10:継承
〜名前を決めよう! Part4〜
「何か急に部屋が広くなった気がする〜。」
「人が減ったからな。」
ラグナスとDシェゾとカーバンクルが出て行き、一気に人口密度が低くなったアルルの家のリビングにて、シェゾとアルルはのん気に会話の続きを楽しんでいた。
「でも絶対あそこウィッチのお店より品揃えいいよね〜。」
「半人前のウィッチの店と比べる方が失礼だろ。」
話題の中心は高性能で珍しいアイテムを扱う魔女や有名魔導師御用達の店。そこでシェゾが購入したという魔導力回復タブレットにアルルは興味津々だ。
「今度はボクも自分で買い物したいな。シェゾ、紹介状書いてよ。」
「何馬鹿言ってるんだ。テメエみたいなちんちくりんには十年早いぜ。」
「だからその“ちんちくりん”って言い方止めてっていつも言ってるでしょ!?」
「だったらお前こそ俺のことヘンタイ呼ばわりするの止めろよ!!」
そのまま口喧嘩が始まり約十分。勢いに任せて魔導を放とうとしたアルルと闇の剣を構えたシェゾは唐突に気付く。
(あ!よく考えてみたら、ここボクの家だし。穴とか開いちゃうかも・・・。)
場所のことを考えて悩みだすアルル。
(アルルのいつものパターンだとジュゲムだな。まずい!この角度だと俺の荷物が巻き添えを食う・・・!)
状況を考え焦るシェゾ。思わず二人の動きが止まった。
「ね、ねえ、シェゾ。やっぱり止めよっか?」
「そ、そうだな。ここで争っても不毛だしな・・・。」
喧嘩に集中する余り立ち上がって戦闘体勢をとっていた二人は、改めてテーブルを挟んで座りなおす。
「シェゾはあそこのお店よく行くの?」
何度目になるかは分からないが、アルルが話を投げかける。大抵彼らが普通に会話を交わす時、話し始めるのはアルルからだ。魔導力を巡っての喧嘩はシェゾからの場合がほとんどだが。普通の喧嘩は五分五分といった所である。
「まあ、昔はな。最近はそう多くない。薬草系ならウィッシュとかから手に入れた方が良い品があるしな。」
「そうなの?」
「店に置いてあるのは保存が利くように加工してあったりするからな。生で置いてある所はほとんどない。たまに店主が趣味で栽培してたりするが。」
「薬草を?」
「ああ、ウィッチみたいに本業が魔女とか魔導師とかだと、自分の研究用に作ってあるのがいるんだよ。で、その余りを売りに出したりするわけだ。まあ、余りというよりは初めからその分を余計に栽培してあると言った方がいいかもな。」
「へ〜。」
アルルはいつもながら彼の知識に感心していた。まだ学生の身分である彼女と違いシェゾはキャリアが長い。
「このタブレットだってせっかく商品化成功したって聞いたから態々買いに行ってやったのに品切れとか言いやがってあの野郎・・・。」
「え?」
「あ、いや、何でもない・・・。」
「え、でも、いや、何かさあ、ひょっとして、シェゾとこのケースの中身発明した人って知り合い?」
シェゾがアルルを見つめる。その瞳には驚きの色が浮かんでいた。
「だって、何かいろいろ事情に詳しいみたいだしさ。あとシェゾの言い回しもそんな感じ。まあ、確証があるわけでもないし、強いて言えば勘?」
アルルは言葉を紡ぎながらも真っ直ぐにシェゾを見つめ返している。
「あ〜!ったく、そうだよ。奴と俺は顔見知りだ。昔一緒に仕事したことがあるんだよ。」
シェゾは前髪部分を手でガシガシ掻いて、自棄になったように告白する。
「そうなんだ〜。あ、まさかその人にもヘンタイ発言して追い回したりしてないよね?」
「誰がするか!?」
シェゾが青筋を浮かべて反論する。
「そんなに怒ると血圧上がるよ?」
「お前のせいだろうが!」
のんびりしたアルルの口調とは反対にシェゾの状態はヒートアップしていく。
「大体!あいつをお前みたいな半人前魔導師と一緒にするな!?魔導技師としての腕は俺より上なんだぞ!!」
「えええええええ!?」
シェゾの衝撃の告白にアルルが大声を上げる。自他共に認める(?)優秀な魔導師であるシェゾ。それなりに自信家な部分もあるが、その彼が自分より上だと評する人物。一体何者だというのか。しかし、アルルの驚きのポイントは若干ズレがあった。
「シェゾが・・・あのシェゾが他人を認める発言をするなんて・・・明日は大雨だよ!買い置きしておかなくっちゃ〜!?」
「それはどういう意味だアルル!?」
大雨所か槍でも降ってきそうな戦き様である。
「あはははは、まあまあまあ、それで?その人のお店で売り切れてたから態々別のお店で買ってきたの?」
「一応、これでも開発の段階から噛んできてるからな。モニターも引き受けたし。完成品がどうなったか気になっても仕方ないだろ。」
知人の店の売り上げ貢献には回りくどい気もするが、他の店で買っても製作者は一人なので回りに回ってその人に利益が入ってくるという寸法らしい。具体的にいうと、他の店の商品が売れることにより、採算が取れると店に思わせれば、製作者と店側の取引促進に繋がるということである。
「へえ、じゃあ、シェゾから見てその人ってどんな感じなの?」
「何だ、お前。今日はやけに突っかかるな。」
「突っかかってなんかないよ。でも今日はいろいろとお話が聞きたい気分なの。」
「はあ?」
「いいじゃないか。何かの勉強になるかもしれないし。」
「何だか暇つぶしに良いように利用されている気がするんだが・・・。」
「はっはっは、気のせい気のせい♪」
そんなこんなでアルルとシェゾが話をして、丁度話題が一段落着いた頃、ラグナスとDシェゾがカーバンクルと共に戻ってきた。
「グー!」
『・・・。』
ご機嫌なカーバンクルとは対照的に財布の中身を搾り取られたのか彼らの表情は暗い。駆け寄ってくるカーバンクルを抱き上げ、アルルは少しだけ苦笑いするのであった。
<後書き>
一向に話が進んでいかない『名付け』シリーズ(笑)第四話。お題『継承』を当てはめておりますが、内容から継承なんてものは窺えません。では、何故そうなったのか。この意味はお話を受け継いでいくという思考です。つまり、話と話を繋ぐインターミッション。内容ではなくシリーズの中でのこの回の役割が『継承』なのです。・・・うわ!何その変化球!?反則解釈もいい所です(爆)
それにしても出番とかそういった部分ではDシェよりシェゾの方が良い役な気がします。Dシェも嫌いじゃないんですが・・・だってシェゾの方が好きなんだもん!(笑)
2005/10/15 UP