「こんな所で何してるのさ、君達・・・て、あれ?」

 今度は自分の手元を見てキョトンとするDアルル。

「ん?何だあれは・・・。」

Dシェゾの呟きに一同の視線が彼の後を追う。それは引っ繰り返って蓋が外れ、中身が地面に散乱してしまっている箱だった。そこから見えるのは生クリームやイチゴといったケーキの残骸である。

「ケーキだな。」

「ケーキだね。」

「タルトもあるな。」

「でも、これじゃあもう食べれませんね。」

「グググ!」

「何て言ったんだ、サタン?」

「“勿体無いから食べる”と言っている。カーバンクルちゃん、ケーキを食べるなら私がちゃんと新しいのを買ってあげるよ〜v」

「グー!!」

「ぐわ!?」

カーバンクルに抱き付こうとしたサタンの額をビームが見事打ち抜いた。そんな中で一人Dアルルは涙目になっていた。そして震える声で言う。

「ぼ、僕の・・・僕のケーキが・・・。三時間並んだのに・・・ようやく買えたのに・・・ものすごぉおおく楽しみにしてたのに!

そう、彼女は評判のケーキ屋の限定ケーキ・・・一日30個まで且つお一人様一点限りという資本主義経済を馬鹿にしているようなそれを手に入れるために朝から頑張ったのだ。しかもその店は他のケーキももちろん大人気で開店前から行列を作ることでも有名なのである。どうやら先程の攻撃の余波をやり過ごした際に、ケーキの箱も一緒に弾き飛ばされてしまったらしい。

「お、おい・・・Dアルル?」

同じくドッペルゲンガーであるDシェゾがいち早く彼女の異常に気づいた。その声にラグナスたちも彼女を見遣れば、Dアルルから本来不可視といっていい、感情レベルを表す黒いオーラなるものが見えた。不可能を可能にするほど、今の彼女は怒り狂っているようである。かくして、男たちの運命は決定した。

「君達、抹殺。・・・ラグナロク!!

チュッドーン(空に立ち昇る茸雲のイメージで)

Dアルルによる怒りの魔導が容赦ない破滅の一撃として炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 Dアルルの手により彼らの戦いが強制終了してから大分時間がたち、いつの間にか日没を向かえ、夜の帳が静かに下りていった頃、ラグナスは目を覚ました。これまでずっと気絶していたらしい。恐るべし、Dアルル怒りのラグナロク。

「こ、ここは・・・。」

体を起こせば周囲は深い森の中、しかもレベルアップの効果が切れてお子様モードになってしまっている。世間様がチビラグナスと呼ぶ物体(?)だ。

ザザザザザ・・・

風が梢を揺らす。

ビクビクビクッ

ラグナスは過剰反応と言っていい程怯えていた。

ガサガサガサ・・・

うぎゃあああああ!?・・・て、何だモモンガかぁ。」

さらに小動物が茂みから飛び出せば悲鳴を上げる。

きゅるるるるるるる・・・

おまけに腹の虫まで鳴いた。

「うわ〜ん!暗いよ〜怖いよ〜お腹空いたよ〜!!」

とうとうラグナスはワンワン泣き叫びながら闇雲に歩き始めた。遭難の第一歩である。絶対真似しないで下さい、危険です。

 

 

 

 

 

「もうやだよ〜。」

 泣きじゃくりながらラグナスが歩いていると、暗闇の中で明かりが見えた。誰か居るのだろうか。そんな期待を胸に走り出すラグナス。辿り着いたのは半分洞窟と一体化したような一軒の家。その玄関についている照明らしい。そしてどこからともなく漂ってくる美味しそうな匂い。料理の湯気に混じった香りだろうか。

「お腹空いたよ〜。・・・誰かいるのかな?」

むしろ居てほしい、そんな気持ちでラグナスは涙を拭うと扉を叩いた。

「すみませーん、誰かいませんか〜?」

もし誰も出なかったらと思うと、ラグナスは泣きたい気分になる。ここがどこかもわからないから家に帰ることも出来ない。何より、夜に森の中をこれ以上歩き回ることなどできなかった。

「うわ〜ん、開けてよ〜。怖いよ〜。誰か〜!」

「・・・誰だ、こんな時間に。」

程なくして扉の中から姿を見せたのは銀髪碧眼に青いバンダナ、そして黒いシャツという大分ラフな格好をしているシェゾであった。

「シェゾ!」

知り合いの顔にラグナスはパァッと顔を明るくする。

「ラグナス・・・?しかもチビの方か。」

「うわ〜ん!怖かったよ〜!お腹空いたよ〜!!」

ラグナスはシェゾの脚にしがみついて大泣きするのだった。

 その後あまりにもラグナスが泣き止まないので必死であやしながら家の中へ一先ず入れるシェゾ。

(何で俺がこいつを抱っこしてやらなければならないんだろう・・・。)

泣く子と地頭には勝てぬという言葉ではないが、ラグナスはシェゾにガッチリくっついて離れようとせず、かといって脚にしがみつかれたままでは歩きにくい。仕方がないのでシェゾはラグナスを抱き上げて移動する形をとったのだ。

「あ、シェゾ。お客さん誰だったの・・・て、ラグナス?」

部屋に入れば、レンゲ片手にアルルがしっかり食卓に着いている。

「アルルだ!」

「ヤッホー、ラグナス。今日は小さいんだね。」

ラグナスに手を振られ同じく手を振り返すアルル。

「アルルは何を食べてるんだ?」

部屋に溢れる美味しそうな匂いを嗅いでアルルの器に興味を示すラグナス。

「レタス炒飯だよ。」

「レタス炒飯・・・?それっておいしいの!?」

「うん、美味しいよ。」

「シェゾ!俺も食べたい!」

「あ〜、じゃあちょっとここで座ってろ。お前の分も持ってきてやるから。」

「うん!」

シェゾはラグナスを椅子に座らせると部屋から出て行った。そしてラグナスの分の器と次の料理を手に戻ってくる。

「うわ〜、次のも美味しそうじゃないか。」

「俺もこれ食べていいのか!?」

「ああ、好きに食え。」

『いっただっきま〜す!』

アルルとラグナスは全開にした笑顔で食事に向かうのだった。

 そしてこれは凄い勢いでガツガツ料理を食べまくるラグナスを眺めながらのアルルとシェゾの会話である。

「シェゾってさ、大きいラグナスと小さいラグナスの扱い違わない?

実際、醤油を手渡してやったり味付けの微調整(子供向け)してやったりと世話を焼いている。これが大人のラグナスだったら絶対放っておくに違いない。むしろ『醤油とってくれ』なんて頼んでも『勝手に取れ。誰が貴様のためになんぞ指一本動かすか』といった冷たい返答が返ってきそうな気がする。

チビのラグナスは食べた時の反応が素直だから好きだ。」

キミって根っからの料理人なんだね・・・。」

アルルはこっそり溜息をついた。

「何か言ったか?」

「ううん、デザート何かなって思っただけ。」

「デザート!?何何何??」

ラグナスが期待に瞳を輝かせてシェゾを見つめる。

「ああ、胡麻団子に杏仁豆腐に・・・。」

シェゾが指折り数え上げて説明する。

「ラグナスはどれ食べるの?」

「全部!」

アルルが尋ねるとラグナスは元気良く返事をした。

「その前に、先に今食べてるやつを片付けろ。」

「うん、わかったシェゾ。でも俺の分食べちゃ駄目だからね!」

「そんな他人の分まで食わねえよ。」

美味しい食事の時間はまだまだ続きそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<後書き>

 当HPキリ番200のリクエストに基づく小説です。テーマは野郎共によるシェゾ(の料理)の争奪戦。ギャグなので表仕様です。一応、アルルも出張っていますが、ここでの関係はあくまで友人です。それ以上の好意は全く抱いてません、シェゾもアルルも。割とドライ&クール・・・あ、Dアルルにした方が分かりやすかったかもしれませんね。最後に少しだけシェラグを演出してみたり・・・。

 参戦メンバーはラグナス、Dシェゾ・サタン、カーバンクル、そしてカミュ先輩でした。カーバンクルが入っているのは、彼は女好きということなので・・・一応雄になるのかなぁ、と思いまして。ラグナスとDシェゾの部分が多いですね。本当はインキュバスも出そうかと思ったのですが、収拾がつかなくなりそうなので今回は没にしました。でもやっぱり争奪戦としては微妙・・・かもです。

 こんな感じでよろしかったでしょうか、庵様。あと中華料理嫌いだったらごめんなさい。前に横浜中華街で食べた料理がおいしくてつい・・・。いや、本当レタス炒飯美味でした。

 

 

@因みに上記が初出当時のコメントです。確かシェラグを演出したのは当時庵様がこのCPが好きだと伺った為だったり・・・。

 

 

2007/03/16 再UP(初UPは2005/05/09