなり疲れた声音で体勢を起こした少女は水面から顔を出しぐったりとする。浴槽に頭から突っ込んだ せいだろうか。風呂に入って窒息死(未遂)というのもなかなか珍しい経験ではないだろうか。
「・・・。」
その一方でクロロは絶句していた。いや、そうせざるをえなかったと言った方が正しい。何故とかどう してだとか、そういった疑問詞がクロロの頭の中を駆け回っている。自分がバスルームに入った時、確 かにそこには誰もいなかった。換気扇はある。窓もある。格子が嵌っている訳ではないが、三十階建の 建物の二十五階である。こんな何の訓練も受けていないはずの少女が侵入できる手立てはない。まして やバスルームに隠し扉があったわけでもなかった。
「う〜。」
妙に可愛らしい唸り声を上げて、少女は俯かせていた頭を上げる。クロロは身体が硬直してしまったよ うに動けない。彼の視線は音がした時から彼女に固定されたままである。出しっ放しになったシャワー の湯がクロロの髪や肌を濡らしていた。
「・・・あ。クロロさんだ。久し振り〜。」
クロロの存在を認めた少女がヘラリとした顔で笑う。おまけに手まで振ってきた。
「ね、ネオン・・・ちゃん?」
もう二度と会うことはないと思った、つい数時間前に顔や言動を思い返した相手である当の少女が何故 こんな所にいるのだろうか。とりあえず、舌に乗せた彼女の名前は随分と情けない音でバスルームに響 いた。





「でも、何でクロロさん、こんな所にいるの?」
 それはこっちのセリフだとツッコミを入れたいが、言った所で相手がネオンの場合あっさりと流され そうな予感がヒシヒシとしたので、グッと我慢する。クロロ=ルシルフル、二十六歳、男。大人は時と して達観してないとやっていけないこともある。
(とりあえず、どうしよう・・・。)
バスルームでシャワーを浴びていたら顔見知りの少女が入ってきた。端的に状況を述べるならこんな感 じになるのだろうか。どこぞのラブコメだとクロロは自嘲したい気分になる。しかし出現の仕方が密室 となるとまるで三文ミステリーだ。クロロは考える。
(彼女が自力でここに来たとは思えない。)
かと言って何かが近づくような気配はなかった。それこそネオンの出現はあたかも瞬間移動したような 現れ方である。
(まさか念能力・・・か?)
例えば何者かに襲撃されて、彼女のボディーガードの誰かがここへ飛ばした。
(瞬間移動の能力か・・・ちょっと欲しいな。)
長距離移動が一瞬で可能な能力だったら便利かもしれない。
(でも、何で出現先がホテルのバスルーム?)
もし出現条件がこういう所にしか出れないというようなものだったら結構嫌な能力である。もっと考え て能力を創れ言いたい。
「クロロさん?クロロさーん。もしもーし。」
何やら自分の世界に入り込んでしまったクロロはネオンの呼びかけにも気づかない。
(いや、そもそも彼女がここに現れたのは単なる偶然か?)
様々な修羅場を潜り、色々な念能力も見てきた彼としては、第六感が告げるのか、ネオンのことが何か 引っかかる。彼女がどういった経緯でここにきたか、つまり自分の元に飛ばされる直前までどういった 状況にあったのかを知る必要がある。クロロはそう感じた。
「あ、クロロさん結構身体綺麗だね。服着てた時は分かんなかったよ。」
無反応なクロロに暇になったのか、ネオンはクロロの観察を始めたようである。
「私的にコレクションするなら、もうちょっと首から肩のラインが滑らかな方が好きかな〜。身体全体 のバランスが絶妙な人ってあんまりいないから、全身状態のって持ってないんだよね。足とか手とか、 部分的なのはあるけど。」
何気にクロロを物色しているネオン。ある意味お互い様だが、なかなか危険思想である。
「そういえば、クロロさん何で裸・・・。」
「あ・・・。」
 急に尻つぼみに止まったネオンの言葉とクロロが我に返ったのはほぼ同時だった。ネオンの視線がク ロロの[あご]の辺りから徐々に下降していき、 [へそ]から幾分か下の部分で止まった。そう、 言うなれば空気が凍ったか石化したとでも例えられるだろうか。何となく、コキンとかビキッとかそん な擬音語が聞こえてきそうな状況である。
「え、えーと・・・。」
現状を冷静に考えると随分とまずいのではなかろうか。そんな考えが彼の脳裏を過ぎ去る。自分の身体 のとある部分を凝視したまま固まってしまっているネオンの状態に何やら嫌な予感がした。声をかける べきか否か。かけても無反応のような気もするが。シャワーの湯に混じって、嫌な感じのする汗が背中 を伝い落ちていく気がする。
(こ、これは・・・。)
クロロ自身うっかり失念していたことだが、ここはバスルームであり、彼は入浴するために浴槽で湯を 張っていて、そして現在はシャワーを浴びている最中だったりする。さらに突然姿を現した珍客(?) は腐っても年頃の女性。例え、多少世間一般様からずれた感性の持ち主であろうとも、立派に少女であ る。ここまでくればお分かりであろう。この状況下で続いて起こることは恐らく一つしかあるまい。
・・・き、きゃあああああああああああああ!?
「うわ!?」
目を[つぶ]って力一杯悲鳴を上げるネオン。 鼓膜がおかしくなりそうな位の音量で声の響くバスルームにあり、咄嗟に自分の耳を塞いだ自らの勘と 反射神経にクロロは珍しく感謝していた。





 変態だ痴漢だ馬鹿だ最低だと喚くネオンを何とか説得して、クロロがようやくバスルームから抜け出 せたのは、彼女が悲鳴を上げてから十分近く経ってからのことだった。その間、シャワーは出しっ放し の上、ネオンは服どころか靴を履いた状態で湯船に浸かっている。最早張った湯に関しては使い物にな らないだろう。全くもって水の無駄遣いである。
「う〜・・・[さむ]っ。」
湯冷めを起こしそうな感覚にクロロは身震いした。
「ええと、タオルタオル・・・。」
一応ホテルなので、備え付けのバスタオルなるものがあったりする。しかも二枚あった。これは一週間 滞在することを想定した上での、ホテル側からの心配りの一環であるらしい。他にフェイスタオルとい った小さめのタオルが数点あった。ついでに言えば、バスローブも二点あったりする。都合の良いこと に男用と女用のサイズだ。旅館に良くあるどちらかサイズの合う浴衣をご利用くださいというパターン と似ているのかもしれない
(やれやれ・・・これからどうしたものかな。)
脱衣所兼洗面所でもあるスペースで思案しつつもクロロは手早く身体を拭くと元々用意してあった服に 着替えた。クロロはバスローブを滅多に利用しない。理由は動きづらいからである。
「ネオンちゃん、一応備え付けのバスローブあるから、とりあえず服脱いで着替えておくように。タオ ルも使ってないやつだから安心するといいよ。」
「・・・は〜い。」
クロロが声をかけるとバスルームへ入る扉の向こうからネオンの返事が届いた。ブラックジーンズと白 いワイシャツというカジュアルな格好になったクロロは、一先ずネオンが間違えないように使ったタオ ルを肩に掛けて脱衣所から出ることにする。
「ああ、そうそう。濡れたついでに身体洗っちゃってもいいからね。」
「・・・クロロさん、それセクハラっぽい!」
笑い混じりのネオンの声が扉を挟んで聞こえてくる。
「あはは、違うよ〜。」
かつて彼女と会った時使った好青年の仮面を被り、クロロはのん気な調子で答えてみせた。ただ彼女と いると、仮面のはずな態度もいつしか素のように思えてしまうような気がする。しかしそれはそれで面 白いとクロロは感じていた。
「じゃあ、俺は先に出るからね。」
「―――――――ロロさ・・・。」
そう言い残してクロロが脱衣所の扉を潜ろうとした時、扉の向こうで声がした。それは普通よりも小さ な声で、扉越しで辛うじて聞こえたのは、恐らく彼が一般人よりは聴力に優れていたせいか、もしくは 浴室への扉がきちんと閉まっていなかったかのせいだろう。
「―――――――ごめんね・・・。」
何に対しての謝罪かは、今は[うかが]い知る ことはできない。消え入りそうなネオンの声に、クロロは何と声をかけるべきか分からなかった。ただ 彼女に謝罪されたいとは思わなかった。少なくともあんないかにも負い目を感じていると伝わるような 声では。
「ネオンちゃん・・・何か聞こえた気がしたんだけど、何か言ったかな?」
だから聞こえていない振りをした。
「ううん、何でもない・・・よ。」
「そっか。じゃあ、風邪を引かないように髪もちゃんと拭くんだよ。」
それだけ声をかけて今度こそクロロは脱衣所を後にする。彼女の声はもう聞こえなかった。



to be continued・・・






<後書き>
 『HUNTER×HUNTER』の幻影旅団団長クロロ=ルシルフルとクラピカの雇い主でもあるマ フィアの娘ネオン=ノストラードというこれまた微妙な組み合わせであります。ちょっと某サイトのク ロネオ小説を読みまして、それに影響されて一気にガーッと書き上げた作品です。サブタイトルは『堕 天使讃歌』。ルシルフルの由来が堕天使ルシフェルという説があるそうで、そしてさらにネオンの念能 力の「天使の自動筆記」からこんなタイトルとなりました。
 お題の『聞こえた気がした5つの言葉』を使ってクロネオ書いてみたいと思います。まずは1の『ご めん』で実質的には「本当は聞こえていたけれど“聞こえた気がした”振りをした」ということになり ます。第一弾からこじ付け通り越して喧嘩売っているようなお題の使い方をしております(死)
 また余談になるのですが、クロロが飲んでいたカクテルはシルバー・ストリークがイメージです。自 分は飲んだことはありませんが、材料がドライジンとイエーガー・マイスターが全体の3:2と3:1 の配合になる代物だとか。因みに辛口だそうです。ジンはベースだし割とメジャーな名前のお酒ですの で、リキュール解説をば。

イエーガーマイスター(Jagermeister)*
アルコール度が35度でエキス分15.7%
ドイツ語で「ハンターの守護聖人」という意味。「ハンティングマスター」とも称される。
苦みと甘みが絶妙。56種類のハーブにフルーツ、草根木皮をブレンドした豊かなハーブの香りが特 徴。具体的に言うとアニス・ミントなど。素の色はダークレッド。

選んだ決め手は「ハンターの〜」という意味。だってH×Hだし(笑)・・・というかクロロが酒場に いたばかりにカクテルサイトをサーフィンしている自分って一体・・・(遠い目) そんな訳で上の 解説文もいくつかのカクテルサイトの解説を元にしたものです。



2006/08/01 UP