四天演技
〜四天の章〜 弐
死の森の奥深くには里人が存在すら知らない場所がいくつか存在する。中忍試験等で利用するのは森の一部であり、上忍ですら森の全てを把握している訳ではない。何が潜んでいるか分からない危険な場所、それが一般的な死の森に対する見方であった。
そんな死の森を一人黙々と進んでいく者がいた。彼の名は奈良シカマル、今年下忍になったばかりの少年である。獣を警戒するのでもなく無造作に、だが極めて痕跡を残さず密やかに彼は森の奥へ奥へと入っていく。やがてシカマルは森の中にしては場違いな拓けた場所へ辿り着いた。そこには一軒の家が鎮座していた。ここは火影を除けば関係者数名しか存在を知らないしまた立ち入ることも許されていない地・・・通称『幻狐の館』と呼ばれる建物である。
「悪い、ちっと遅れたわ。」
そう言ってシカマルは堂々と正面玄関から入っていった。中にいたのは金髪に紅い瞳をした二十歳前後の青年。手には広げた巻物がある。
「遅すぎる。」
ソファーに深く腰掛けた青年がギロリとシカマルを睨みつけた。
「だから悪いって言ってるだろうが。チョージの奴に付き合ってたんだよ。」
「どうせ買い食いだろ。あのデブが・・・。」
本人の前で言ったら自分はポッチャリ系だと怒りそうなセリフを忌々しそうに吐き捨てる青年。
「それ絶対本人の前で言うなよ。」
シカマルもそう指摘する。
「当たり前だ。第一この姿で会う訳がないだろうが。」
青年は前髪を鬱陶しそうに掻き揚げると、再び手にしていた巻物に視線を落とした。
「表でもだ、ナルト。」
カンッ
言った途端シカマルの横を何かの影が横切った。少し遅れて頬に熱い感覚。その部分を手で触れると指に血か付着していた。
「この姿の時は黄天と呼べと言ってあったはずだ。」
青年は殺気を覗かせる瞳でシカマルを睨みつける。シカマルの後ろの柱には突き刺さったクナイ。青年が投げたそれがシカマルの頬を掠めたのであろう。
「別にいいだろ。他の誰が聞いている訳でもないんだからよ。」
頬の血を拭いシカマルは青年を見る。シカマルがナルトと呼び自らは黄天と名乗った青年は舌打ちすると言った。
「・・・次はないと思え。これは隊長命令だ。」
「へいへい、わかりましたよ黄天隊長。」
シカマルが肩をすくめる。
「あら、灰天・・・あ、今はシカマルって呼んだ方がいいかしら。」
「どっちでもいいわ、いちいち区別するのも面倒くせえ・・・。」
シカマルと黄天の会話が一段落した所で、部屋に入ってきたのは桜色の髪をしたやはり二十歳前後の女性。その瞳は翡翠のような緑をしている。シカマルを灰天と呼んだ女性はお盆を手にソファーの側までやってきた。
「はい、黄天。お茶入れたわよ。シカマルも早く灰天になってきなさい。」
その女性は黄天の前の机に湯呑み茶碗を置く。
「イルカ先生・・・つうか、蒼天は?」
「火影のじじいの所だ。表の方との調整で話し着けに行ってる。」
黄天が巻物を横にやりながら言った。
「なるほど・・・ね。」
シカマルはそう口にして部屋を横切ろうとする。すれ違いざまに聞こえてきた二人の会話。
「お茶、飲まないの?せっかく入れてきてあげたのに。」
「サクが口移しで飲ませてくれるなら飲む。」
バコンッ
派手な音がしてシカマルが首だけで振り返ると、黄天が頭を押さえていた。もう一人の女性は頬を染めながらも、片手にはしっかり盆を持っている。どうやら女性が黄天の頭を盆で叩いたらしい。
「カカシ先生みたいなセクハラしてんじゃないわよ馬鹿ナルト!」
「うお!?悪い!ごめん!俺が悪かったってばよ!!」
お盆で攻撃してくる女性から逃げ回る黄天。
(うわ〜、ナルトの奴、表と裏が混じってやがる。)
シカマルはそんな彼らの様子を横目に見ながら部屋から出て行った。自分はイルカが戻ってくる前に着替えなくてはならないのだ。
(やっぱりうちの部隊は何だかんだで春野・・・もとい、朱天が最強だな。)
暗部最強の男と恐れられている黄天。そんな彼が唯一逆らうことのできない女。一人納得して頷くシカマルであった。
木の葉最強の暗部部隊『四天』、そのメンバーが集う『幻狐の館』。結界で里人から隠されたこの地で本日繰り広げられた光景は結構良くある話・・・もとい彼らの日常であったとか。
<後書き>
このシリーズのスレナルはサクラのことを『サク』と呼びます。そしてセクハラするはヘタレだはで・・・壱話目の雰囲気が台無しです。でも、ほら、設定にもある通り、スレナルのサクラへの愛は盲目的ですから。正直サスケを好き発言にはムカついてますよ。本当は闇討ちとか暗殺とかしたいのを我慢してるんですよ。あら、怖い。いつかその辺りの事情も書いてみたいな〜と思っております。
2005/05/09 UP