15:孤独

〜名前を決めよう! Part5〜

 

 

 

 

 

「さて、そういうことだから例の事さっさと吐いてもらおうか。」

 ラグナス達が戻ってきて早々きっぱりと宣言するアルルに一同は困惑した。何がどういう事でついでに例の事のとは何かも彼らは理解できていない。

「アルル、例の事とは何だ。」

皆の気持ちを代弁するかのようにシェゾが問いかける。

「え?あ、そうだ。シェゾが来てからラグナス達がパニック起こしちゃって話が中断したんだっけ。それじゃあ、シェゾは知らないよね。」

「俺が来てからって・・・ヒトのせいにするなよな。」

シェゾは納得いかないようだが、事実である。

「ボクね、ラグナス達が何で入院したか気になるから本人達にリサーチしてたんだよ。だってシェゾもサタンも教えてくれないんだもん。」

「お前・・・まだあの事に拘ってたのか?」

むしろ筆者的にこれからが本題だったりするのですが、前振りがいささか長すぎました。

「一度気になったことは納得いくまで調べ上げる。これぞ探求心!こういった積み重ねが立派な魔導師になるには必要なの!!」

「ある意味間違ってはいないと思うが、この場合は違うだろ。」

「いいから教えて。そうしないとこれから一週間カー君連れて夕飯時刻に突撃するからね!」

いろいろな意味で凄い脅し文句である。いや、一週間泊まり込むと言われないだけまだましか。こうして、アルルに押し切られる形で彼らの打ち明け話が始まった。

 

 

 

 

 

「結局、ラグナスとDシェゾが喧嘩してシェゾの家を目茶苦茶にしちゃったのが原因だったわけだね。」

 アルルが感心したように息を吐く。シェゾは嫌なことを思い出したかとでもいうように厳しい顔つきだ。ラグナスとDシェゾはそんな彼に怯えている。そしてカーバンクルは食後ということもありすでに夢の世界に旅立っていた。

(それにしてもあの二人を病院送りにするなんて、シェゾってやっぱり凄いんだな〜。)

正確には病院ではなくサタンの塔で治療を受けたのだが、実力者二人をそこまでしたシェゾの底力にアルルは驚嘆する。もっともラグナスとDシェゾは実力云々以前に怒り狂ったシェゾの発する鬼気に呑まれていたとも言えるのだが。戦闘において戦う前に気合負けした場合、その遅れを取り戻すことは困難である。

「でもどうして喧嘩なんかしたのさ?」

『そ、それは・・・。』

アルルの問いかけにシェゾの目を気にしてか口篭るラグナス達。

「一ヶ月、突撃されたい?」

『!?』

アルルの更なる脅しに彼らの顔色が変わる。そしてまず屈服したのはラグナスだった。

「きっかけは言いにくいなって思ったことなんだ。」

「言いにくい?」

 ラグナスの言葉にアルルが首を傾げる。彼はどことなく暗い表情を漂わせたまま、チラリとシェゾを見て、そしてDシェゾへと視点の照準を合わせた。

「名前だよ、名前。“ドッペルゲンガー”・シェゾって言いにくいだろ?長いし。」

「そう?」

「我の名にケチをつける気か。失礼な。」

ラグナスの主張にピンとこないらしいアルルと眉間に皺を寄せるDシェゾ。今の所無反応なのがシェゾである。

「だってそうじゃないか!早口言葉の要領で十回くらい繰り返してみろよ。絶対噛むから。」

「本当?ええと、ドッペルゲンガーシェゾドッペルゲンガーシェゾドッペ・・・。」

ラグナスの言葉を受けて好奇心旺盛なアルルは早速試しだす。そしてそれを無言で見守る男達。

「・・・ううう、確かに言いにくいかも。」

「だろ?」

複雑そうな顔をするアルルにラグナスが頷いてみせる。

「だからもっと言いやすい名前を付けた方が良いって提案しようと思ったのに、Dシェゾの奴がいきなり攻撃してくるから。」

「我のせいにするな。魔導を放ったのは二人同時だったはずだ。貴様にも責任はあるはずだろう。」

 ラグナスの説明に反論の意を唱えるDシェゾ。しかしラグナスとてこの程度で引き下がる男ではない。きっちりと反論を返した。

「元を[ただ]せば、お前が暴言を吐くからだろ!?」

「貴様こそ何故さも当然のようにオリジナルの食卓に居座っている。」

それを受けて不満そうな声音で口を開くDシェゾ。会話がまともに噛み合っていない。

「そんなのシェゾの御飯が美味しいからに決まってるだろ!大体お前だってヒトのこと言えるのかよ!?」

「何だと・・・。」

ラグナスとDシェゾは時に睨みあい、時に口論を繰り返しながら争い合う。彼らの緊迫した雰囲気にアルルは口が挟めない。シェゾは静観しているようでさり気なく無視し、小包の中身をしまっていた。

「シェゾのドッペルゲンガーだからって・・・!」

「貴様こそ光の勇者のくせに・・・!」

そんな中でも彼らの醜い争いは続いている。

「本当、シェゾの周囲って最近騒がしくなったよね。」

 突然、黄昏るようにしてアルルが口を開いた。ラグナスとDシェゾは県下に集中していて耳に入っていないが、シェゾには届いた。

「何だよ、急に・・・。」

シェゾがアルルを見つめる。アルルはそんな彼に向き合うと言った。

「前はさ〜、ボクやルルーやサタンが無理やり引っ張り出さないと滅多に外にも出なかったじゃん。ボクに喧嘩売る時以外は。そういえば、最近キミのヘンタイ発言聞いてないね。」

「・・・喧嘩売ってるのか。」

「そんなことないよ。仲良くできるならそれに越したことはないもん。」

睨んでくるシェゾにアルルは笑顔で受け答える。

「言っておくが、俺とお前は休戦しているだけなんだからな。」

「はいはい。一生休戦かもしれないけどね。」

「大体俺は好きでお前と仲良くしたい訳じゃ・・・。」

「またまた、照れちゃって。いいじゃないか、友達なんだし。」

「んな!?」

念を押すように言ってくるシェゾを笑顔を崩さずあしらうアルル。

「それに、これだけ騒々しければ孤独感なんて感じなくなるでしょ?」

どこか面白そうにシェゾを見つめるアルルの瞳。彼女の言葉に彼は不覚にも息を呑んでしまった。

「・・・まあな。」

そしてシェゾは悔しげながらもアルルの言葉を肯定する。そんな彼の様子に彼女は満足そうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

「ところで、ラグナスって何であの日シェゾの家に居たの?」

「ああ、何かキャベツを大量に貰ったからお裾分けに来たとか言ってたな。」

 ラグナスが小魔物に畑を荒らされて困っている農家に頼まれ問題を解決した際、報酬としてもらったものらしい。

「そういえば、ボクの所にも来たな〜。カー君がほとんど丸呑みしちゃったんだけど。美味しかった?」

「確かによくできたキャベツだったな。」

配って歩くにしても、シェゾの所に夕飯時刻を狙って突入する辺り、少々狡賢さが窺える。そして、すっかりとくつろぎモードに入ってしまったアルルとシェゾが、ラグナス達の喧嘩を止めに動き出すのは約三十分後のことであった。

 

 

 

 

 

<後書き>

 例のシリーズ第五回。以前、五、六話で完結するだろうなんて言ってましたが、次回までに普通に終わりそうにありません(オイオイ) お題の四分の一を一つの話で済ますという只でさえ例を見ない変則使用なのに・・・。でも、せめて、何とか十話以内に収められたらと思います。自信ないですけど(死)

 内容はようやく話が動き出した感じです。一応お題との関連は『シェゾは昔はともかく今は“孤独”ではない』という逆説的な見方をしています。

 

 

2005/11/11 UP