17:古代魔導
〜The Successor Of Darkness 第三章〜
『へ〜、シェゾの名前って古代魔導語で“神を汚す華やかなる者”っていう意味なんだ・・・。格好良いよね!』
『・・・。』
『どうかした?』
『い、いや、そういう反応は初めてだな・・・と思ってな・・・・・・。』
まだ幼さを残した容貌の少年は嬉しそうに笑う。瞳を輝かせて。その意味を知って以来ずっと疎ましく思い、また思われていた名前を最初に認めてくれたのは彼だった。子供の何気ない一言なのに、凄く救われた気がしたんだ―――――――――――。
シェゾと青い髪の男は、山中にある遺跡へ向かい獣道を進んでいた。街道から逸れた所にあるそれは地元の人間には古い祠として伝わっている。実際には簡易的な神殿であったらしい。
「祠自体は小さいんだ。石版があって、オレはよく分からないが、多分、昔の文字で何か書かれてた。模様みたいのもあった気がする。それの裏に隠し扉があって、子供の遊び場になってたんだ。秘密基地とかそういう遊びの・・・今は連中が入り込んじまって誰も近づかないけど。」
「その祠の隠し部屋を奴らがアジトにしてるって訳か。」
隣の男の説明にシェゾはそう述べた。シェゾと男の目的地は同じだが、彼らの目的自体は必ずしも同じというわけではない。一応、シェゾが男に雇われたという形式ではあるが、それだって条件付だ。男は妹の仇を討つために、シェゾは闇の魔導師を名乗るという謎の男を見極めるために、その地へ足を運んでいるのである。
「おい・・・。」
「な、何だよ・・・。」
目的地に近づいて、シェゾの横を行く男は少し顔色が悪いように見えた。シェゾが話しかけると男は声が震えていた。それは緊張か恐れかはたまた高揚か。
「貴様は相手が闇の魔導師と聞いて、止めようという気にならなかったのか。恐れないのか?」
「・・・い、妹の仇を討てるなら、怖くは無い。」
世間・・・特に魔導に造詣の薄い者達の間では、闇の魔導師は悪魔のような存在とも言われている。そんな存在に立ち向かうのはある意味無謀と言えた。
「貴様は闇の魔導師を倒すということがどういうことか理解しているのか。」
「え・・・?」
「闇の魔導師を殺した奴は自分も闇の魔導師になるといったらどうする?」
「な・・・!?」
シェゾの言葉に青い髪の男は驚愕したように目を見開く。
「こんな話を聞いたことはないか・・・悪魔を倒した正義の騎士がその悪魔の返り血を浴びたことで自らも悪に染まるというのを・・・・・・。」
シェゾの顔に浮かんでいるのは嘲笑だった。男はゴクリと唾を呑み込む。
「それは・・・オレに敵討ちを諦めろと言っているのか、あんたは。」
「別に・・・。」
男はシェゾの嘲笑を自分へ向けてのものだと取ったが、実際はシェゾが己自身への皮肉を込めて浮かべたものだった。自分を世間一般で言う正義だとは思ってもいなかったが、自らの身を守るという正当防衛とはいえ、先代の闇の魔導師であるルーンロードを討った自分。そして望まざるにも拘らず半強制的に闇の魔導師の称号を継承してしまった己の境遇に。
「大体、闇の魔導師なんて悪党を倒したら、勇者として持て囃されるとかそういった方が有り得るぜ。あんただって知ってるだろ。光の勇者の伝説。」
ルーンロードを倒したといわれている勇者の逸話は今もヒロイック・サーガとして伝えられている。
「ああ、あれな・・・。」
昔は光の勇者など興味の欠片もなかったが、流石に闇の魔導師を倒す宿命にある云々といったエピソードを聞くと、胸糞悪く感じるシェゾである。
『闇の魔導師を倒した奴がその後継者になるなら、ルーンロードを倒したっていう光の勇者だってそうなるんじゃないか?』
『・・・確かにな。』
『それだと、時の女神の後継者だって先代様と戦って後継ぐことになりかねないし。馬鹿馬鹿しい言いがかりだと思う。』
『大した発想力だな、お前は・・・。』
『それ、褒めてるの、貶してるの?』
『さあ、お前はどっちだと思う・・・?』
呪いのようにシェゾを縛り付けるルーンロードの残した言葉を真剣に受け止めた上で考え、そして否定した少年は、記憶の中で酷く鮮やかに表情を変える。
(やっぱり、あんな風に言えるのは、あいつ位なのかもしれないな・・・。)
シェゾにはそのように思えた。
そうして二人は例の祠へとやってきた。傍目には自然の岩窟を利用して作られたもののように思える。特に何の変哲もないものだ。しかし隠し扉のある石版の前に来た時、シェゾの表情に変化が生まれた。それは石版に刻まれた文字。
(これは・・・古代魔導語だ。)
今ではロストワード評する者もいる扱える者はまずいないとされる言語。上級魔導師でも解読できる者はそうそういないであろう。また、読めたとしても応用の利かない直訳的なものの可能性が高い。古代魔導語を真の意味で理解でき、またそれを応用できる存在は稀有なのだ。
「おい、あんた中に入らないのか?」
石版を食い入るように見つめるシェゾに不思議そうに青い髪の男はいう。
「こんなの石版のどこが珍しいんだ。どうせこういうのは祈りの言葉とかが書かれているんだろう?」
シェゾの耳には男の言葉など入っていなかった。
(まさかこんな所にこんなものがあるとは・・・そうすると隠し扉の中にある神殿も古代魔導時代の代物か。くそっ、もっと早く見つけていたら・・・。きっと中も荒らされまくってるだろうし。)
ひたすら刻まれた文字を頭の中で解読していく。
「何だと・・・!?」
突如シェゾが叫ぶ。石版に刻まれた記述がシェゾを驚かせた。
(連中はこのことを知っているのか?いや、古代魔導語を読める奴がそう転がっているはずはない。魔導学校や王都アカデミー出身者だって専門で研究してないなら辞書の一つ二つで何とかなるレベルでは・・・。)
シェゾの頭脳が状況を推理する中、もう一人の男は困惑していた。
「一体どうしたんだよ、あんた・・・。」
「ふざけてやがる・・・。」
シェゾは吐き捨てるかのようにそう漏らした。石版には隠し扉の神殿は邪教の神殿である事、祭った対象が闇の魔導師である事、そして闇魔導を使うための技術が隠されている事等が書かれていた。しかも元々この隠し部屋は何者も侵入することができないよう封印されていたようである。その封印も長い年月の果てに無効化してしまったようだ。
「・・・行くぞ。」
「お、おう・・・。」
とうとう二人は祠の隠し扉に手を掛けた。彼らの戦いの幕が開く・・・。
<後書き>
やっぱり終わらなかったよ・・・(涙) そんな訳でシリーズ第三章、お題は『古代魔導』で。もうこの際、残りのお題使って最後まで書き上げてやろうかと思います。それにしても捏造設定てんこ盛りですな(いつものことだろ)
シリアスって書き上がり遅いんですよね〜。難しい。ギャグもセリフの掛け合いとかで無駄に長くなりがちなんですが。
2006/07/01 UP