わがまま

 

 

 

 

 

 暇なのでシェゾの家に遊びに行ったら、問答無用で叩き出された。余りといえばあんまりな態度にボクは短気を起こしそうになる。即ジュゲムを放ちそうになって、ダイアキュートを唱えていたら、後ろから殴られた。ポカリッと形容するのが相応しい軽めの音。大して痛くはなかったけど、頭を押さえて後ろを向けば、最近すっかり馴染みとなってしまった異世界出身の勇者様、ラグナスがいた。

「ちょっとぉ、いきなり何するのさ。」

「それはこっちのセリフだよ、アルル。」

抗議するボクに対してラグナスは笑みを浮かべている。でも瞳は笑っていない。そのせいか、黒い笑顔という印象を受けた。光の勇者なのに、何か変なの

「今、シェゾの家吹っ飛ばそうとしてただろう。」

「そんなことないよ。」

確認するように言うラグナスにボクはそう答える。だって・・・

ボクが吹っ飛ばそうと思ったのは、家じゃなくてド・ア★

だもんね。ボクの至極真っ当な回答にラグナスは珍しく渋い顔をしている。嫌だな〜、そんな顔ラグナスらしくないよ。何だかシェゾみたいじゃないか。

「・・・ジュゲムなんて唱えたら家ごと吹っ飛ぶじゃないか。」

「え〜、そんなことないよ。シェゾの家魔法強化してあるもん。平気平気。」

ボクがそう言ってもラグナスの目つきは厳しいままだった。ひょっとして疑ってる?

「本当だって。そりゃ、ダイアキュート重ねがけして強化したジュゲムなら違うかもしれないけどさ。」

努めて友好且つ平和的に説明するボクにラグナスは言った。

「でも、さっきアルル、ダイアキュート三回位唱えてたよね。」

「そうだっけ?」

「そうだよ。」

 あっちゃ〜。そこから聞かれてたか。なら、誤魔化しが利かないのも無理ないね。ちょっとムカついてたから、仕返してやろうと思ったのに。ああ、でもね。ボクはシェゾが嫌いって訳じゃないんだよ。むしろ彼は大好きと言ってもいい存在。腐ってもボクとシェゾは世間様一般で言う恋人同士というカテゴリーに当てはまるんだから。

「それだとやっぱり家ごと吹っ飛ぶじゃないか・・・。」

ラグナスが何かブツブツ言ってるけど、ボクの耳には入ってこない。そんなことより、ボクはシェゾの態度に腹を立ててるんだ。せっかく仮にも恋人のボクが遊びにきたって言うのに・・・。

 

 

『やっほ〜、シェゾ遊びに来たよ〜。』

『仕事の邪魔だ、帰れ。』

 

 

これだよ、これ。ドア開けた途端にこれ!いくらなんでも酷いと思わない?本当にボクのこと愛してくれるか疑っちゃうよね。せめてさ、どういう仕事なのか説明くらいあっていいと思うんだけど(注:シェゾの仕事内容はアルルには理解困難な学術的に高度なレベル)。しかもちょっと文句言ったらいきなり外に放り出されるし(注2:アルルは“ちょっと”と思っているが実際は結構口喧しかった)。

「とにかく、俺の目の黒い内はシェゾの家は壊させないからな。」

「目の黒いって、ラグナス眼黒くないじゃないか。」

「いや、そういう意味じゃないし。」

「うん、ボクも揚げ足取っただけだから。」

確かにラグナスの瞳の色は漆黒じゃないね。

「でもどうしてラグナスはシェゾの家を壊されたくないの?」

「それはもちろん、今俺はシェゾの家に居候しているからな。」

 ああ、そう言えばこの間ラグナスの家をボクとカー君とルルーとウィッチとサタンで壊しちゃったんだよね。悪気はなかったんだけど、いつものようにサタンがボクとカー君追っかけてきて、ルルーがそれで逆上しちゃって、ウィッチが持ってた新薬とボクとサタンの魔導とカー君のビームが混じって爆発しちゃったんだよな〜。近隣の家が数件それで駄目になっちゃって、たまたまその中にラグナスがこっちの世界に来た時に使ってる家が含まれていたんだよね。それで、シェゾの家に転がり込んできたって訳か。何て羨ましいことを・・・ボクだってまだ同棲してないのに。

「流石、ラグナス。素敵なまでに守銭奴振りだね。」

「うん、そうだね。ありがとう・・・て、褒めてないし!メガレイブ!!」

「ジュジュジュジュゲム!」

もう、ラグナスってばいきなりメガレイブ唱えるなんて危ないな〜。うっかりシェゾの家を吹っ飛ばすつもりで唱えてた魔導をぶつけちゃったよ。

「わ〜、よく飛ぶな〜。」

ラグナスはいつものシェゾやサタンに負けじとお空の彼方へ消えていった。星になったんだね、キミは。ボクはキミの事を忘れないよ。星を見る度にきっと思い出すさ。今、昼だけど。そういう訳でボクはラグナスのことをさっさと忘れることにした。だって今は空に星は見えないからね。

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん、暇だな〜。」

 今から改めて呪文を唱えるのも面倒で、ボクは思案に暮れる。暇だし、カー君の所にでも遊びにいこうかな。今、カー君はサタンの元に里帰り中。サタンはたまにカー君を手元に返してガス抜きさせてやらないと、すぐ暴走するんだ。下手したら天変地異レベルのことをしでかしかねないし、世のため人のため、そして何よりボクのためにカー君には尊い犠牲になってもらわないと。だって、ボク、ストーカーされるのはごめんだし。ボクに張り付いてくれるのはカー君とシェゾだけで充分。

「でもやっぱりサタンのことを考えると鬱陶しいかも・・・。」

顔を合わした途端抱きついてこないとも限らないしね。ボクが思うに最近のサタンはボクを妃候補というより娘か何かのように扱っているんだ。まあ、ボクを嫁にするのを諦めてくれるのはいいことだけどね。ルルーには幸せになってもらいたいし、何よりボクにはシェゾがいるんだから。ああ、そうそう。因みにルルーはミノタウロスと一緒に山篭りの修行でいないんだよ。ウィッチは実家に帰ってるし、ドラコも遠出してるらしくて捕まらない。そんな訳でボクは今、凄く暇なのだ。

「ああ、もう!シェゾの馬鹿ぁあああ!!」

扉の前で叫んでみる。この程度で彼が相手をしてくれるんだったら何の苦労もいらないんだけど、シェゾは一筋縄ではいかない。ボクの愛すべきヘンタイさんは、変な所で頑固なのだ。時々大きな子供な気がするくらい子供っぽいこともある。まあ、そんな所も可愛くて好きなんだけどさ。だけど、今は可愛さあまって憎さ百倍

「つまんないつまんないつまんない!ボクと遊んでよー!!」

退屈で仕方がない。空はこんなによく晴れているのに、シェゾはいつもの如く出不精だし(注3:今回は一応仕事中である)。本当ならピクニックとか行ってもおかしくない天気なのに。シェゾは全然ボクに構ってくれない。はっきり言って凄く悔しい。ボクより仕事が大事なわけ?

「シェゾのヘンタ〜イ!変な名前〜!浮気してやる〜!」

・・・ドタドタドタ バタンッ

喧しい!!

 乱暴にドアを開けてシェゾが家から顔を出す。よし、第一段階成功。シェゾの顔は物凄く不機嫌そう。せっかくの綺麗な顔が台無しだな〜。でも、全開笑顔のシェゾなんて気持ち悪いから止めてね。ボク、ジュゲム百発唱えられちゃうから

「ヒトん家のドアの前でギャーギャーギャーギャ喚くな!」

「だってだってだってシェゾが相手してくれないのがいけなんだもん!!」

それに最近お互い忙しくてなかなか二人で会えなかったんだから、ちょっと位付き合ってくれたって罰当たらないと思う。

「全く、お前がいるとおちおち仕事にも集中できん。」

「ふ〜んっだ。」

何だかいつも以上にムスッとしている彼に意趣返しも込めて舌を出す。すると彼に手を引っ張られた。

「シェゾ?」

「オラ、さっさと中は入って来い。相手してやるから。」

不機嫌そうにシェゾはボクを家の中に入れる。これは・・・一応第二段階成功?でもな〜。

「ボク、できれば外で遊びたいんだけど。」

「却下だ。」

コンマ一秒で即断されたという感じ。この人何でこういちいち偉そうなのかな。まあ、ルルーやサタンもそういうことあるんだけどさ(注4:彼女は自分のことは棚にあげているが、人はえてしてそういうものである)。

「こっちだって仕事が立て込んでるんだよ。いいか、アルル。付き合ってやるんだから、後でてめぇ責任取りやがれ。」

「責任?」

面倒くさそうなのでとぼけてみる。

「帰るか?」

「ううん、了解。」

OK、分かったよ、マイダーリン。ボクもここまで来て追い出されるのは嫌だからね。

「後の家事労働はボクが引き受ける。それでいいんでしょ。」

「フン。」

 シェゾがソファーに腰を落とす。二人座ればギリギリのそれにボクもチョコンと腰掛けた。それからすぐに彼に寄りかかる。

「シェゾ、抱っこ。」

「はいはい・・・。」

シェゾの手が背中に回されて、ボク等の距離が一段と狭まる。シェゾの温もり、シェゾの匂い。何か、こうしてると落ち着くなぁ・・・。さっきまであんなにイライラしてたのが嘘みたい。

「えへへへ・・・。」

何だか外に出れなくてもいい気がしてきたな〜。

「何だよ、いきなり笑って。気持ち悪い奴だな。」

「気持ち悪いって何だよ〜。」

失礼しちゃうな〜、シェゾのくせに。ボクがむくれて膨れっ面になるとシェゾにほっぺた突付かれた。

「む〜。」

「お前、本当ぷにぷにしてるな。引っ張ったらよく伸びそうだぜ。」

そう言ってシェゾはニヤニヤ笑ってる。何か嫌な予感・・・て、言ってる側から引っ張るな〜!

「ひょっひょ〜!」

シェゾに両頬引っ張られてるせいで、言葉がうまく話せない。変な声が口からこぼれるだけだった。

「へ〜、やっぱりよく伸びるな。」

感心しているような言い方だけど、シェゾの顔はしっかり笑っている。ボクをおちょくって楽しんでるんだ。本当趣味が悪い。だからキミはヘンタイなんだよ。抗議の意味も込めてじっとシェゾを睨んでやったけど、面白がりこそすれ、反省するって感じじゃなかった。むむむむむ〜、何か悔しい。凄く悔しい。とにかく悔しい。やっぱりジュゲム唱えとけばよかった。こうなったら後で仕返ししてやるんだから、覚悟してといてよね。まあ、そんなこと思ってみたところでボクのほっぺたをいじくっているヘンタイさんには伝わってないだろうけどさ。

「何だ、不満そうだな。」

「・・・それ、分かってて言ってる訳?」

 ようやくボクのほっぺたから手を離したシェゾは意外そうにそんなことを言った。もし本気でそんなこと言ってるんだったら、ボク殴るよ?

「構って欲しかったんだろ?」

「そ、それは・・・そうだけど、でも、そういうのじゃなくて・・・!」

確かにボクはシェゾに構って欲しかったけど、ボクだけが一方的に弄られるそれは、ボクが望んだものじゃない。もっとちゃんとしたコミュニケーションがいいんだ。別に甘い言葉が欲しいとかじゃなくて、一緒にお茶飲んでお話したりとかそういった感じの構い方をしてもらいたいのに。

「分かってる。」

「!?」

そんなことを思っていたらほっぺたに感触。こ、これは・・・もしかしなくても!

「シェ、シェゾ・・・いいい、今!?」

思ったよりも至近距離にあるシェゾの顔。ボクの勘違いじゃなければ、今、ほっぺにキスされた〜!

「舐めた方がよかったか?」

良くない良くない良くない!!ボクは慌てて首を横に何度も振った。ううう、不意打ちなんてびっくりするじゃないかぁ・・・!?

「さて、茶でも淹れるか。」

 ボクをあんなにドキドキさせといて、シェゾはさも平然と立ち上がり、ソファーから離れていく。確かあっちは台所だよね。

「お前もダージリンでいいか?」

「え?・・・う、うん!」

気まぐれな彼が機嫌を損ねない内にボクは急いで返事をする。ボクの分までお茶を入れてくれるってことは・・・ボクが最初に考えてたのとは違うけど、第三段階成功ってことだ。

「シェゾ、お菓子は〜?」

「棚にあるから、勝手に持ってけ。」

「は〜い。」

ボクは張り切ってお茶の準備を手伝うことにした。だって、彼がお茶を淹れてくれるってことは、ボクの話に付き合ってくれるっていういつもの合図だから。さっきのキスはシェゾからの意趣返しって所かな。普段のキミに比べたら可愛い可愛い。

「えへへ・・・。」

「何だ、いきなり。」

シェゾの腕に自分の腕を絡めたら不思議そうな顔をされた。

「別に〜。幸せだな〜って思って。」

たまには格好良くて可愛い彼氏とお部屋でお茶するのもいいかもね。

「変な奴・・・。」

「シェゾ程じゃないもん。」

「そりゃ、どういう意味だ。」

 さあ、お茶の時間を始めよう。そしてたくさん、お話しよう。少し前まであんなに退屈だと思ってたのに、話したいことを考えてみたらいっぱいでてくるのが不思議な感じ。今日はまず、昨日ウィッチから聞いたお話でもしてみようかな。キミの反応が楽しみだね、シェ・ゾ★

 

 

 

 

 

<後書き>

 今回は目指せ腹黒アルル・・・という感じです。一応ギャグのつもりで書いてますから、そういう方向で。ぶっちゃけ、初めのアルルとラグナスの遣り取りが一番書いていて楽しかったりしたのは秘密です(笑) そしてアルルはシェゾのことを惚気ています。

 なお、個人的には『恋』は独善的でも成立しますが『恋愛』は成立しにくいと考えています。

 

2011/05/27 UP