小春日和(リョ桜編)
三月某日、学校のカリキュラム上では春休み。青学男子テニス部レギュラー陣+αで花見を催すことになった。名目は三年生の卒業&高等部進学祝い。発案者はお祭り男の菊丸か桃城と思いきや、何と三年生が一年の時部長だった大和裕大である。青学の柱云々の伝説の文句の提唱者でもあるとか。その実体は乾と不二を足して二で割ったような性格であるという。要はソフトに胡散臭い人物ということだ。念の為に述べておくが水無月(筆者)は大和部長が嫌いではない。
「だからって何で俺の家?」
ある種の理不尽さを感じながらリョーマは眼前の光景を眺めた。自分の住む寺の敷地内でビニールシートを広げる先輩達に正直何といっていいか見当がつかなかった。そう、花見会場はリョーマの家なのである。場所選びに悩んでいると大和がリョーマの父である南次郎に相談した所、彼はあっさりとこの場所を提供した。南次郎と大和に面識があったことも然る事ながら、会場が自宅であることを当日になって知らされたリョーマの心中は複雑である。
(親父の奴、あとで絶対殴ってやる。)
リョーマは決心した。
敷地内の桜の木はいずれも満開で、なかなか素晴らしい眺めである。リョーマがふと目を遣ると、桜乃が三つ編みをふらふらさせながらこちらへ歩いているのが見えた。山積みの重箱を抱えて、重いのか足取りが覚束ない様子。リョーマは桜乃の元へ駆け寄ると、ヒョイと荷物の大部分を取り上げた。
「こっちは俺が持つから。」
「リョ、リョーマ君!?いいよ、大丈夫だよ。」
「駄目。あんたさっきから足ふらふらしてるし。只でさえ何も無い所で転んだりするんだから余計危ないでしょ。あんたが転んだら料理が台無しになるじゃん。」
「はうぅ・・・。」
桜乃撃沈。
「それに俺は桜乃の彼氏だからね。彼女を助けるのは当然。」
「リョーマ君・・・ありがとう。」
リョーマの言葉に桜乃は頬を染めふんわりと笑った。
「綺麗だね、リョーマ君。」
皆がドンチャン騒ぎをしている所を二人で抜け出して、リョーマと桜乃は寺の裏手にある桜の木の前にいた。
「この木が一番古いんだって。前に親父が言ってた。」
雄大に聳え立つ桜の古木。それをうっとりと見つめる桜乃。
「この木の下でお花見できたら良かったのにね。」
「仕方ないでしょ。スペースないんだから。」
彼らの前にある桜が本当はここ一番の桜なのだが、立地条件が悪く、少人数ならまだしも、皆で花見が出来るようなスペースが確保できないのだ。その為、別の木の下が花見会場になったのである。
「朋ちゃんも誘えば良かったかな。」
桜乃としては大好きな親友にこの桜を見せてやりたいという気持ちでの言葉だったが、桜乃と二人きりになりたくて誘ったリョーマとしては面白くない。
「小坂田は先輩といるんだし、邪魔するのは野暮なんじゃない?」
「そうだね・・・。」
「桜はまだ咲いてるんだし今日じゃなくてもいいじゃん。また来れば。」
「うん、ありがとう、リョーマ君。」
桜乃は嬉しそうに微笑んだ。
「それにさ、せっかく二人きりなんだから、他の事じゃなくて俺のこと考えてよね。」
「え・・・?」
リョーマが桜乃の頬に手を添える。そしてゆっくりと顔を近づけた。触れ合う唇と唇。
「・・・んん、リョ、マ君・・・・・・。」
「黙って。俺に集中して。」
頬を紅潮させる桜乃。腕を掴んで身動きを封じて。リョーマは何度も唇を重ねる。
「リョーマ・・・君。」
「俺だけを感じてよ。」
「・・・んん、ふぅんん・・・・・・。」
桜乃の口から曇った声が漏れる。次第に深くなっていく口付けに桜乃は否が応にも酔わされて。
「好きだよ、桜乃・・・。」
(だから俺だけを想って・・・。)
リョーマが桜乃を抱きしめその耳元で囁いた。
風が吹く。梢が鳴る。桜の花弁が舞い上がった。空気は優しく恋人達を包み込み、春の祝福が降り注ぐ。
<後書き>
春の定番、花見話。ていうかほとんど花見してないじゃんというツッコミは勘弁してください。続きが思い浮かばなかったんです。ごめんなさい。しかも短いです。というか後半の王子のセリフで力尽きました。うっかり砂糖の入れすぎた冷えた紅茶を飲んでしまった気分です。うえええええええ・・・。そんな気分に陥りつつも何とか書き上げました。
タイトルの『小春日和』の意味は同タイトルのSSから来ています。舞台設定は同じなんですが、内容は36コンビ(+乾)のギャグ話です。まさにショートコント状態。そしてよくある話。こっちを先に考えたのでタイトルもそのまま流用。なので話の内容にあってなかったりします。
最後にこの話を書くにあたり一番困ったのは大和部長のフルネームです。漢字覚えてない〜!大和部長は大和部長で通していたからなあ、これまで。水無月は基本的に本誌派だからファンブック系のネタは良くわからないんですよ。一応部分的に流し読みしたことはありますが。こういう時、困りますよね。名前。