11:魔力
〜名前を決めよう! Part6〜
「もう!ボクの家で魔導使って喧嘩するの止めてよね。」
プンプンという形容が似合いそうな怒り具合でアルルは腰に手を当てた。その右手には何故かハリセン。しかも『一撃必殺』という文字がプリントされている。彼女の足元には大の男二人がタンコブを生やして転がっていた。ラグナスとDシェゾである。
「意外と手が速いな。」
「先手必勝!」
シェゾのコメントにアルルはシュッと手にしたハリセンを振ってみせる。どうやらこのハリセンでラグナス達を殴り倒したらしい。一体どれほどの威力だったのか。それとも彼女の持つハリセンが特別製なのか。
「よし。これ以上暴れ出さないように椅子にでも括りつけておこう。シェゾ、手伝って。」
「はいはい。」
シェゾは面倒臭かったが、今のアルルに逆らうとラグナス達の二の舞になりそうだったので、大人しく従っておく。アルル達はラグナスとDシェゾを椅子に座らせるとそのままロープでグルグル巻きにした。念の為に言っておくがこれは拘束プレイとかそういったものではない。第一この場にいる全員にそういった趣味はない。
「さてと、これでようやく本題に入れそうだね。ラグナス達にはキリキリ吐いてもらわないと。」
笑顔を浮かべるアルルからはその本心を読み取るのは難しい。むしろこれもある意味ポーカーフェイスである。というか、オーラが黒かった。
「だが、どうやって起こす気だ。水でもかけるのか?」
「ううん。それよりもっと良い方法があるよ。」
シェゾの言葉に答えるかのようにアルルが再びハリセンを構える。
「待て待て待て!」
思わず止めに入ってしまうシェゾ。何せ先程ラグナス達を一撃で沈めたハリセンだ。
「何なの急に・・・。」
「お前はこいつらに止めを刺す気か!?」
「はあ?キミ何言って・・・ああ、そっか。大丈夫大丈夫。」
流石に焦った様子で椅子の二人を指差すシェゾに、初め怪訝そうな表情を浮かべていたアルルは得心がいったかというように、にこやかにパタパタと手を振る。
「シェゾ、ちょっとここ見てみて。」
アルルが人差し指で示したのはハリセンに記された文字。よく見れば意外と達筆だった。シェゾは彼女の意図読み取れないまま、何となく記されている文字を口に乗せる。
「“一撃必殺”・・・。」
「そう。じゃあ、こっちは?」
アルルがハリセンの面を裏返す。そこにもまた文字が記されていた。
「“起死回生”・・・?」
「うん。これね、一撃必殺の面で叩くと相手を一撃で倒せるんだって。それで反対の面で叩くと、これで気絶しちゃった人が目を覚ますんだよ。」
アルルがそれぞれの面の文字を示して説明する。
「お、お前一体どこでそんな珍妙な物を・・・。」
「前にサタンに作らせたんだよ。」
「・・・。」
にこやかにさり気なく問題発言をしているアルルにシェゾは返す言葉が咄嗟に浮かんでこなかった。
「さ、サタンに貰ったんじゃなくて、作らせたんだ・・・よな?」
「うん、そうだよ。」
さも当然というようにシェゾの言葉に答えるアルル。サタンは昔から珍しい魔導器のコレクションを持っている。だからハリセンの形をしたアイテムがあっても、まあ、不可思議ではないと言えるかもしれない。しかしアルルは言った。これはサタンに作らせたものだと。彼女の性格からしてこの状況で嘘はないように思える。
「これね、魔導力が空っぽの時は只のハリセンなの。サタンが使い手の魔力を打撃の威力に変換させるとか何とか言ってた気がする・・・。」
「ほぉ・・・。」
シェゾの相槌を受けてアルルはさらに続けた。
「確か気合入れて叩けばその分威力も出るって言ってたな〜。ただ、普通に魔導を使うのと違って、あんまり疲れたり魔力使ったって感じしないんだよね。いつの間にか魔導力使い切っちゃっても気付かないかも。」
「それは役に立たないな。」
「うん、こんな風に日常生活で使う分には良いけど、ダンジョンとかいった時とかは使えないよね。便利なんだかそうじゃないんだか分からないや。」
「全く、何でこんな使い勝手が悪いもん態々サタンに作らせたんだ?」
呆れの混じったシェゾの言葉にアルルは唇を尖らせる。
「そんなこと言ったって〜。ただボクは“最近シェゾのヘンタイ癖が再発したから死なない程度に一発で黙らせるようなものが欲しい”って言っただけなのに〜!」
「誰が変態だぁあああ!!」
シェゾが叫んでアルルに胸倉に掴みかかろうとする。本当に何度やっても懲りない二人だ。
「大丈夫、実際はシェゾじゃなくてサタン用だから!」
「答えになってねえ!!」
何故か自信に満ち溢れているアルルにシェゾは力一杯突っ込んでいた。
「まあ、そんなことよりラグナス達を起こさないとね。」
まだ文句を言い足りないらしいシェゾを制し、アルルは“起死回生”の面を向けハリセンを構える。
「えい!えい!」
スパンッ スパーンッ
「・・・ん。」
「うう〜ん・・・。」
アルルがハリセンでラグナスとDシェゾの脳天を叩くとものの見事に彼らは目を覚ました。
(何てデタラメな道具なんだ・・・。)
シェゾは頭痛を覚える。
『うお!何だこれは!?』
自分が椅子に括りつけられていることに気付いた二人が驚きの声を上げる。
「うわぉ!息ぴったりだね。実は二人とも仲良いんじゃない?」
『誰がこんな奴と・・・。』
「ほら、また揃ってる。」
『・・・。』
アルルのコメントに黙るラグナスとDシェゾ。どうやらこの場はアルルに軍配が上がったようだ。
「じゃあ、これからDシェゾのあだ名を決めま〜す!」
『え!?』
アルルの宣言に驚く男三人。
「何驚いてるのさ?」
「いや、だって驚くだろ、普通!」
「何故貴様が乗り気になっているアルル・ナジャ!?」
「話を聞くだけじゃなかったのか?」
「だって、面白そうだし★」
彼らの反応を受けてアルルはにこやかに告げるのだった。
<後書き>
しつこく惰性的に続くシリーズ第六回。もはやお題に関してはこじつけも良い所です。今回は『魔力』が動力となる不思議ハリセンが大活躍(?)ってことで。
2005/12/06 UP