オレンジデイでいこう!

 

 

 

 

 

 バレンタインデーにアルルからチョコを貰った。・・・死ぬほど不味かった。何をどうしたらあんなものが作れるのか俺には見当もつかん。やはり理解不能だ、アルル・ナジャは。しかも噂ではラグナス(義理チョコ)が食べた際には、奴は泡を吹いて倒れたらしい。サタン(やはり義理)に至っては食中毒で入院したという。アルルの料理はカレー以外は殺人的だ。俺、よく無事だったな・・・ドラコが義理チョコの代わりだと言って寄越した胃薬のおかげか?(どうやらアルルのチョコを味見させられたらしいドラコはこれを食することになるであろう男性陣を気の毒に思い義理チョコの代わりに胃薬を配ることにしたようだ)

 因みにホワイトデーは忘れていた。三月に入ってからずっとダンジョン潜ってたんでな。帰ってきたのは・・・二十日くらいだった(当然自分の誕生日も忘れていた)。そして久々に会ったアルルに会ってその事を言ったら怒られた。聞かれたから素直に話しただけなのに、何で怒るんだ?ジュゲム食らわされたし。しかもそれからアルルが家に入れてくれなくなった。飯も食わせてくれないし、当然あっちの方もお預けだ。もちろん俺の家にも近づこうとしない。俺が一体何をしたって言うんだよ!無理に事を進めようとしたらカーバンクルがビームかましてきたし。おのれカー公・・・。

 

 

 

「それでそんなに不貞腐れてるんだ、シェゾは。」

 四月の初め。俺とラグナスは向かい合って一緒に食事を取っていた。いろいろと事情があって俺と奴はコンビを組んで仕事をすることが最近多い。正直気に食わないが・・・奴の剣術のセンスは認めてやらんでもない。そんな訳で仕事の相談がてら飯を食うこともままあるのだ。そうしたらラグナスが最近俺の剣が荒れているとか何とか言って、あれこれ聞いてきやがった。初めは無視していたんだが、奴がしつこいので一応思い当たる節を話してみた。するとラグナスは苦笑して俺の方を見てきた。何かムカつくぞ、その目。

「どういう意味だ・・・。」

「実年齢があれだから結構枯れてると思ってたんだけど、シェゾも案外普通の男だったんだなって話。」

「は?」

いきなり何を言い出しやがるんだ、こいつは。

「だってさ〜、それってアルルに触れないことが不満・・・というかストレスになってるんだろ?好きな子の側に居られなくて禁断症状起こしかけてる青少年みたいじゃないか。」

ストレス・・・?禁断症状・・・?青少年・・・?

「やっぱりさ〜、駄目だって分かってても好きな子には触ってみたくなるのが男の性ってやつだよね。」

勝手に一人で納得するラグナス。一緒に仕事をするようになって気づいたんだが、素のこいつは結構似非勇者だ。確かにお預けなのは大いに不満だが。

「だが、何故アルルの奴は怒っているんだ。そんなにホワイトデーのお返しの菓子が欲しかったのか?」

とりあえずあいつの怒りを鎮めないことには何も始まらない気がする。だが、俺にはアルルが何故あそこまで怒っているのかわからないし、ラグナスは悔しいがアルルと仲がいい。何と言っても変体勇者だ。お子様同士相通じるものがあるんだろう。

「・・・お前、もしかして、本当にそう思っているのか?」

俺の質問にラグナスは逆に質問で返してきた。何だか物凄く驚愕したという顔をしている。別に俺は変なことは言っていないはずだが・・・。

「そうだが、何か問題あるか。」

俺がそう答えるとラグナスは“駄目だ、こいつ”とでも言いたげに遠い目をしてくれた。この野郎、本気で不愉快だ。闇の剣で切り捨てるか?

「い、いいいいいや、何でもない・・・よ?」

首を横に振るラグナスの顔色が青ざめている気がするのは俺の気のせいだろうか。しかも目尻に涙が浮かんでいる気がするのは。眠いのか?(単にシェゾのオーラが半泣きになるくらい恐かっただけ)

「それで俺はどうすればいいと思う。何故怒っているかわからないが、アルルが話を聞こうとしないんで、それを聞き出すこともできない。」

「う〜ん、まともに会ってくれないんじゃ謝ることも難しいしね・・・。」

アルルはああ見えて結構頑固だ。一度こうと決めたら梃子でも動かない。まあ、説得して納得すれば割と素直に従ってくるのだが、な。ラグナスは腕を組み首を傾げて考え込んでいる。いけ好かないことには違いないが、奴みたいなのをお人好しと言うのだろう。自分で相談しといてなんだが、よく赤の他人のことに真剣になれるもんだ。こいつといいアルルといい俺には真似できん。

「―――――やっぱりイベント関連で怒っているならそれにかこつけて誘った方がいいかな。でもアルルの誕生日は七月だから遠いし・・・。」

ラグナスは何やらブツブツ言っている。俺はとりあえず食後のコーヒーを口に運んだ。でもそろそろ何とかしないと俺の方としてもいろいろと困るかもしれんな・・・。

「・・・なあ、シェゾ。オレンジデイって知っているか?」

「は?」

突然俺の方を真っ直ぐ見てラグナスが聞いてきた。オレンジデイ・・・?聞いたことはないが、何の話だ。

「その様子じゃ、知らないみたいだな。シェゾが知らないとなると、ひょっとしてこの世界にはない風習なのかもしれないな・・・。」

「だから、何のことだ。」

「ああ、俺が以前行った事のある世界での風習なんだが・・・そこではバレンタインと対になっている日がホワイトデーじゃなくて、そのオレンジデイなんだ。まあ、ホワイトデーの代わりかな。」

異世界の風習・・・ね。というかバレンタインとかあるんだな。

「それで、オレンジデイというのは、恋人同士がオレンジ色の物を交換し合って愛を確かめ合う日なんだってさ。」

「ゴフ!?」

俺はラグナスの言葉に思わずコーヒーを噴出してしまった。しかも気管に入ったらしくて、しばらくの間咳き込む羽目になる。

「大丈夫か、シェゾ?」

ラグナスが尋ねてくるが正直あまり大丈夫じゃない心境だった。

「因みに日付は四月十四日だ。アルル、結構イベントとか好きだし、仲直りの理由としてはいいチャンスじゃないか?」

ラグナスは人の良さそうな笑顔を向けてくれるが、俺にはそれが企み笑いのように見えてしまった。そんな俺の心情なんぞラグナスは露知らずで、奴は食事を終えた。

「ごちそうさまでした!」

お前、外の飯屋でそんな大声で言うなよ・・・。

 

 

 

「オレンジデイねえ・・・。」

 ラグナスと別れた後自宅に戻った俺は奴の言っていたことを考えていた。恋人云々はともかくとしてアルルもサタンと同様イベント系が好きだからな・・・。由来については適当に誤魔化して、バレンタインのお返しくらいはしてやるか。チョコ不味かったけど。ホワイトデーを忘れてたのは俺も悪いし。あいつお子様だから菓子とか絡むとすぐ拗ねるし。それに食い物の恨みは恐ろしいというからな。

「さて、何をやるか・・・。」

オレンジ色の物と言っても結構いろいろある。単純明快にオレンジそのもの、もしくは加工系柑橘類。食べ物系は割とあるな。ジュースにゼリーにケーキに・・・俺はあまり食わないが、アルルが店で食べているのは見たことがある。あと女が喜びそうなもんだと・・・花とかだよな。金木犀は時期が違うし、百合は夏が主だよな。マリーゴールド、ポット=マム、ガザニア・・・。ああ、分からん!オレンジオレンジオレンジ色・・・。

「あ。」

そう言えば・・・。俺は唐突に昔呼んだある文献のことを思い出した。確かあれには・・・。

「よし、それにするか。」

思い立ったら即行動。俺は急いで旅支度を整えると空間転移で一気に飛んだ。十四日までそう日がないからな。さっさとあれを手に入れないと・・・。

 

 

 

 さて、シェゾは一体何を思いついたのでしょう。彼が何を用意しようというのでしょうか。それで果たしてアルルの機嫌は直るのでしょうか、そして二人は無事仲直りできるのでしょうか。シェゾの健闘もラグナスの心配もアルルは露知らず、運命の四月十四日はやってきます。

 

 

 

 

 

 

 

 四月十四日、ラグナス曰くオレンジデイ当日。俺はアルルの家の近くまで来ていた。ううう・・・来たは良いがどうするんだ、俺?アルルはまだ怒っているかもしれんし、会ってくれるかわからんぞ。ドアを開けた途端ジュゲムとかは流石に・・・。でもここに来る途中で会ったラグナスに励まされた手前、いい加減アルルと和解しないとあいつに借りを作ったようで癪だ。だが、どうするんだ・・・。情けない話だが、どうにも後一歩が踏み出せない状況の中で、俺は悩んでいた、そんな時である。

「サタンの馬鹿!出てってよ!ジュゲム!!」

「グー!」

「カーバンクルちゃ〜ん!アルル〜!」

ドカーン

突然、アルルの家の屋根が吹き飛び、中から黒くて緑っぽい物体が飛び出していった。否、ぶっ飛んでいったと言った方がいいかもしれない。どうやらサタンがいつものようにアルルのジュゲムとカーバンクルビームの餌食になったらしい。う〜む、今は近づかない方が良さそうだな。アルルの機嫌も良くないだろうし。まだ時間はあるんだ。今日中に渡せば何とかなるだろう。そう思った俺はその場から速やかに立ち去ろうとした。ところが、だ。

「グー!」

「うお!?」

いきなり頭の上にカーバンクルの奴が飛び乗ってきやがったんだ。

「グー!ググー!グーグググ!」

「だー!カー公いきなり何しやがる!?」

俺は慌ててカーバンクルを引き離そうとしたんだが、カーバンクルは反って暴れ出す始末だ。急いで逃げないとアルルがこっちに来ちまうだろうが!

「離れろ!」

「グー!」

「カー君、いきなり走り出してどうしたの・・・て、シェゾ?」

お、遅かったか・・・。カーバンクルを追ってきたアルルは俺の姿を見つけてキョトンとした表情を浮かべた。こうして、俺は久々にまともにアルルと顔を合わせることになる。頭の上にカーバンクルを乗っけた状態で。

 

 

 

「まあ、とりあえず座りなよ。」

「あ、ああ・・・。」

 アルルに勧められて俺は椅子に腰掛けた。もちろんアルルの家の、である。天井を見上げればくっきりとサタンが飛ばされていった穴が開いていた。

「それで、ケーキ何?」

「オレンジシフォンだ。」

「じゃあ、シェゾも紅茶でいいかな。」

「ああ、構わない。」

アルルが茶を入れるためにキッチンスペースへ姿を消す。

「ぐ〜。」

「もう少し待っていろ、カー公。」

カーバンクルは俺の膝の上にいた。お互い不本意だが、油断すると茶が用意できる前にこいつがケーキを食い荒らしかねないんで、こうして俺が捕まえている。そもそもこいつが始め俺の方にやってきたのも何か美味そうな匂いがしたかららしい。その発生源は俺が手土産として持ってきたケーキだった。何て食い意地が張った生き物なんだ、この軟体動物は・・・。知ってはいたが、改めて思わされる。

「お茶入ったよ〜。」

 少し経って、アルルが紅茶と切り分けたシフォンケーキをトレーに載せて戻ってきた。カーバンクルが俺の膝から飛び降りてアルルに駆け寄る。

「カー君の分はあっち。サタンが持ってきたおやつもあるから好きに食べていいよ。」

「グー!」

カーバンクルはアルルが示した方向に一目散に走っていった。流石に食べることになると行動が早い。

「はい、シェゾも。」

「ああ・・・。」

俺はアルルからカップと皿を受け取る。それにしても、困った。何を言って良いのかさっぱり分からんぞ。とりあえずアルルは手土産が功を奏したのかそれ程態度が険悪じゃない。うまくいけばこのままお茶を濁せるかもしれん。少しそんな希望的観測が頭を過ぎったが、世の中そう上手くいかないらしい。第一上手くいっているなら俺はとっくの昔にアルルの魔導力を手に入れているだろうし、そもそもルーンロードの阿呆に出会わず、退屈だが平和な一生を過ごしていたことだろう。そんな訳でアルルが話しかけてきた。

「でも珍しいよね、シェゾがケーキ買ってくるなんて。」

「そうか?」

「そうだよ。」

まあ、その通りだな。食べれないわけじゃないが甘いものは普段口にしない。少しなら構わないがバクバク食べるのは俺の好む所ではないからな。ケーキバイキングなんて想像するだけで甘ったるくて吐き気がする。実際俺が買ってきたこのケーキも甘さ控えめだ。

「どうしちゃったの、本当に・・・。」

アルルがじっと俺を見つめてくる。しかし、まさかご機嫌伺いの為にとか答えられんだろう、普通。いくらなんでも俺のプライドに関わる。闇の魔導師としてというよりは男としてのプライドだ。とは言え黙っていては情況が好転しないもまた事実。さて、どうしたものか・・・。よし。

「アルル、これをやる。」

 俺はポケット中にしまってあった物を取り出した。それはオレンジ色をした石が嵌った指輪である。それをアルルに放り投げた。

「わっ・・・と。シェゾ・・・これは?」

アルルがちゃんと受け止めたことを確認して俺は言った。

「この前行った遺跡で見つけたものだ。魔導力もないが変な罠もない。いたって普通の石だ。まあ、一種の土産だと思え。」

「へ〜。」

アルルが感心したように指輪を眺める。

「これ、何の石?」

「アゲート。瑪瑙(めのう)のことだ。」

アルルは“アゲート”という呼び名にピンと来なかったようなので、俺は言い直した。そう、俺が昔見た文献にはある地方がかつて瑪瑙の産地であり、ある遺跡では瑪瑙の取れる場所を聖地として祀っていたという記述があった。分かりやすく言うと鉱山を神とし、鉱脈から取れる鉱石を神からの授かりものとする思想のようだ。その遺跡から取れる橙色の瑪瑙は持ち主に幸運をもたらすという伝説まであったらしい。そのことを思い出した俺はすぐさま遺跡のある地域に飛んだ。もちろん寂れて久しい遺跡なんで普通にモンスターの住処と化していたが。俺はそこで石を発掘すると、ある街でそれを指輪の形に加工してもらった。もちろんアルルのサイズに合うように、だ。それも俺達が住んでいる地域からかなり離れた街でだ。何故かといえば地元だと足が着くからである。この俺がアルルのためにわざわざ指輪を用意したなんて知れてみろ。全く、どんなことになるか考えたくもねえ。その為に指輪の台座部分だって同時代の別の遺跡から発掘されたものを再加工する形にしたんだからな。因みにそっちについていた石は売り飛ばした。

「うわ〜、綺麗だね〜。ボク、オレンジの瑪瑙なんて初めて見たよ。」

 アルルが石を眺めて瞳を輝かしている。酷く嬉しそうなその表情に、不覚にも俺は口元が緩みそうになってしまった。

「でも、何でシェゾこんな物くれるの?」

「う・・・。」

け、結局その話題に戻るのか・・・。

「普段ならちょっとでもお金になりそうなものは売り飛ばしちゃうじゃない。石の価値はよく分からないけど、指輪の細工綺麗だし、アンティークとか好きな人には受けるんじゃないの?」

「き、気に入らないのか・・・?」

「ううん、そんなこと無い。ボクは好きだよ、こういうの。」

とりあえずアルルの答えに胸を撫で下ろす。気に入らないものを渡してはプレゼントなんてものの価値は半減する。

「ねえ、どうして?」

再びアルルが問いかけてくる。こいつの瞳から何故か眼を逸らすのは難しい。アルルの眼差しに晒されると何故か誤魔化したりすることが苦痛になる。それが何故かは分からないが・・・。

「―――――ラグナスの奴に聞いたんだが・・・。」

「・・・ラグナスがどうかしたの?」

「今日はオレンジデイと言うらしい。」

「は?」

アルルは俺の言葉に鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしてくれる。

「異世界ではホワイトデーがない代わりに今日がバレンタインの対になる日なんだとさ。」

「へ?」

「その日は知人同士がオレンジ色の物を交換し合うそうだ。」

流石にバレンタインで結ばれた恋人同士が愛を確かめ合う為に行う行為とは言えない。そんなことをしたら俺は憤死してしまうかもしれない。そんな恥ずかしい真似は絶対できん。

「え、え〜と、つまり友達同士が友情を確かめ合う日・・・?」

まあ、そういう解釈の仕方もできるな。そもそもバレンタインの風習自体地域差があり、家族や友人で交換し合うこともある。その場合はチョコというよりはグリーティングカードの方がメインのようだが。

「だからケーキもオレンジシフォンなんだ・・・。」

そう言ってアルルが一人頷いた。どうやら納得してくれたらしい。

「・・・ホワイトデー、忘れて悪かったな。」

俺がポツリとそう伝えると、アルルはいつものような笑顔を俺に向けた。

「いいよ、もう。反省してるみたいだし、何よりこんな綺麗なものくれたんだし・・・ね。」

アルルは指輪を弄んでいた。そしてスッと指に嵌める。

「うわ、すっごい偶然だね。サイズぴったり。」

「そうか。」

「うん、ありがとうシェゾ。」

正直照れくさいがアルルも喜んでいることだし、まあいいだろう。

「あ!」

「どうした。」

「オレンジデイって物交換し合うんでしょ?ボク何も持ってないよ。オレンジの物なんて。」

「別に俺はいい。」

「駄目だよ!ケーキも指輪も貰っておいてボクは何もしないなんて。オレンジ、オレンジ・・・カー君?」

確かにカーバンクルの色は黄色とオレンジの中間色だが・・・。

「いらんぞ、カー公は。」

「ははは、だよねえ・・・。」

カーバンクルを貰って喜ぶのはサタンくらいのものだろう。

「でもやっぱり何かあげないとボクが気がすまないよ。」

「じゃあ、お・・・。」

「魔導力は却下ね。第一オレンジ色じゃないし。」

まだ何も言ってなかったんだが・・・。

「今あるのだとボクの食べかけのオレンジシフォンくらいしかないし・・・。」

アルルは困ったらしく悩みこんでしまった。別に悩ませる気はなかったんだが。俺の為に考えてくれる気持ちは嬉しくなくもないが・・・。第一ホワイトデーのお返しというのも兼ねてるんだから、アルルが無理に何か寄越す必要はないだろうに。考えが煮詰まったのかアルルはモヒモヒという感じにケーキを食べるのを再開する。

「ねえ、シェゾ。」

「何だ、アルル。せっかく買ってきたんだからケーキは最後まで食べろよ。」

「うん、それは分かってる。」

じゃあ、何だと言うんだ。

「シェゾ、何か心当たりない?オレンジに関係することで今すぐボクに出来ること。」

それを聞くか・・・。今すぐ・・・となると、商店街でジュース買ってくるとかか?でも俺はオレンジジュースよりはコーヒーの方が好みだし、アルルだってそれは分かっているはずだ。

「ねえ、何かない?」

アルルが俺を見つめる。何もそんな真剣な顔をしなくてもいいだろう。俺は考える振りをしてアルルの様子を観察した。お、唇にケーキの欠片がついてるぞ。気づいてないのか。

「・・・おい、アルル。」

「何?」

「ちょっと、こっちに来い。」

俺がアルルを手招きするとテーブルを挟んで向かい側にいたアルルがこっちのソファーまでやってきた。そして俺の隣に腰を下ろす。

「何か良い考え浮かんだ?」

「まあな。」

「何何?」

アルルが期待一杯の顔で俺に接近する。

「これで勘弁してやる、よ。」

「へ?・・・んん!?」

俺は素早くアルルの唇に自分のそれを重ねる。さらに頭を固定してより深いものにした。アルルは相当油断していたらしく、俺の舌の侵入をあっさり許した。そのまま口内を蹂躙し、舌を絡める。久し振りにするアルルとの口付けはオレンジシフォンの味がした。

 

 

 

 後日、ラグナスの馬鹿の口から本当のオレンジデイの内容がアルルにばれて、いろいろと問い詰められたのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

<後書き>

 今回のコンセプトはラグナスとの友情と朴念仁なシェゾです。シェアルラグな三角関係というか、アルルには優しいけどシェゾには厳しいラグナスという認識の方も結構多い気がするのですが、水無月はシェゾと仲良しなラグナスも割と好きです。でも親友とかって訳じゃなくて、『女にはわからない男の事』で理解し合っている感じ。このラグナスはシェゾもアルルも結構気に入っているので二人が上手くいくようアドバイスしてくれます。最近ラグナスの出番が多いのは何となく奴が書きやすいからです。もしくはツッコミ要員の都合。

 それからオレンジデイというのは実際にある風習です。メジャーじゃないですけど。しかもこれもまた諸説あるんです。日にちが違っていたり、風習や根拠が違ってたりします。気になる人は調べてみると面白いかもしれませんね。

 何で石を瑪瑙にしたかは、水無月が単に他のオレンジ色の石を思い出せなかったからです。本当はムーンストーンとかにしたかったんですよ、かに座の守護石だし恋愛関係の石だし。宝石言葉は愛の言葉・純粋な愛で、恋人達の石とも呼ばれ、二人の永遠の愛を象徴しているらしいです。でも瑪瑙も一応フランスでは七月の誕生石だし、宝石言葉は雄弁・神聖・成功・夫婦の幸福・夢の実現といったものがあり、パワーストーンの効果なんかでは健康回復と愛を象徴する石だそうです。だから、まあ良いかなぁ・・・と。因みに瑪瑙はいろいろな色があるらしいですから。

 

 

 

2006/04/14 UP