ミカエル王子 炎の漫遊記〜これが彼らの日常です〜
ここはとある豊かな王国。この国の王ガブリエルは、家族と共にフィーナル城に住んでいた。王妃はすでに亡くなり、忘れ形見である王子二人と、平和(?)に暮らしていた。王子の名前はハニエルとミカエル。双子の兄弟である。この二人はとても対照的ながら、仲が良く、兄のハニエルは小柄で病弱だが勉学に優れ、弟のミカエルは健康体で人並みに成長し武芸が達者であった。さらに言うならば、ハニエル王子は国王に代わって政務の一部を請け負えるほど優秀であり、一方ミカエル王子は強さだけなら馬鹿力で一騎当千なのだが、お世辞にも頭の方は良いと言えなかった。テストでは赤点の常習犯である。教育係は根気と忍耐が必要であった。
さて、この物語の主人公であるミカエル王子は、今日も今日とて側近兼教育係のザフィケルと武芸の稽古である。ミカエルは炎を操る能力を持ち、その気になれば国中を炎で包むことも可能であるという。一見彼は直情径行のお馬鹿さんであり、そんな凶悪なことをするようには思えないのだが。まあ、それだけ潜在能力が高いという話だ。
「どりゃあああああああ!」
「甘いですよ、ミカエル様。」
ミカエルが繰り出した拳をザフィケルが
「ふはははは!楽しい!楽しいぜ、ザフィケル!!」
「流石です、ミカエル様。次のこれはどうです!」
戦いながら笑うその姿はまさに戦闘中毒者である。そのまましばらく打ち合いを続けていた彼らであるが、とうとうミカエルが隙を突いてザフィケルの棍を弾き飛ばした。
(いける・・・!)
そう確信したミカエルはザフィケルの顔面に拳を振り下ろし――――――――――
「ミカエル、御飯の時間よー。」
突然かけられた声に動きを停止した。声がした方に顔を向ければ一人の少女(神官服着用)が立っている。彼女の名はフィリア。ミカエルのハトコにして(父親同士が従兄弟)彼の幼馴染でもある人物だ。ミカエルの父ガブリエルは彼女を実の娘のように可愛がっているという。何でも彼は元々娘が欲しかったらしい。王位継承権は男性優位なのだが・・・。
「・・・フィリア、今何て言った。」
一先ずザフィケルから離れて、ミカエルはフィリアに向き直った。フィリアはミカエル達の所に近づくとこう言った。
「食事が出来たから呼びに来たわよ。気づいてないみたいだけど、武芸の予定時間はもう終わってるから。早く食べちゃってね。次はミカエルの嫌いな経済学が控えてるんだから。」
「げ!?」
「げ!? じゃないでしょう。王子の義務なんだからしっかり勉強しなさい。そんなんじゃあ、いつまでたってもハニエルを助けることはできないわよ。」
「うぐぐぐぐ・・・。」
唸るミカエル。ミカエルは武術の稽古は好きだったが、勉強は大嫌いだった。
「そういえば、ハニエル様はどうされたんですか。いつもならあの方が呼びにこられるのに・・・。」
フィリアにザフィケルが尋ねた。大抵、ハニエルは食堂に向かう途中にミカエルに声を掛けてくるのである。あまり時計を見て行動していないミカエルにとっては、ハニエルが時計代わりであった。
「ハニエルは、ちょっと体調が良くないから部屋で別メニューよ。」
『何だって!?』
フィリアの答えに二人は同時に叫んだ。
「ハニエルはどうしたんだ!また倒れたのか!?大丈夫だよな熱とかで苦しんでないよな俺様ちょっくら見舞いに・・・むぐ。」
「落ち着いてください、ミカエル様。」
ザフィケルが血相を変えて慌てるミカエルの口を塞ぐ。
「むぐ!うぐぐぐ!むぐふもふぐぶもー!?」
暴れるミカエルを強引に押さえ込むザフィケル。ミカエルは何やら叫んでいたが、口を塞がれているせいで何を言っているかさっぱりである。
「それで、ハニエル様の容態は。」
「多分軽い風邪だと思うけど。微熱があるみたい。寝込むほどじゃないけど、ハニエルはあまり丈夫じゃないから。大事をとって今日の予定はほぼキャンセルね。」
「そうですか・・・。」
フィリアの答えにザフィケルは心配そうながらもどこかホッとした表情を見せた。
「それはそうと、ザフィケル。」
「何ですか、フィリア様。」
「そろそろ手を離してやらないと、ミカエルが酸欠で死にそうよ?」
「・・・え!?」
フィリアに指摘されてザフィケルが腕の中のミカエルを見遣れば、顔色を変えて目を白黒させていた。
「うわあああああ!ミカエル様しっかりぃいいいいいいいいい!?」
ザフィケルの叫びがフィーナル城に木霊した。
所変わって、国王の執務室。ガブリエルは山のように積み上げられた書類を前に辟易していた。
「何故、私がこんなことをしなければならんのだ・・・。」
そりゃ、あんたが国王だからだよ・・・と的確なツッコミを入れてくれる者は生憎ここにはいない。
「こんなことより、ルシフェルに夜這いの一つでもかけていた方がずっと楽しい・・・。」
白昼堂々何を言ってるんだ、このオヤジは。脳味噌湧いてるんじゃないか?・・・などとコメントしてくれる者も残念ながら今この場にはいない。因みにルシフェルというのはこの国の大臣の名前だ。ついでに言えば、性別はれっきとした男である。
「よし、ここは一つルシフェルの部屋に遊びに行こう!」
「そういうわけにはいきませんよ、ガブリエル様。」
「・・・げ!ラファエル!?」
ガブリエルが椅子から立ち上がった瞬間、狙い済ましたかのように扉を開けて執務室に入ってきたのはこの国の大神官ラファエルだった。フードを目深に被り、そのくせどこか顔色が悪い。常に陰鬱さを漂わせた無表情の男だ。
「貴方という方は、執務をさぼってどこへいかれるおつもりだったのですか・・・。」
淡々とした物言いながら、冷たさの感じられる声音でラファエルが尋ねる。
「あー、えーと、その・・・だな、少しルシフェルの様子をだな、見に行こうかと・・・・・・。」
あからさまに冷や汗ダラダラな様子になりながらガブリエルは弁解する。
「そんなものは却下です。」
ラファエルは無情にもガブリエルの意見を切り捨てた。
「ただでさえ政務が滞っているのにルシフェル様の邪魔までされたら堪りません。ここで大人しく仕事をしていて下さい。」
「お、お前は国王を何だと思っているんだ!」
「それなりに扱ってもらいたいならまず国王としての義務を果たしてからにしてください。でなければ貴方を敬う価値など蚤が富士登山に使うリュック以下です。」
「ど、どういう例えなんだそれは・・・。」
思わずツッコミを入れてしまうガブリエルだった。なお、この世界に富士山があるか否かは気にしないように。
「あ〜、死ぬかと思った・・・。」
「す、すみません・・・。」
再び場所は戻ってミカエル達。ザフィケルから開放されたミカエルが呼吸を落ち着けての開口一番がこれである。ザフィケルは項垂れて謝罪するしかない。体格のいい男が落ち込む様子はある意味鬱陶しいのだが、ザフィケルの人のよさがそれを自然にカバーしていた。善人の持つオーラというものは実に凶悪である。
「じゃあ、ミカエルが落ち着いた所でお昼にしましょう。」
「で、でもハニエルが・・・!」
フィリアの言葉に渋るミカエル。余程ハニエルのことが心配らしい。ミカエルはどうしようもない位ブラコンだった。
「お見舞いについては私が何とかしてあげる。その代わりにミカエルは今日のノルマをちゃんと果たすこと。課題が遅れるなんてもってのほか。エスケープとかしたら夕飯抜くからね。」
「ひ、ひでぇ・・・。」
「フィリア様、それは少し酷すぎるのでは・・・。」
きびきびとしたフィリアの物言いにガックリするミカエル。そしてそれを心配そうに見遣るザフィケル。
「ミカエルにはそれくらいで丁度いいの。ザフィケルもハニエルも甘すぎなのよ。そんなんだからいつも公倍数と公約数の区別が付かなくなるのよ。」
「す、数学の話題はやめろぉおおおおおおおおお!!!」
「ミカエル様、それは数学ではなく算数のレベルです。」
「ザフィケルゥウウウウウウウウウウウ!?」
ミカエルは滝のような涙を流し撃沈した。
仕方がないので撃沈した形になるミカエルを引きずり、ザフィケルは食堂にやってきた。暗殺の対策ということもあり、王族が同じ席で食事をすることはあまりない。それでもミカエルとハニエルの兄弟はできるだけ同じ食卓につくよう心がけていた。そのハニエルは今いない。
「ほら、ミカエル様。ちゃんと食べましょう。俺も一緒に食べてあげますから・・・。今日はミカエル様の好きなハンバーグですよ?」
「・・・食う!」
ミカエルの反応は早かった。さっきまであれほどふてくされていたというのに食事を前にするとこうも変化するとは・・・。
「飯メシ飯メシ〜♪」
食い意地の張っているミカエルは基本的に食べ物を与えていればご機嫌なのである。
今日も今日とて、フィーナル城は平和だった。
<後書き>
SO2十賢者パラレル、リニューアル版第一弾。水無月が昔、風陸みどり嬢の十賢者設定をベースにキャラクターをいじったお話で、本編も十話くらいまで作ってました。ラストも考えてあったんですよ、ちゃんと。九話までは風陸嬢に差し上げました。ルーズリーフに直筆な内容だったので過去のお話の記憶が曖昧・・・(死)
先日、年末の大掃除で書きかけの本編やら番外編やら構想メモやらが出てきまして、懐かしいなあと思った反面、ちゃんと完結させてなかったことが気になりました。まあ、元々いつかは書き直そうかと思っていたのですがね。
そこで、せっかくサイトをオープンすることになったので、リニューアルして掲載してみました。とりあえず二、三話は載せる気満々です。それ以降は周囲の反応を見て決めようかなと思っています。ものすごく久し振り書いたのでキャラクターの口調がわからなくなってます(笑) 要リハビリ(痛)
あ!ルシフェルとハニエル出すの忘れた!!・・・ま、いいや。初めだし、短くいこう。