注意
これは『王子と姫のエトセトラ〜手紙〜』の続きに当たるエピソードです。オリジナルキャラクターが出てきます。こういったものが欠片も許せない方は見ないで下さい。大丈夫だという方はスクロールして下さい。
*後日談*
リビングのソファーに腰掛けて、リョーマは手紙を読んでいた。桜乃からのエアメールである。彼女の趣味であろう可愛らしいピンクの便箋に丁寧に書かれた文章、そして最後の告白じみた言葉。初めは驚き、次に何度も読み返して実感。思わず柄にも無く赤くなってしまった。頬の熱が引いた後もついつい口元が緩みそうになってしまう。そんなリョーマを向かいに座って一部始終見ていたアリサは思った。
(キモッ・・・。)
口に出すと後が怖いので言わないが。そのまま無言で母親お手製プリンを口に運ぶ。滑らかな舌触りと口内に広がる程よい甘味。
(やっぱりカスタードよね。)
そんなことを思いながらアリサはリョーマに声を掛けた。
「リョマ君、サクちゃんの手紙どうだった?元気そう?」
「・・・そうみたいだね。」
少し間をおいてリョーマは返事をした。眼は桜乃の手紙に向いていたが。
「やっぱりテニス部?」
「・・・らしいね。」
「塚君達は?」
「相変わらずだってさ。」
アリサの言葉に淡々と答えるリョーマ。そんなリョーマの反応が面白くなかったのかアリサは少し眉を顰めた。しばし黙考、後何かを思いついたのか人の悪そうな笑みを浮かべる。
「サクちゃん達ってさ〜、確か青学の高等部に進学したんだよね〜?」
「・・・・・・。」
突然何を言い出すのだろうかと思ったが、リョーマは無視を決め込むことにした。アリサと会話することよりも手紙をくれた桜乃のことを考えていたかったからだ。しかし・・・
「中等部と違ってさ〜、ブレザーなんだよね。結構可愛いんだよ、リョマ君知ってた?」
「・・・・・・。」
「写真で見ただけなんだけど、サクちゃんすごく似合ってるよね。超可愛かった〜★」
この言葉に思いっきり反応し顔を上げるリョーマ。
「ん?どしたの?」
自分から仕掛けておいて惚けてみせるアリサ。
「・・・写真って、何?」
少ししてリョーマが口を開く。いつものポーカーフェイスのままだったが三年以上付き合いがあるアリサは彼が密かに動揺していることに気づいていた。
「何って・・・、写真は写真だよ?えーと、確かこういうの・・・。」
そう言ってアリサは横に置いてある自分のバッグからファイルを取り出した。そしてそこから一枚の写真を抜き取ると、リョーマに差し出した。
「ほら、これ。」
リョーマは奪い取るようにそれを手にした。
「・・・・・・!」
写真には高等部の制服姿の桜乃がそれはそれは可愛らしい笑顔で写っていた。もし現物を目の前にしたらリョーマが撃沈しかねない程の凶悪な可愛さである。
「・・・何で、片桐が・・・、桜乃の写真、持ってる訳・・・・・・?」
搾り出すようにリョーマが口にした言葉にアリサは至極あっさりと答えた。
「そんなの決まってるじゃない。サクちゃんにもらったの。」
片桐アリサは竜崎桜乃の仲のいい友人である。当然手紙のやり取りもあるだろう。アリサの趣味がカメラであることを差し引いたとしても、写真を送ることは不自然ではない。しかし桜乃とリョーマはいわゆる恋人同士というやつである。
(俺には写真なんてなかったんだけど・・・。)
何故友達は良くて彼氏は駄目なのか。しかもこんなに可愛い姿だというのに。不毛だと分かっているのだが悔しく思えてしまう。
「言えば?サクちゃんに。写真欲しいって。ま、私は元々
再びプリンを口に運びながらアリサは言った。
「・・・・・・。」
しかしリョーマは答えなかった・・・いや、られなかった。元々そういった柄ではないし、純粋に照れくさいというのもある。だが、それ以上に・・・。
(絶対先輩達にバレる・・・。)
それが嫌だった。そんなリョーマの心を読んだかのようにアリサは嘆息した。
「絶対朋ちゃんに話すだろうしね。そしたら・・・」
「菊丸先輩にバレる。」
アリサの言葉にリョーマが続けた。さらに二人に会話は続く。
「それで、芋蔓式に周君や石君先輩にも伝わるんだよね。」
「・・・・・・。」
「きっと男子テニス部中に広まるだろうね〜。」
「菊丸先輩頭軽そうだし・・・。」
「いや、この場合口でしょ。・・・まあ、面白がられるだろうね。」
「・・・だから嫌なんだよ。」
そしてリョーマはどこか拗ねたように黙り込んでしまった。そんなリョーマを眺めながらアリサは思った。
(素直になれないって大変だね・・・。)
スプーンを口に運ぶと甘くて苦いカラメルの味がした。
<後書き2>
リョーマとアリサのやり取りは書いてて楽しかったです。アリサは水無月の心の代弁者ですよ、本当。だって初めの桜乃ちゃんからの手紙見てニヤけてる王子想像するだにキモいし・・・。設定上アリサは中卒と同時に父親の都合でアメリカに引越しています。リョーマの学校とは州が同じなので彼らは時々会っています。リョーマは日本食目当てに片桐家に通うこともしばしば。書いてませんが前提としてあるエピソードはこんな感じです。
片桐家に出かける直前にリョーマ宛の手紙が届く(複数) 面倒なので鞄にとりあえず放り込み片桐家に着いてから内容を確認。その中に桜乃からの手紙があった。因みにアリサはすでに四月頃桜乃から手紙をもらっている状況。
アリサが用いた呼称に該当する人物は次の通りです。「リョマ君=リョーマ」「サクちゃん=桜乃」「塚君=手塚」「周君=不二」「石君=大石」「朋ちゃん=朋香」
ちなみに水無月はカスタードよりクリームチーズやキャラメルの方が好きです、プリン。もちろんカスタードも嫌いじゃないですけど。
実はおまけでさらにこの後のエピソードも存在するんですが、果たしてこんな物見たい人いるのでしょうか。王子のへタレ度上がってる気がします、個人的に。何かもう違う意味で情けなすぎ・・・。アリサって本当はもっとテンション高い人間なんだけど今回の彼女は妙に淡白。何故だろう・・・?まあ、所々彼女らしさが出てる部分もありますが。微妙に下品な部分があるオチなので、もし不快だったらごめんなさい。それでもかまわないと思ってくれる奇特なお方はどうぞさらにスクロールしてお読みください。
*おまけ*
リョーマから写真を受け取って、それをファイルにしまおうとすると、何故か視線が痛かった。理由は何となく気づいてはいたが、顔を上げるとリョーマのそれとぶつかった。リョーマの態度は一見無表情だが、アリサには名残惜しげを通り越して恨みがましく見えた。どうやらよほど桜乃の写真が欲しかったらしい。
(やれやれ・・・。)
「あー、あのさ・・・。良かったらこれ、あげようか?」
手にした写真を振りつつリョーマに声を掛けた。ピクリと反応を示すリョーマ。桜乃のことになると判りやすい。
「・・・いいの?」
「うん、別にもう一枚持ってるし・・・あ、そっちは朋ちゃんと杏ちゃんと一緒に写ってるやつなんだけどね。」
(それにリョマ君滅茶苦茶欲しそうな眼してるんだもん・・・。)
アリサとリョーマは何だかんだ言って友人同士である。アリサはリョーマが桜乃に惚れ込んでいるのは知っていたし、このカップルの性格も熟知していた。リョーマを前にしてそうそう桜乃が笑顔全開の写真を撮れるはずがない。ならばここは一つ気を利かしてやらねば気の毒というものである。
「はい、どうぞ。」
「・・・ん。」
こうして桜乃の写真はアリサからリョーマへと下げ渡されたのである。しかし、リョーマに写真を受け渡す瞬間アリサは言った。
「とりあえず、貸し一ね。」
「!?」
笑顔でサラリと口にされた言葉に眼を見開くリョーマ。
「まあ、何で返してもらうかは後で考えさせてもらうよん♪」
「ちょ・・・片桐!?」
「な〜に?リョマ君、写真欲しかったんでしょ?」
「うっ・・・。」
「じゃ、別に問題ないじゃない。ね?」
どことなく不二周助の企み笑顔を思わせる表情でアリサは言った。そして空になったプリンの容器を手に立ち上がる。仕方なくリョーマは反論を断念する。確かに写真は欲しかったのだから。
「あ、そうそう・・・。」
「・・・何?」
キッチンに向かう途中でアリサはリョーマの方に顔だけ振り返った。
「その写真、変な事に使っちゃ駄目だよ?」
「・・・・・・?」
「夜のオカズにするなってこと〜。」
「!?・・・だ、誰がするか!!」
赤くなって叫ぶリョーマを尻目にアリサはリビングから退散した。
アリサの姿が見えなくなってリョーマは自分の手元に眼を向けた。あるのは桜乃からの手紙と先程もらった写真。
「まったく片桐のヤツ・・・。」
溜息混じりにリョーマは呟いた。呆れと感謝が入り混じった心で思う。
(そんなことに使う訳ないじゃん。第一、もったいない・・・。)
「でも、サンキュ。」
そして写真を手に記憶に残る彼女の姿と声を呼び起こす。溢れるように込み上げる愛しさがリョーマの胸を支配した。そして普段の彼からは信じられないほどの優しい瞳の色と微笑みを浮かべる。
「桜乃・・・愛してるよ。」
そっと写真に口付けてリョーマはそう囁いた。
終わり
<後書き3>
これで本当にこの話はおしまいです。結構長かった・・・。ギャグオチ(アリサ退場で終了)にしようかと思ってたのですが、急に思いついてしまったので甘めな終わり方にしてみました。ラストのキスシーンは本当に捏造です。水無月の妄想の産物以外何物でもございません。それではここまでお付き合いいただきありがとうございました!