03:赤と青
〜名前を決めよう! Part7〜
きっかけは光の勇者ラグナス・ビシャシの一言だった。『ドッペルゲンガー・シェゾ(Dシェゾ)の名前は長くて呼びにくい。』そんな主張をするラグナスにDシェゾは『余計なお世話だ。』と反論する。どうも相性の宜しくない二人は口喧嘩の末実力行使に躍り出た。その結果、争いの現場であった闇の魔導師シェゾ・ウィグィィの家の一部が破壊され、怒り狂ったシェゾの制裁が破壊魔二名に振り下ろされた。件の騒動を聞きつけた魔導師の卵でシェゾ達との腐れ縁の持ち主でもあるアルル・ナジャは、興味を引かれリサーチを開始する。ラグナスとDシェゾを自宅に招き直接尋問を試みた彼女だったが、彼女の家にシェゾが訪問した事により事態は急変する。ラグナス達が恐怖の帝王と化したシェゾに怯える中、紆余曲折を経て、アルルは事情聴取を終えた。そして彼女は宣言する。Dシェゾの呼び名を新たに付けることを・・・(前回までの粗筋)
「実際ちょっと呼びにくい訳だし、もっと呼びやすくて素敵な名前をみんなで考えようよ!ね?」
「俺は別に構わないが・・・。」
アルルの提案にまずラグナスが乗る。ロープでグルグル巻きにされて椅子に座っている状態なのは変わっていないが。シェゾは無言である。我関せずと言った所なのかもしれない。
「だから余計なお世話だと言って・・・。」
「駄目だって言っても勝手につけちゃうからね。ヘンタイ二号とかそんな風に呼ばれたいの、Dシェゾ?」
「う・・・!」
反論したものの彼女の言い分に言葉を詰まらせるDシェゾ。アルルが猫のようにニタリとした笑みを浮かべている。Dシェゾは葛藤と戦っていた。もしこのまま放置したらそれこそとんでもない呼称を付けられかねない。ならば、この場に止まり少しでも彼らの意向を軌道修正するべきではないだろうか。
「じゃあ、決定〜ってことでみんなで考えようか。」
しかしDシェゾが考えている内に、アルルが音頭を取り、皆で案を考えることになる。
「ところで、アルル。この縄外してくれないか?」
「イ・ヤ♪」
途中、ラグナスから出された提案は即却下されたりしたのだが。
「それじゃあ、みんなどんなのにした〜?まずはラグナスから!」
「え、俺?う〜ん、ドッペルゲンガー・シェゾだから“D・S”とか・・・。」
まずはアルルがラグナスに話題を振る。ラグナスはいきなり指名されたことに戸惑いつつもシンプルな回答をした。
「気持ちは分からなくもないが紛らわしいな。」
「うん、紛らわしいよね。」
シェゾのコメントにアルルが相槌を打つ。Dシェゾは眉間に皺が一本増えた。コンパイルでD・Sといえばディスク・ステーションと相場が決まっている(かもしれない)。また、そんな風に呼ばれているキャラクターが世に存在しない訳でもない。
「というか、シンプルすぎて面白みが欠けるし。」
「面白みを求めてどうする。」
今度はアルルのコメントにシェゾがツッコミを入れていた。
「じゃあ、そういうアルルはどうなんだよ。」
やや不貞腐れた様子でラグナスがアルルに問いかける。
「え〜と、ボクはね・・・瞳が赤いから“
「コー?」
アルルの考えた名前の一つをDシェゾが反芻する。
「何か、別人みたいだな。紅って。」
シェゾがポツリとそう口にした。
「しかもアルルだって単純じゃないか、名前のつけ方。」
「何か文句あるわけ?」
「いえ、何でもありません・・・。」
ラグナスは批判めいたことを言うが、剣呑な目つきをしたアルルに例のハリセンを構えられて、慌てて目をそらした。
「シェゾは何かないの?」
「は?」
「ひょっとして何も考えてないの?」
「その言い方からすると、俺も考えるのか?」
「考えるの!」
コメントはするくせにシェゾは自分には関係ないものとして何も考えていなかったらしい。
「もう、しょうがないな。ボク達が他にも候補出すからシェゾもちゃんと考えといてね。」
アルルが唇を尖らせてそう言うと、シェゾはまた少し不機嫌そうになる。
「ちゃんとしないとジュゲムだからね。」
「・・・分かった。」
結局ジュゲムで脅される形で、シェゾは承諾した。
「シェゾと同じで闇属性だから“ダーク”とか・・・。」
「う〜ん、それだと闇の剣と被っちゃうから可哀想じゃない?」
冷静な視点で見れば誰がどう可哀想なのかとか突っ込み所が多々あるのだが、生憎誰もそういった発言をしていない。勇気がないのか単に気付いてないのかはたまたその両方か。今の所、彼らの様子からは窺い知ることはできない。
「ドッペルゲンガーだから“ゲン”なんてのは?」
「それもう元の名前から掛け離れてると思うけど・・・。」
「でもそういう愛称ってたまにない?リチャード=ディックとか。何で頭文字がRなのに略称はDなのって感じ。」
「いや、そんなこと俺に言われても・・・。」
「ねえ、シェゾは何か思いついた?」
話し合いが煮詰まってきたのかアルルはシェゾに話題を振る。
「Spiegel・・・。」
「え?今、何て言ったの?」
シェゾの呟きにアルルは聞き返す。小声だということもあったが、何より聞き覚えのない響きだった。
「シュピーゲル・・・ドイツ語で“鏡”という意味だ。ドッペルゲンガーもドイツ語だしな。」
なお、この世界にドイツなんて国があるかとかドイツ語なんてあるのかというツッコミはこの際無視します。
『へ〜、そうなんだ〜。』
異口同音に感心しているアルルとラグナス。
「だが、オリジナルよ。由来は理解できるが略称としては長すぎるのではないか?」
「う〜ん、まあな。それにちょっと響きもな。」
慣れないと少し言いにくい発音ではある。Dシェゾの指摘をシェゾも分かっているようだ。
「捻りすぎても分かりにくくかるかもしれんな。」
「じゃあ、もっと分かりやすそうなのも考えてみるか・・・。」
シェゾは顎に手を当てて思案する。それを見守るDシェゾ達。シェゾは何となしにDシェゾを見つめた。赤いバンダナに黒い衣装。椅子に括りつけられている姿が間抜けである。顔の造作はそっくりのはずなのに瞳の色が違うだけで印象が違ってくるから不思議だ。
「この際いっそシンプルに“赤黒”ってのはどうだ?」
「なら我はお前を“青黒”と呼ぶぞ、オリジナル。」
「・・・悪い。別のにしよう。」
Dシェゾに即座に切り返されて、シェゾは溜息混じりに首を振った。赤と青の瞳はまた視点を定めぬまま宙を彷徨う。Dシェゾもまた真剣に自らの名を考え込みだした模様だ。アルルとラグナスが自分らが話題に遅れ始めたのに気付くのは約三分後の話である。
<後書き>
シリーズ第七回にして初期設定にあったネタがようやく登場。このまま一気に想定してあったクライマックスに持って行きたい所です。というか、自分前振り長すぎ(爆)
お題の『赤と青』はラストに出てくるのみですが。たまにはシェゾがボケでDシェがツッコミというのもいいでしょう。
2006/03/15 UP