04:闇

The Successor Of Darkness 第一章〜

 

 

 

 

 

「はっ、闇属性だから悪?光属性だから正義?馬鹿馬鹿しい。それがどうした!」

 シェゾは嘲笑と共にそう吐き捨てると、闇の剣を振り下ろした。黒く透き通ったクリスタルの刃は相手に致命傷を与える。

「や、やはり・・・おぬしは闇の魔導師・・・悪の申し子よ・・・がはっ。」

斬られた男・・・老魔導師は自らを包む白いローブを血で染めて、鮮血を吐く。

「貴様など俺の一部にしてやる価値もないな・・・。」

シェゾの呟きが倒れた老魔導師に届いたどうかは分からない。身体は自らの血液でできた池に沈み見開かれたままの瞳は濁り始めていた。

 男は『光の使徒』に所属する魔導師だった。『光の使徒』とは光属性の魔導力を至上とする集団で、所謂“勇者様”を担ぎ上げている人々といった所だ。過激派なメンバーも多く、特に闇魔導を目の敵にしていた。時折、見習い魔女ですら迫害することもあり、ギルドや協会、魔導学校からは異端とされている集団でもある。そんな『光の使徒』の一団が、シェゾを襲撃してきたのだった。理由は闇の魔導師シェゾ・ウィグィィ・・・彼の存在を危険視しての行動であった。結果は見ての通り、一団の敗北である。

 

『魔導力の属性で物事の善悪が決まってたまるかよ!』

 

かつて先程のシェゾのように叫んだ少年をシェゾは知っていた。少年の父親もまた闇属性の魔導力を持っていた。その頃はまだ、闇魔導全般に対する偏見が強く、少年は母親と共に迫害を受けていた。因みに今では単なる闇属性魔導と闇魔導には区別が成されており、闇魔導は吸収魔導やアレイアードのような禁呪を指すものとされている。そしてそれらは未だ忌むべきものとして扱われていた。最近ではシェゾが古代魔導を得意とするせいで“古代魔導=闇魔導”といった妙な誤解をする者も出てきているらしく、いただけない状況である。

「あの頃に比べれば随分とマシになったもんだぜ。」

 『光の使徒』一団の遺体を捨て置き、シェゾは再び歩き出す。どこへ行くのでもないあてのない旅であったが。

 

『大体、ヘブンレイが使えるからって脱税をしない保証なんてない訳だし。』

『その例え方は流石にどうかと思うぞ・・・。』

『・・・て、何、シェゾ、酒なんて飲んでるのさ。ずるいぞ。』

『お前はまだ未成年だろうが。十年早いぜ。魔導酒で我慢しとけ。』

『それは酒だけど酒じゃないんだってば!』

『お前が大人になったらその内、いい酒教えてやるよ。』

『絶対だからな!』

 

シェゾはふとそんな軽口を叩く少年の顔を思い出した。集落の者に迫害されて生傷が絶えない体で、懸命に母を庇って生きてきた少年。性格が荒んでもおかしくない環境の中で、彼はいつだって屈託のなく笑う。シェゾはそんな少年が羨ましく思えた。

(久し振りに会いにいくか・・・。)

そしてシェゾは目的をもって歩き出した。

 

 

 

 目的地に向かう途中で、シェゾは一人の男に道を遮られた。ライトアーマーに細剣[レイピア]を構えた褐色の肌の男である。髪は深みがある青だった。瞳は緑で、切れ長だ。彫りも深い顔立ちでシェゾ程ではないが、整った顔立ちをしている。

「てめえが闇の魔導師だな!」

「誰だ、貴様は・・・。」

さほど広くない街道で剣を構えられては、避けて通るのは少し難しい。もちろんシェゾ程の実力者であればいくらでも方法はあるが、今は目的のある旅故にあまり面倒事は起こしたくなかった。

(あいつの所に変な奴等を連れて行くわけにもいかないしな・・・。)

シェゾは大きく溜息をつきたい気分になる。

「俺はただの旅人だぜ?何を根拠に闇の魔導師なんて言いがかりをつける。名誉毀損で訴えられたいのか?」

闇の魔導師は先代のルーンロードが世間様にいろいろとご迷惑をおかけしすぎたこともあり、大変一般の人々からは未だに評判が悪いのである。シェゾはいけしゃあしゃあと空惚けてみせた。

「な、何だと!?」

シェゾの態度に男は酷く狼狽した様子である。恐らく彼の頭の中では目の前の男が闇の魔導師であると疑っていなかったのだろう。まあ、実際シェゾは本物だったりするのだが。男の切っ先が揺れているのは彼の動揺の現れのように見える。

「それともただの辻斬りや強盗の類か?」

 シェゾがことさらに小馬鹿にしたような態度を取ると、男は顔を耳まで赤くして怒鳴った。

「な、何てこと言いやがる!てめえこそ、オレにあや付けようってのか!?大体、闇の魔導師ってのは昔から銀髪で黒尽くめと相場が決まってるんだ!とぼけようったってそうはいかねえぞ!!」

誤解のないように言っておくが、黒尽くめはともかく、銀髪なのはシェゾとルーンロードといった一部の闇の魔導師しか当てはまらない。ただ、ルーンロードが一般人にも知られるレベルで好き勝手やっていたというだけの話である。

「ほお、ならこの世に闇の魔導師は何百人・何千人もいることになるな。」

「ぐぐ・・・!」

シェゾの物言いに怯む青い髪の男。

「お前がどういうつもりか興味はないが、邪魔をするなら切り捨てるぞ。」

そしてシェゾは腰の剣に手を掛ける。愛用の闇の剣とはまた違う、普通の長剣だ。それなりの名工の手によるものではある。少し前に『光の使徒』と事構えたこともあり、要らぬ火の粉を避けるために、普通の武器を表に出して動いていたのだ。

「・・・あ、あんたは本当に闇の魔導師じゃないんだな。」

「そうだと言ったら?」

「じゃあ、まさか魔法剣士なのか?」

 男が恐る恐る口にする。一般に魔導師の武器は杖やナイフである。杖に仕込みをしている場合もあるが、それでも細剣といった軽いものだ。シェゾが腰に下げているような長剣は剣士のものとされている。そしてシェゾの身に着けている衣服は魔導アーマーといったある程度の経験のある人には分かる類の防具である。さらに剣と魔導を併用して戦うタイプを世間一般では魔法剣士と呼ぶ。その分類で当てはめるならシェゾや某光の勇者もそれに当たるのである。そして剣も魔導も一級品の魔法剣士は極端に少ないとされていた。

「だったら、どうする気だ。生憎俺は強いぞ。腕試しのつもりなら止めておけ。」

「なら、力を貸して欲しい・・・!」

「は?」

唐突な男の言葉にシェゾは眉根を寄せる。だが、男の表情は真剣そのものだ。

「情報屋の話だと、この道を闇の魔導師が利用しているはずなんだ。オレはそいつと戦いたい!いや、戦わなきゃいけないんだ!!」

男の強い意志を秘めた瞳がシェゾを射抜く。

「何故、そう思う・・・。」

「それは・・・。」

 

『シェゾ、俺、強くなりたいよ・・・!』

 

男の姿が記憶の中の少年と被って見えた気がした。

 

 

 

 

 

<後書き>

 いつかちゃんと長編として書きたいな〜と思っているシェゾの過去設定の一部です。といってもころころ変わったりするのですが。長編シリーズの構想は複数あるのですが、そのどれもが繋がっていないという・・・(爆)

 一応短編ぽく書いてみました。そしてまたもや続きます・・・御免なさい。でも、三話以内に収める目標なんです。そんなわけでサクセサー・オブ・ダークネス(闇の後継)シリーズ開幕です。

 

 

2006/04/28 UP