「お前が欲しい。」
「・・・て、シェゾはよく言うけどさ、自分が言われたらどう思うわけ?」
「は・・・?」
出会った頃は魔導力を巡ってバトルを繰り返していたが、最近では二人でまったりとすることも多くなったアルル・ナジャとシェゾ・ウィグィィ。今日は天気もいいのでアルルがシェゾを誘ってピクニックに来ていた。
『アレは誘うというよりは無理やり引きずり出したという感じですわ。』
二人の出掛けの様子を目撃したウィッチは後にそう語ったという。それはともかく、お昼も済んで二人でぼんやりと空を見上げていると、唐突にアルルがそう言った。
「だからさ、いつも言ってるじゃん。ちゃんと主語入れないと変態以外ナニモノでもない君のお決まりのセリフだよ。」
「誰が変態だ!?」
今ひとつ反応の悪いシェゾに今度はからかい混じりに言う。そうすると今度は脊椎反射のような反応が返ってきた。アルルは満足気にニマリと微笑む。
(くぅぅうう、これこれ、この反応!)
何とも堪忍袋の緒が切れやすいシェゾであったが、アルルは彼とのこういったやり取りを実は結構気に入っていた。
「それでさ、一体どうな訳?」
「知るか!・・・んな事、言われたこともないしな。」
今度は視線を空から地面に下ろしたシェゾを横目に眺め、アルルは再び口を開く。
「じゃあさ、誰にだったらそういう事言われてみたい?」
「はあ?」
アルルの言葉に不審そうな顔つきをするシェゾ。
「例えば〜、ルルーとかウィッチとかドラコとかハーピーとか・・・。」
指折り数えながら名前を挙げていくアルル。
「ラグナスとかインキュバスとかマミーとか・・・。」
「お、おい・・・?」
「象大魔王とかミノタウロスとか・・・。」
「あのな〜・・・。」
「えーと、後は・・・サタンとか?」
「ちょっと待てぇい!?」
「はい?」
気がつくとシェゾが立ち上がってこちらを見ていた。アルルは首を傾げて尋ねる。
「どうしたの、シェゾ?」
「他にもいろいろ気になる所はあったが、とりあえず何でそこでサタンが出て来る!?」
何やら顔色を変えているシェゾにアルルは平然とこう言った。
「や、だってさ。サタンって僕(女)やカー君(動物)が好きなんだし・・・。つまり、オール・オッケーな変態ってことでしょ?ならシェゾ(男)でも十分イケるって。」
「ふざけるな!」
血管が切れそうな勢いで怒鳴りつけるシェゾ。
「何?サタンじゃ不満なわけ・・・?」
「当たり前だ!!」
「むー、我儘な・・・。」
「お前の思考回路はどうなってるんだ!?」
頬を膨らませるアルルにシェゾは頭を抱えたくなってきた。そんなシェゾを横目に見て、アルルはふっと表情を変えた。どこか憂いを帯びた、通常の彼女では考えられない様子である。手を伸ばして躊躇って、泣きそうに切ない顔をして、また溜息。そして心を決めたのか、強い光を宿した瞳で、アルルはシェゾに話しかけた。
「ねえ、シェゾ・・・。」
「・・・何だ?」
「じゃあ、さ。僕が言ったら・・・どうする?」
「はぁ?」
アルルの言葉に怪訝そうな顔つきをするシェゾ。
「シェゾ、僕は・・・君が欲しい。」
二人の視線が絡まる。永遠と思えるような沈黙の果てに、吹いた風が梢を揺らした。
「・・・何の冗談だ?」
初めに口を開いたのはシェゾの方だった。対するアルルは無言、いや、無表情と言ってよかった。一瞬だけ瞳が哀しげに揺れ、次の瞬間、太陽のようにニッコリと笑った。
「よくわかったね、さっすがシェゾ!」
「! ふざけるな!?」
「それで、質問の答えは〜?」
「知るか!!」
そう叫ぶとシェゾはマントを翻して歩き出した。
「ちょっと、シェゾ。何処行くのさ?」
「不愉快だ!俺はもう帰る!!」
「ふ〜ん。じゃ、まったね〜★」
「チッ」
手を振るアルルに舌打ちして、シェゾはその場を立ち去った。シェゾの姿が完全に見えなくなると、アルルは仰向けになって空を見上げた。青い空、白い雲、今日は見るからに快晴で、絶好のピクニック日和だ。アルルは手のひらを太陽に掲げ、大きく息を吐き出した。
「結構本気だったんだけどな、僕。ね?カー君。」
「グ?」
自嘲気味に呟いて、アルルはいつも自分の側に居るカーバンクルを抱きしめた。少女の呟きは空気に溶けて、穏やかな風が緑を揺らしていた。
<後書き>
【NOT!】の青様の魔導物語小説を読んで突発的に思いついたお話です。水無月自身はぷよぷよシリーズしかやったことありませんが、とある漫画で見た短気でお間抜けなシェゾは好きです。美形なのに、本人真面目に生きてるだけなのに、何故か周囲に振り回され不幸風味(笑) 素敵だ・・・。とりあえず、シェゾ×アルルなイメージで。いや、むしろアルシェゾ?(爆) 脳内設定ではアルルは自分の恋心を自覚していますがシェゾはまだといった所でしょうか。相思相愛且ダークな話も書いてみたい気も・・・。