*これはキリ番200のリクエストに基づき作成された話である。

*ですがギャグテイストとはいえ、ネタがところどころアレなので、第四幕のキリ番リストから直接リンクを繋げず、このように奈落に遺棄させていただきました。

*なお、再掲載に辺り若干フォント等を変更しております。

 

 

 

 

 

の恐怖

 

 

 

 

 

 シェゾ・ウィグィィという男は容姿だけは抜群に優れている。銀糸の髪に蒼玉の瞳は好んで身につける黒の衣装とよく映える。肌は染み一つなく綺麗で透き通り、体格がまともでなかったら恐らく女性と詐称しても万民が騙される事だろう。世の女性陣は彼の評価に関して主に三種類に分かれる。一つは、純粋に彼の容姿に憧れ恋焦がれるある意味ファン心理に近いもの。もう一つは、反対にやっかみを持つもの。そして最後、に容姿は一先ず置いといて彼の内面に関しいろいろと含みを持たせているもの(傾向としては賛否両論)。アルルやルルーといったゲーム上名前が着いているキャラクターは主に三番目の種類に当たると考えられる。

 さて、そんなシェゾが珍しく機嫌のいい様子で大通りを歩いていた。はっきり言って違和感ありまくりで、ホイッスル→レッドカード→退場→次回から出場停止処分決定という感じである。とはいえ、シェゾがご機嫌な理由は何てことはない。昨日潜った遺跡で貴重な魔導水晶を大量に手に入れたからである。売るも良し、使うも良し、魔導力吸収するのも良しで、大変お得な物品だ。そんな訳でシェゾが道を進んでいくと、後ろから声を掛けられた。

「せ〜ん〜ぱ〜い〜!」

「お、カミュか。」

後ろを向けば、普段落ち着いた雰囲気を持つカミュが、これまた珍しくハイテンションでシェゾの元へ駆け寄ってくる。

「ありがとうございますー!」

「うわ!?」

カミュは突っ込んでくる勢いのままにシェゾに抱きついてきた。予想外の彼の行動に勢いあまって引っ繰り返るシェゾ。結果、シェゾは一見カミュに押し倒されているような体勢になる。カミュに想いを寄せるアルルの幼馴染ラーラが目撃したらブチ切れそうな光景だ。

「な、何だいきなり・・・。」

「聞いてください聞いてくださいよ、先輩!俺、とうとう古代魔導史検定一級合格したんですよ!?」

 古代魔導史検定、それは知る人ぞ知る超難関の魔導師検定の一つである。試験開催期は不定期(三年から十年の周期で行われているらしい)であり、しかも合格者が出ないことも多い。しかし一度合格すれば、魔導関係の研究施設その他にかなりの融通が利くようになり、各地の協会・ギルドでも優遇される。本来なら閲覧禁止の禁書ですら手にすることが可能になるのだ。

「ああ、これも先輩が協力してくれたおかげです。これで王都魔導アカデミー施設はフリーパスですよ!」

「・・・そ、そうか。良かったな。」

因みにシェゾはカミュのそれより上の古代魔導検定一級を取得済みである。カミュは天才と呼ばれもちろんそれに伴うだけの実力も持ち合わせているが、やはり若いこともあり歳だけは食っている魔導師に舐められる事もしばしばなのである。酷い時には若いというだけで門前払いをされたこともあった。魔導学校の紹介状があるというのに、である。ならば誰も文句が言えないように自分の実力を証明するものを増やすのみ。そんな訳で彼は検定試験なるものを受けたのだ。その際に古代魔導に関して詳しいシェゾに師事を仰いだのである。

「で、それはそうと重いんだが・・・。」

 大の男に上に乗られていると流石に重い。

「あ、すみません。」

慌ててカミュがシェゾの上から退く。

「全くお前は・・・。」

「すみません先輩、嬉しくてつい・・・。という訳で、先輩!今夜はとことん飲みましょう。俺が奢りますから。」

呆れるシェゾに笑顔で提案するカミュ。

「いや、とりあえず俺は家に帰りたいんだが・・・。」

「じゃあ、俺お酒持参しますか?」

「それは俺につまみを作れということか?」

「一緒に作っても構いませんけど?」

疑問に疑問で返す話し方をするシェゾとカミュ。

(今日のこいつはやけに粘るな・・・。)

いつもならシェゾが断れば割とあっさり引き下がるカミュである。余程嬉しいのか、顔が若干赤い。

「ん?お前ひょっとして酒入ってないか。」

「何がですか?」

カミュからほのかに漂うアルコール臭。

「だから、酒だよ酒。お前酒臭いぞ。魔導酒じゃないな。あれはこんな臭いはしねえ。全く昼間から飲むなよ。」

「お酒・・・ですか。飲んだ記憶は・・・あ、そういえばアルルに調理実習で作ったケーキを勧められたような・・・・・・。」

ケーキには製作の過程でブランデーやラム酒などを混ぜることは良くある。

(一体、どれだけ入れたんだあの馬鹿娘は・・・。)

シェゾは半分酔っ払いになっているカミュを見て溜息をつくのだった。きっと現在のハイテンション振りもアルコールの影響だろう。なお、余談になるがカミュのケーキに混入された酒はウィッチが遊び心でブランデーと飲んでから数時間後に酔い始める謎の酒デス・テキーラ(『どんな酒豪でも一滴飲めば必ず酔わせます』というのが謳い文句)の中身を入れ替えたものだったりする。一説によればこのデス・テキーラ、魔族の職人の手により作られているとか。

「シェゾ先輩・・・。」

 カミュが熱のこもった瞳でシェゾを見つめる。

「な、何か俺、先輩を見ているとドキドキしてくるんです・・・。」

「それは単に酒が回っているだけだ。」

立ち上がるタイミングを逃し座り込んだままだったシェゾに詰め寄り訴えるカミュ。

「なぁんで、先輩はこんなに美人なんでしょうね〜。」

脈絡のない発言をするカミュにシェゾは困惑した。

(こりゃあ、完全に酔っ払ってるな・・・。)

「無精ひげとかも生えてこないし、ホルモンバランス大丈夫なんですか〜?」

「何の話だ?」

「案外染色体はXXだったりして〜。」

「おい!カミュ、いい加減にしろ。」

酔っ払いは始末に置けないというが、どうやらカミュは絡み酒のようだ。

「さ〜!今夜はとことん飲み明かしますよ〜!」

カミュはシェゾの手を引いて立ち上がった。

「というか、お前もう酔ってるし。」

「それでは先輩、居酒屋へレッツゴー!」

「は〜な〜せ〜!」

カミュは信じられないくらいの握力でシェゾの腕を拘束すると裏町方面へ引っ張っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

(どうしてこんなことになったんだ?)

 まだ日も高いというのに、居酒屋のカウンター席で酒の入ったグラスを前にしているシェゾ。その横ではすでにカミュが潰れている。

(それよりも気になるのは・・・。)

「何で貴様がバーテンなんだ、アスモデウス。」

「バーテンダーではなく板前だ、神を汚す華やかなる者。」

「どっちにしろ似合わねえよ。」

むしろ板前の方が似合わない

「元々ここは考古学者のデウスが副業で始めた事になっている。」

「じゃあ、デウスのままでいろよ。カミュが潰れるまではそうだっただろ。第一こいつが目を覚ましたらどうするつもりだ。」

目の前でシェイカーを振る立派な魔族にシェゾは剣呑な視線を向ける。

「その心配は無用だ。その子供は、後三時間はぐっすりだ。」

「まさか・・・盛ったのか?」

「ああ。」

アスモデウスの肯定にシェゾは頭が痛くなる気がした。

「大体なあ、二十四時間営業の居酒屋って何だよ。」

いや、最近でな。」

魔界に帰れ!

あっけらかんと言うアスモデウスにシェゾがツッコミを入れる。

「・・・というのは冗談だ。普段は別の者がカウンターに立っている。今日はたまたまだ。」

「本当だろうな・・・。」

やや疑わしげにアスモデウスを見遣るシェゾ。

「さて、できたぞ。特製カクテル・・・名づけてコキュートスだ。」

「氷結地獄ね〜。それにしてもカミュといい貴様といい、こんな時間から酒ってのはどうなんだ?」

「そういう私達に付き合っているのはお前だろう?」

「確かにな。」

シェゾは苦笑して手前にあるグラスを空にする。

「・・・。」

「どうした、アスモデウス。」

 自分の方をじっと見つめる彼に不思議そうな表情を浮かべるシェゾ。

「・・・やはりお前は美しいな、シェゾ。」

は!?

意外といえば意外な一言に目を丸くするシェゾ。

「戦っている姿や返り血を浴びた姿も人と言うよりは私達のそれに近くて魅力的だったが、今のお前はそれとまた違った美しさがある。」

元々アスモデウスはシェゾに対しては人というよりは同族のそれに近い気持ちで接していた。魔族を越える存在になりうるかもしれない能力を秘めた荒削りの原石、それが初めてシェゾと遭遇した際に抱いたイメージである。

「まだまだ不安定だが、それもまたお前の魅力ということか・・・。」

アスモデウスはシェゾの頬に手を伸ばす。軽くその肌を撫でると、彼は口の端を上げた。

「お前が女だったら妻に迎えていたかもしれんな。」

「・・・んな!?ふ、ふざけるな!!」

シェゾはアスモデウスの手を振り払うと、さらに後方に跳んだ。その反動でシェゾの座っていたイスが倒れる。

「おっと・・・そう怒るな。それと警戒する分には構わんがあまり興奮しない方がいい。」

「・・・。」

「お前から妙な香りと呪いの気配がする。」

「何だと・・・?」

アスモデウスの言葉にシェゾは眉を顰めた。

「呪いの方は知らんが、香りはお前の体温が少しでも上昇すると強まるようだな。作用は雄を性的に興奮させる薬だな。前に似た香りを嗅いだことがある。至近距離なら魔族も惑わせるようだ。いや、呪いが効果を倍増させているのか・・・?」

アスモデウスが一人呟く。

「どういうことだ?」

「つまりお前からは変なフェロモンが出ていて近づく男を欲情させているんだ。」

「は!?」

「私も危うく流されそうになったが距離をとったことで正気に戻ったようだな。私は確かにお前を気に入っているが、男を犯す趣味はない。」

「当たり前だ!」

「まあ、もしお前が女だったら違ったかもしれないがな。」

「それはもういい!」

アスモデウスの問題発言を打ち切るシェゾ。

「だか・・ら、そう興奮するな。お前の中で熱が合成(多分ATP)される毎に香りが強くなっている・・・。私をお前で狂わせる気か?」

アスモデウスの瞳が次第に熱を帯びてくる。

「わ、わかった・・・。」

「では、早く店から出て行け。出来る限り体温を上げないように気をつけろ。というか男と接触するのは避けた方がいい。何故そうなったかは知らんが原因は突き止めておいた方が無難だろう。」

「・・・了解。金はそこのカミュから貰っておいてくれ。じゃあな。」

「健闘を祈る。」

シェゾはアスモデウスに見送られつつ空間転移を発動させた。そして彼の気配が店から完全に消えると、アスモデウスはガクリと膝を着く。

「あ、危なかった・・・。」

魔界有数の実力者である自分が人間の男の色香に惑わされたとあってはいろいろと恥ずかしい。しかも誘っている本人にその気がなければなおさらだ。

「ひょっとしたら、この子供も惑わされた口かもしれぬな・・・。」

アスモデウスはカウンターに突っ伏したまま眠るカミュを見てそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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