05:時空の水晶

〜名前を決めよう! Part8〜

 

 

 

 

 

「いいのが出ないね〜。」

「というか急にそんなこと決めること事態が少し無理があると思うが・・・。」

 なかなか決まらないDシェゾの愛称に初めは乗り気だったアルルもやる気が薄れてきたようである。それに対してシェゾは別に無理に決めなくても良いと考えているようだった。そしてラグナスといえば・・・

「な、なあ、アルル・・・。」

「何?」

「いい加減腰とか痛くなってきたんだけど・・・この椅子硬いし。」

「あ、ごめん。すっかり忘れてた。」

そう言ってアルルがラグナスとDシェゾを拘束から解放する。相変わらずDシェゾと共に縛られたままだったのだ。開放された二人は間接を解すとゴキゴキと音が鳴った。

「ある意味拷問だったな・・・。」

ラグナスが疲れたようにそうコメントした。

「でも本当にどうしよ〜。」

「別に無理して決めなくてもいいんじゃないか?」

「だけどここまでやって決まらないのは・・・。」

どうやらアルルはまだ納得できないらしい。

「シェゾ、古代魔導語でぴったりの名前とかってないの?」

「は?」

「こう、アレイアードとか・・・あ、アレイアードって結構格好良い響きだよね。」

「そりゃ、どうも。確か意味は“天使の翼を折る”・・・だったかな。」

アルルの問いかけに一部受け答えるシェゾ。

「ううう・・・意味はちょっとえげつないかも・・・・・・。」

「伊達に禁呪レベルの闇魔導じゃないってことだ。」

「だったらそんなものポンポン放ってこないでよね。」

「お前だってバカバカ無駄にジュゲム放ってくるだろうが。」

「それはそうなんだけど〜・・・。」

アルルとシェゾの漫才のような言葉の掛け合いはしばらく続いた。

「まあ、下手に凝った呼び方にすると後から却って分からなくなるかもな。」

 最終的にシェゾがそう結論付ける。というかそういう設定は書いている本人が面倒くさくなりそうなので却下願いたい所である(本編とは余り関係ない筆者の私情)。

「う〜ん、やっぱりシンプルなのにした方がいいかな。“ドペシェ”とか・・・。」

「いや、“ドペシェ”は流石にどうよ・・・。」

アルルの言葉にラグナスが苦笑いを浮かべつつツッコミを入れる

「Dシェゾ自身はどういう風に呼ばれたいのさ?」

「別に・・・。」

アルルが話の矛先をDシェゾに向けると彼はそう答えた。

「今の我はシェゾ・ウィグィィのドッペルゲンガーである以外に何者でもない。」

「・・・な、何言ってるのさ!シェゾはシェゾで、キミはキミだよ?」

Dシェゾの答えにアルルは慌てたように、だが心配しているかのようにそう告げる。

「お前はまだそんな考え方をしていたのか・・・。」

「オリジナル・・・。」

シェゾもまた、呆れたような口調で言った。Dシェゾは何かを言いあぐねているようだったが、結局口を閉ざす。

 それからどれくらい時間が経っただろうか。重苦しい沈黙に耐え切れなくなったアルルが、ふと壁に掛かった時計に目をやる。

「ああああああああああ!?」

場を覆いつくさんばかりの沈黙はアルルの大声によって破られた。

「ど、どうしたんだい、アルル?」

悲鳴を思わせるアルルの叫びに慌てたラグナスが尋ねる。

「ラグナス!見てよ、ほら、あの時計。もうこんな時間だよ。夕飯の買い物しにいかなきゃ売り切れちゃうよ、スーパー!」

「え?・・・あああああ!!」

「グー!?」

アルルに指摘されてラグナスも顔色を変える。そしてアルルの声で目を覚ましたらしきカーバンクルも。

「今日は缶詰が五時からお買い得セールなのに!」

「ごめん、シェゾ、Dシェゾ。ボク、これから買い物行かなきゃ!悪いけど、Dシェゾの呼び方は二人で決めておいてね。」

「お、おい・・・。」

「じゃあ、みんなまたな!」

シェゾが止める間もなく、アルルは財布を取りにか、別室へ移り、ラグナスもアルルの家から出て行く。カーバンクルは食欲の舞を踊っていた。

「帰るか、オリジナル。」

「そ、そうだな・・・。」

口元を引き攣らせつつもシェゾは荷物をまとめ、Dシェゾを連れてその場を後にした。

 

 

 

 シェゾの家(修復済)に戻ると、てのりぞうが夕飯の仕度を進めている最中だった。適当に挨拶を済まし、彼らは部屋を移動する。シェゾがアルルの家から持ち帰った荷物をしまっている間にDシェゾは備え付けのソファーに腰を下ろした。アルルの家で椅子に括りつけられていたときとは違い、こちらはクッションがしっかりしている。手前にあるガラス張りのテーブルは鏡のようにDシェゾの姿を映し出していた。

(我は時空の水晶・・・。)

「だが、今はシェゾ・ウィグィィのドッペルゲンガー・・・。」

Dシェゾは一人呟く。

(そもそも何故我はあの時、あの者のドッペルゲンガーで在り続けることを選んだのか。少なくともその時はそれが自然のことのように思えた・・・。)

「だが、今は分からない・・・。」

Dシェゾは“自分”というものが分からなくなってきていた。

(正確にはドッペルゲンガーというよりも我はオリジナルを模しただけの存在なのだが・・・。)

「お前、さっきから何をブツブツ言ってるんだ?」

「オリジナル・・・。」

気がつけばシェゾが部屋に戻ってきていた。手にした本は恐らく魔導書であろう。

「まだ呼び方とか気にしてるのか?別に今のままだっていいだろうが。まあ、アルルに言われたこともあるし、考える努力くらいはしてみるか。」

そんな事を言いながらシェゾもまたソファーに腰を落ち着ける。そして魔導書を開き、文字に目を走らせた。その様子をDシェゾはじっと見守っている。

「う〜ん、時空の水晶だろ?クリスタルから取ってクリスとか・・・。」

「捻りが足りなくないか?」

Dシェゾの視線に気付いてか、シェゾが顔も上げずに提案する。それに対してコメントを述べるDシェゾ。それからしばらくして、シェゾは再び口を開いた。今度は顔を上げて正面に座るDシェゾを見つめる。

「じゃあ、“空”ってのはどうだ?」

「クー・・・?」

「そう、“空”だ。お前がドッペルゲンガーであることに縛られず空のように自由であるように・・・なかなかいい名前だろ?」

「・・・ああ、そうだな。」

得意そうなシェゾの言葉にDシェゾは口の端を上げて肯定を示すのだった。

 

 

 

 

 

<後書き>

 ついに完結シリーズ第八回。良かった、何とか十話以内で収まって・・・。という訳で、Dシェゾの呼び方は『空』に決定・・・でもこの話でだけです。もしくはここのお題でだけ。だって、他の所で使っても分かりにくいだけですし。

 ここまで長々とお付き合いいただきありがとうございました。

 

 

 

2006/03/16 UP