天然お子様キラー

 

 

 

「クロード兄ちゃん!」

「うわ!?」

 エナジー・ネーデ、セントラル・シティの某所にて。一人散歩をしていたクロードにレオンがタックル(?)を仕掛けた。勢いあまって階段から落ちそうになったクロードは、咄嗟に手すりにつかまって、何とかこらえることに成功する。

「れ、レオン?」

「も〜、こんな所にいたの?捜しちゃったよ。」

本来なら危ないことをするなと叱る所だが、レオンは何やら興奮しているらしく、ソワソワしている。普段落ち着いた振りをしているレオンだけに、珍しいことだが、子供らしくて微笑ましく感じられた。ホフマン遺跡やエル大陸での出来事、一緒に行動する機会が増えるにつれて、随分と子供らしい一面も見せるようになってきたのだが、やはり周囲の目を気にしてか、強がっていることも多いのである。

「あのね、あのね、クロード兄ちゃん!僕・・・。」

ただ、こうしてクロードと二人きりの時は余程懐いているのか、かなりのはしゃぎ具合を見せていた。

「はいはい、レオン。ちょっと落ち着こう・・・というか、僕もこの体勢辛いから。」

「あ、ごめ〜ん。」

クロードのギリギリで体を支えている状態にようやく気づいたのか、おんぶお化けのように背中に張り付いていたレオンが手を離す。

「全くしょうがないな。もう少しで落ちるとこだったんだぞ。」

「ごめんごめん。クロード兄ちゃんやっと見つけたと思ったら嬉しくって、つい。」

謝っているもののあまり反省している感じの見られないレオンである。

「それで、今日はどうしたんだい?」

「そうそう、実は・・・じゃーん!こんな本が書けたんだよ!」

「・・・紋章学大辞典?」

「うん、これは結構会心の出来って感じかな。」

「そっか。良かったな。」

「うん!」

どうやら執筆で作成した本を自慢しに来たらしい。まあ、子供が作ったものを親に見せびらかすようなものだろうか。クロードに褒められて嬉しかったのか、レオンはさらに本の内容について解説を始める。両親が紋章術に対する研究をしている(正確には母が学者で父が術者)せいか、若干の知識はあるとはいえ、やはりマナの祝福なんぞタレントとして持ち合わせていないクロードには分からないことも多い。

「へえ、そうなんだ。」

「まあ、僕にかかればこんなの簡単だけどね。」

「レオン・・・。」

「も、もちろん簡単なことでもちゃんと真面目にやってるよ!?」

「うん、それは分かってるよ。」

時々過剰な自慢したがりな部分は出るものの、最近少しは謙虚になったレオンである。といってもレオンの自慢トークは基本的にクロードでないと止められない辺り重症だ。

「あー!レオンってばまたクロードにくっついてる!」

 そこで第三者の乱入する声。声の方を向けば、戦いの仲間の一人であるプリシスがこちらに向かって指差していた。本来失礼な行為らしいので、出来るだけ人に向けてするのは止めておきましょう。

「離れなさいよ!」

「や〜だよ。」

「こらー!」

「プリシス・・・レオン・・・。」

プリシスに対し舌を出すレオンに怒りのボルテージが上がったのか、彼女は彼らに駆け寄り引き離そうとする。

「クロードから離れてよ!」

「いーやーだー!」

「独り占めなんて許さないんだから!」

「女の嫉妬は醜いね。」

「何それ!?」

「ちょ・・・二人とも!?落ち着けよ。」

レオンとプリシスはクロードを挟んで言い争う。もはや二人に周囲は見えていない。そしてこの二人の喧嘩は一度火がつくとクロードでも簡単には止めなれなかった。

(何でこの二人はすぐ喧嘩するかな・・・。)

その喧嘩の七割方は自分を巡っての争いだということに今ひとつ気づいていないクロードだったりする。レオンとプリシスに挟まれたまま彼は途方に暮れていた。

 

 

 

 

 

「相変わらずもてますわね、クロードは・・・。」

「あの二人も本当にクロードにべったりね。」

 街の片隅で繰り広げられるある意味不毛な争いを遠巻きに観察しているのは、同じくクロード達の仲間である大人な女性陣であった。露店で買い求めたジュースを片手にすっかりくつろぎモードである。

「プリシスはリンガの頃からああだったけど、レオンもネーデにきてから凄いわよね。」

「そうですわね。事ある毎にクロードクロードですもの。相当なものですわ。」

「レナもプリシスとは気持ちのベクトルが違うからあまり強く出れないらしくて、ちょっとイライラしている感じよね。」

「そうですわね〜。八つ当たりというか最近調理時の包丁さばきが乱暴ですわ。」

「私も気持ちは分かるのよ。エルに他の女がまとわりついていたらいい気はしないもの。」

「オペラさんは本当エルネストさん一筋なのですわね。うらやましいですわ。」

「セリーヌこそ、誰か良い人いないの?」

「初めはクロードもちょっと可愛いし素敵かな?とは思ったんですけど、レナと喧嘩する気はありませんもの。今の所は難しいですわね。どこかに素敵な方はいらっしゃらないのかしら。」

彼女らの会話から何となくパーティの人間関係が見えてくる。とりあえず、クロードを巡る事態に関しては傍観者と決め込んでいるらしい。

「セリーヌさん・・・オペラさん・・・。」

『れ、レナ!?』

 二人がのん気に会話をしている所で、おどろおどろしい空気を背負ったレナがゆらりと姿を現した。まるで暗黒を背負っているような雰囲気に思わずあとすざってしまったセリーヌとオペラである。

「ど、どうしたのよ、レナ!」

「りょ、料理でも失敗しましたの?大丈夫ですわよ。痛んだ刺身以外なら一応回復アイテムですもの!」

「それとも細工に失敗したの?ミスチーフやトリックスターだってあるんだから、鉱石なんてすぐ拾えるわよ。というか、ロマネコンチ二本買える位お金ならあるし!」

かなり焦って彼女達はレナを励ますようなコメントをする。ちょっと内容はおかしかったが。因みにリバースサイドはやらないのが基本方針である。

「・・・クロード。」

「え?玄人?」

「違いますわ、蔵人ですわよ。」

ボソリと呟いたレナにオペラとセリーヌは意図的なのかそうでないのかボケな反応をしてみせた。

「何であの子達ばっかりクロードと一緒なのよ〜!」

「れ、レナ!?」

「私だってもっとお話したいのに〜!」

「一体どうしたんですの!?」

いきなり泣き出したレナにギョッとするオペラとセリーヌ。

「あらら・・・レナちゃんって泣き上戸だったのね。」

「未成年にカクテル飲ませといて何を言うんだ・・・。」

「ち、チサトさん!?」

「エル!?」

 興味深そうにレナを見ているチサトの横で、エルネストが呆れた顔をしていた。新たに姿を現した二人に、オペラ達がさらに目を丸くする。

「一体どういうことなのよ、エル!」

「カクテルって・・・お酒ですわよね。レナが飲みましたの?」

「まさかここまで駄目だとは思わなかったのよね。割と軽めで甘口なのにしたのよ?」

「そういう問題じゃないだろう・・・。」

チサトの言い分にエルネストが溜息をついた。

「確か、今日はレナとエルネストさんが食事当番でしたわね。食材を買いに行ったんじゃなかったんですの?」

「ああ、そのはずだったんだが・・・レナが忘れ物をしたと言って一回宿に戻ったんだ。そしたらバーの所でこの記者と顔を合わせてな。」

「仕事だったのよ。グルメページで、カクテルの紹介するから取材しにきたんだから。」

「それで何故レナが・・・?」

「ノンアルコールだと偽って味見させたんだよ。」

エルネストがチサトに視線を向ける。

「え〜、だって料理にお酒使うことあるし、ちょっと位平気だと思って☆」

「15%じゃ十分高いだろ、飲みなれていない奴には。」

『チサトさん!』

「キャー!すみませんでした〜!」

オペラとセリーヌに同時に怒鳴られて反射的に謝罪するチサトであった。

 

 

 

 

 

 さらにまた別の街の片隅にて、鎧を取り髪型を変え、民間人に成りすました十賢者が光の勇者ご一行を偵察しにきたりしていた。

「何で俺様達がこんなことを・・・こういうのはサディケルとかの役目だろ!?」

「まあまあ、ミカエル様落ち着いて。」

イライラしているらしきミカエルをたしなめようとしているのはザフィケルだった。その隣にはハニエルが手にした何かの端末に何らかの情報を入力している。

「うるさいですよ、ミカエル。ガブリエル様の命令です。従いなさい。」

「でもよぉ・・・。」

「ほら、ミカエル様。地鶏串焼きでも食べててください。」

「ザフィケル、いつの間にそんなもの買ったんだ?まあ、食うけどよ。」

ハニエルに注意されてもまだ不満そうなミカエルにザフィケルは食べ物を差し出した。その途端ミカエルの注意が地鶏串焼きに逸らされる。

「ふぅ・・・やっぱりミカエル様を大人しくさせるには食べ物が一番ですね。」

「もしかして・・・貴方が背負ってきた大きな鞄の中身は・・・。」

「はぁ・・・まあ、大体食料です。」

「すみません・・・。」

食料持参でミカエルのフォローをしてくれるザフィケルにハニエルはちょっと申し訳ない気持ちになった。とはいえ、ミカエルが大騒ぎして周囲の者に十賢者とばれたら元も子もない。そんな訳で随時ミカエルに食べ物を与えて気をそらせながら、彼らはクロード達のいる辺りへとやってきた。

「へっへへ〜ん!僕なんてクロード兄ちゃんと一緒にお風呂入ったことだってあるんだからね。」

「な!?そ、そんなの男同士なんだから当たり前でしょ!私だってクロードと一緒にお買い物したことだってあるし、それにあんたよりもずっと長く一緒にいるんだからね!」

「それだったらレナお姉ちゃん達の方が付き合い長いじゃないか。」

「うるさーい!」

「二人ともそろそろ止めておけよ・・・。」

 ミカエル達から見て右手には、相変わらずレオンとプリシスがクロードを巡って大喧嘩をしていた。口喧嘩で武器や呪文を使っていないだけマシだが。

「こ、これは・・・。」

「あいつら何やってるんだ?」

「喧嘩・・・ですかね。」

何となくリアクションに困る十賢者三名。

「クロードの馬鹿〜!」

「“光の勇者、泥沼愛憎関係!?”・・・スクープだわ。」

「チサトさん、もしそれ記事にしたらサザンクロスですわよ。」

「砲撃されたいのかしら?」

「いざとなったら市長に圧力を頼む・・・か?」

そして左手には汚い大人の事情が渦巻いていたり。

「・・・こんな奴ら、偵察しなくても勝てそうじゃねえか?」

「任務は任務・・・ですけど、ねえ・・・。」

相手の醜態ぶりにやる気が削がれてしまったミカエル達である。

「そういえばさ〜、何で今回俺達が偵察任されたんだろうな。この前までサディケル達がちゃんとやってたんだろ?」

「そうですね。ガブリエル様がどうしてもとおっしゃって・・・。」

「確かこの間ルシフェル様が・・・。」

「クロード〜!」

『!?』

 ザフィケルが何か言いかけた所で、聞き覚えのある声が彼らの耳に届いた。この場にいるはずのない人物の声に三人は思わず硬直しそうになってしまった。

「え?あ、君は・・・セフィロト・・・だっけ?」

「また遊びに来ちゃった。あとセフィーでいいって言ったじゃないか。」

「ああ、そうだったね。」

クロードに駆け寄った金髪の少年がニッコリと笑う。

「それよりクロード。あっちの広場で大道芸やってるみたいなんだ!見に行こうよ。」

「へえ、そうなんだ。レオンとプリシスはどうす・・・。」

「レオンの馬鹿馬鹿!」

「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ。第一、僕は馬鹿じゃなくて天才なんだから。」

「・・・聞いてないな。」

「みたいだね★」

クロードがレオン達の方を見れば彼らの口喧嘩はヒートアップするばかりであった。

「ねえ、クロード。喧嘩している人達なんか放っておいて僕と遊ぼうよ。早くいかないと、面白い演技見逃しちゃうかもしれないよ。」

「そうだな〜。じゃあ、行こうかセフィー。」

「うん。」

そしてクロードとセフィロトと言う名であるらしき少年は連れ立ってその場を立ち去っていった。そんな光景を目の当たりにしてしまったミカエル達は呆然と二人を見送る形となる。

「なあ、ハニエル・・・。」

「な、何ですかミカエル・・・。」

「あれ、髪の毛染めてあるけど、どう見てもサディケルだよ・・・な?」

「お、恐らく・・・は。でも何故・・・?」

クロードと一緒に去っていった少年の様子を思い返して、ミカエルとハニエルは引きつった表情のまま顔を見合わせる。

「あ、あの・・・ミカエル様、ハニエル様・・・。」

「ザフィケル?」

「何ですか?」

「その・・・先程の話の続きになるんですが、実はルシフェル様が・・・『あの地球人は天然お子様キラーだから気をつけろ』と。」

『は?』

「何でも偵察時にサディケル様が変装して彼らに近づいたらしいんです。あの方傍目には普通の子供ですから。でも、その時いろいろ親切にされて、いつの間にか懐いてしまわれた・・・と。」

「ま、マジかよ・・・。」

「十賢者の恥さらしめ・・・。」

そして三人はどこか遠い目をして明後日の方向を見ていた。最早偵察する気なんぞさらさらなくなっていた。

「あー!クロード兄ちゃんがいない!!」

「いつの間に!?どこいっちゃったのクロードー!」

 一方、クロードの姿が見えなくなったことに気づいたレオンとプリシスは、慌てて彼を捜し始める。この後、セフィロトことサディケルと一緒にいるクロードを発見した彼らがサディケルを巻き込んでクロードを巡るバトルを繰り広げることになったりするのだが、とりあえず十賢者三名は呆れてフィーナルに戻ってしまったので、与り知らぬ話である。

 

 

 

<後書き>

 ミカ王子シリーズではなく、普通のスタオ話ですね。名付けて『天然お子様キラー、クロード・C・ケニー』って感じです。とりあえず思いついたネタの三分の一は使いました。捏造設定もいろいろ入れてますがね。何か、十賢者のアットホーム設定が頭からこびりついているみたいです(笑)

 なお、未成年者の飲酒は法律違反なので、厳禁です。皆さん、注意しましょう!

 

 

2006/06/01 UP