13:銀狼

The Successor Of Darkness 第五章〜

 

 

 

 

 

「てめえ・・・悪魔か!?」

「さあな。」

 シェゾは次々と仲間を殺されて動揺していたであろう最後の男を切り捨てた。同行者と別れてからのシェゾの行動は簡単だった。まず二、三発程派手でそこそこ威力のある魔導を放ち牽制する。もっともシェゾにとっては『そこそこ』でも一般の特に魔導に馴染みの無い人々にとっては充分脅威に見える代物だったりするのだが。そのせいか、牽制を通り越してすっかり逃げ腰になってしまう連中も出てきてしまった。おかげで倒すのが楽だったが。元々地力に差がある上、気合の面でも劣ってしまえば数はあっても烏合の衆。端からシェゾの敵ではない。五十人近くを自らに傷一つ負うことなく葬ってしまった彼に、盗賊とはいえ次第に怯えてしまったのは仕方の無いことだろう。

(それにしても悪魔・・・か。)

「月並みすぎて笑えないっての。」

悪魔とも人々に評される闇の魔導師。彼らは自分をそうとは知らないのに“悪魔”と呼ぶ。元々素質があったのか。

(だからルーンロードは俺を選んだの・・・か?)

シェゾには分からなかった。己の運命を変えたラーナ遺跡での出来事。あれから長い年月が経ち、自分なりに割り切ったつもりだったが、ふとした瞬間に、湧き上がる悩みのような感情。

「いや、今はそんな場合じゃないだろう。」

そんな思いを振り切るかのように、シェゾは頭を振った。

「さて、あいつはどうなったかな・・・。」

首尾よく妹の仇を討つことはできたのか。シェゾがワザとその他大勢を引き受けてやったのだから、うまくいってもらわないと身も蓋もない。

(ついでだから、ここの遺跡の探索でもするか。)

隠された闇魔導の技法というのも気になる。入り口の石版にあった文字からして古代魔導時代のものだ。隠し扉の一つや二つ、もしくは手の付けられていない貴重な物品が残っているのかもしれない。そしてシェゾは独自の目的を持って動き始めた。

 

 

 

 一方、シェゾに後続の敵を任せる形になってしまった青い髪の男は、シェゾのことを気にしつつも、先へと走り出した。彼の目的は妹を殺した闇の魔導師を倒すこと。こんな所で死ぬ訳にはいかない。事前に連中の仲間から入手した情報では、彼らの頭領でもある男と例の闇の魔導師はこの先にある『祈りの間』にいるという。神殿の中については自らも子供の頃の遊び場であった為、地図などなくても道に迷うといったことはなかった。

「他にもいるかもしれないからな・・・。」

この先にいるのは妹の敵だけとは限らない。彼は軽く唇を噛み締める。

「だが・・・倒してやる。」

「おい、お前!ここから先は立ち入り禁止・・・ぎゃあ!?」

彼は角を曲がってすぐに出会った男の頚動脈を狙って切りつけた。

「何だ今の声は!」

「どうした!?」

切った男の悲鳴を聞きつけて廊下の左右にある部屋から屈強そうな男達が出てくる。

「チッ。」

彼は忌々しげに舌打ちした。目的の部屋はこの廊下を抜けた先にあるというのに。しかも彼の武器である細剣は軽いがある程度の長さはある。ここの廊下で戦うには相手に距離を詰められた場合不利だった。そこで彼は細剣を鞘に戻すと、腰にかけてあったダガーに手を伸ばした。肉厚の、一般的なそれよりは大きい刃。彼は迫り来る相手にそれを繰り出し始めた。

 

 

 

 そして、シェゾの同行者であった青い髪の男が戦っていた頃、シェゾ自身はと言えば、すっかり探求作業に熱中していた。彼は現在神殿内のある隠し部屋を漁っている。この部屋は入り口に書かれていた暗号が部屋の鍵を開ける暗証番号になっており、古代魔導語が扱えるシェゾには簡単な代物だった。しかも中身も荒らされていなかったようで、シェゾは嬉々として物に宿っていた魔力を吸収したり、貴重書を発見していそいそと懐に入れたり、ついでに宝石をちょろまかしたりと、いろいろと満喫していた。

「ん?これは・・・。」

部屋の片隅に埋もれる様にあった、一冊の本。表紙に題名といった記述は無い。シェゾはそれを手に取り、パラパラとページを捲った。

(日記帳・・・か?)

紙が変色している。文字も古い時代のものだ。内容はある学者の研究日誌といった所か。シェゾは読み進めていく内に眉間の皺がどんどん濃くなっていく。書かれていた研究内容は世の中に一人や二人そういったことを思い浮かぶことがある、ある意味人類永遠のテーマ“不老不死”の研究だった。魔力の強い者は老化現象が緩やかになることは知られているが、完全なる不老不死というものは存在し得ない。限りなくそれに近い者がいるのは確かだが。特に不老まだしも不死であるのは不可能といえた。アンデットすら、滅びをもたらされることはあるのだから。

「この時代にもくだらねえ狂信者がいたってことか・・・。」

 シェゾは呆れたように呟く。彼はこんな研究に興味はないし、意味もない。だから、これ以上読まず捨て置けばいい。しかし、どうした訳か彼の手は止まらなかった。目が文字を追う。残された文章を読み進めていく。後から思えば予感していたのかもしれない。そしてシェゾは見つける。何かに導かれたように。日誌の中に闇魔導の記述を。

「何だと・・・。」

不老不死を求めていた一人の魔導師。その魔導師が研究の末導き出した答えが闇魔導。しかし元々素質が無かったらしく(つまり根本となる魔導力はそれ程高くなかった)、自分の力だけでは制御する事ができなかった。そこで魔導師が開発したのがより容易に他人の魔力を吸収し操る方法だった。吸収魔導は本来自分の器より巨大なそれは吸収できないと言われている。自分の魔導力で相手のそれを呑み込み、そして自らの一部と成すのだ。相性が良ければすぐ馴染むし、悪ければ反発もする。しかし、シェゾのような実際に吸収魔導を扱う者からすれば、その見解は多少異なっていた。それは相手の魔導力が自分より巨大であっても吸収することが可能だということだ。大事なのは取り込む器の柔軟性。相手の魔力を自分のそれで包み込む。膜のように薄いかもしれないし、そうでないかもしれない。そしてゆっくりと時間を掛けて自分のものにしていく。溶け込む速さはその時によって違う。相性もあるし、大きさもあるからだ。また蛇の食事とも似ているのかもしれない。

「つまり、これが封印されてた技法ってやつか。」

 日誌の最後の方では書き手が変わっていた。研究していた魔導師の弟による手記らしい。それによれば、魔導師は吸収魔導を制御する装置のようなものを開発したのだが、結局それが暴走し命を落とすこととなった。際限なく周囲の精気を吸収しだすようになってしまったらしい。最後に魔導師の体は風船が割れるように弾けとんだという。暴走のきっかけは魔族に対して魔導力吸収をかけたことにあると記述では推測されていた。恐らくは機械故に人の魔導力を器に譬えた場合と比べて柔軟性に欠けるのだろう。しかも相手が魔族となれば簡単にキャパシティ・オーバーだ。因みに暴走は核となっていた魔導師が死んだことにより止まったという。そして魔導師の弟はこの神殿に多く使われている魔力を遮断する物質で例の装置を封印したという。魔導器に染み付いた魔力が災いを呼び込まないように。誰の手にも触れられることがないように。

「“願わくば、あの魔導器『ズィルバーヴォルフ』を見つけた者が、それを破壊できる力を持つ者であるように”・・・か。」

日誌によれば魔導器は狼をかたどった銀色の腕輪だという。封印した人物は命こそ助かったものの装置の暴走の際、力を奪われ、破壊することができなくなってしまったという。

「それにしてもまさか魔導都市とまで言われたセイルを滅ぼした原因がこれとはな。」

魔族に襲われたとも奇病が流行したとも言われていたが、一日で全ての生命が消えたとされる。実力のある魔導師が多く住んでいたはずの街を滅ぼした曰く付の品というわけだ。時代的にも合っていたし、封印者でもある開発者の弟の手記にもそうあった。

 軽い気持ちで始めたはずの人助けがとんでもない事態に発展しつつあった。

 

 

 

 

 

<後書き>

 シェゾがゴロツキ・・・もとい雑魚共と戦うシーンは面倒なのでほぼ全面カット。そしてもう一人の男が出張ってます。お題は『銀狼』で。初めは戦っているシェゾのイメージにしようかと思ったのですが、結局魔導器の名前という事でお願いします。ズィルバーヴォルフ(Silberwolf)、ドイツ語で“銀の狼”という意味です。・・・多分(オイ)

 そろそろお題が足りなくなってきましたよ。とりあえず何かもういろいろ御免なさい!

 

 

2007/08/05 UP