18:吸収

The Successor Of Darkness 第二章〜

 

 

 

 

 

「妹は闇の魔導師に殺されたんだ・・・!」

 シェゾの行く道に立ち塞がった男はこの周囲の集落の住民だという。剣の腕にそれなりに自信があり、修行結果、この地域ではそれなりの名の知られる剣士になったという。そして両親を早くに亡くした男の唯一の身内は妹只一人であった。男にはほとんど魔力がなかったが、妹は魔導力を持ち合わせており、魔導師としての才を幼い頃から発揮していたという。男の妹は魔導学校といった正式なアカデミーで学んだ訳ではないが、ある魔導師の内弟子になるという形で修行をし、検定にも合格したという。なお、検定というのは魔導師名簿を管理している協会が時折行っている試験で、所謂魔導師の格付けに用いられる。大雑把に区分すると、初級・下級・中級・上級・特級の五段階で、試験に合格して初めて正式な魔導師となれるのである。因みにアカデミー卒業者は試験が免除され、最低でも下級魔導師からスタートできるのである。在学中の成績や、研究成果によっては中級魔導師から一気にスタートできる場合もあるという。男の妹は初級魔導師だったが、潜在的な魔力や本人が努力家であることもあり、将来的にはもっと上の魔導師になれるだろうと言われていた。

「なのにあいつは・・・。」

涙を浮かべて男が訴えた所によると、男の妹は闇の魔導師と名乗る男とその男を囲む集団に殺されたという。集落が闇の魔導師を抱えた集団に襲われた際、魔導を以って抵抗したらしい。そのせいで眼をつけられてしまったのだろう。

「まだ、十六だったんだ・・・なのに、あいつは・・・ミイラみたいに干からびた姿で発見された。」

男が集落へ戻って見たのは妹の変わり果てた姿だったという。

(ミイラの如く干からびた姿・・・か。)

 シェゾは男の言葉を頭の中で反芻する。それは吸収魔導の際に起こり得る現象だった。吸収魔導は魔導力と一緒に相手の生気もろとも奪い取る。その結果、吸収された相手はミイラのようになったり、または風化して塵のような姿になってしまうのだ。もっとも、使い手によっては調整して魔導力のみを奪い、生命には何の影響ももたらさないことも不可能ではない。魔導力のみ奪われた場合は死ぬことはないし、部分的に奪われただけなら、また努力次第で魔力を高め魔導が扱えるようになることもあるだろう。ただ、生気もろとも奪い取る方が楽なことは事実である。

(そいつらに闇の魔導師がいるかどうかは知らんが、闇魔導をかじった奴がいる可能性は高いな・・・。)

シェゾの見解ではそう思えた。

「俺はあいつの仇を討ちたいんだ・・・。」

「無理だな。」

シェゾはそう即断した。男には魔力はほとんどないから魔導は使えないだろうし、小柄で細身な人物であることは外見や装備からでも窺える。一対一ならともかく、敵は集団だ。無駄死にするが落ちだろう。

「だ、だからあんたの力を貸してくれと・・・!」

「他力本願か。いい身分だな。」

「く・・・。」

シェゾの冷淡な態度に男は怯む。

(似てると思ったが、やはりあいつとは違うな・・・。)

 シェゾは思う。彼の知る少年はその男と似た緑の瞳の持ち主だった。顔立ちは父親似だと聞いていたが、瞳の印象は母親にそっくりだったのをよく覚えている。

 

『シェゾ、俺は母さんを守りたい。だから強くなりたかった。でも結局本当は、それって俺が強くなりたいってことで、だから我が儘なんだ。』

『それで?』

『でも、それを承知で頼みたい。俺が強くなるのを手伝って欲しいんだ。』

 

少年の瞳は強い決意で満ちていたが、それは自分の我が儘な願いであることを知っていた。それを自覚した上でシェゾに協力を求めていた。今、シェゾに助力を求める男とは覚悟が違っていたのだ。例えるならば、男はシェゾに露払いを任せて、自分は闇の魔導師と名乗る男と対決しようとしているのに対し、少年はシェゾに作戦を仰ぎ、後は自分で片をつけるつもりであるという心持であった。シェゾは男の態度からそれを感じ取っていたのである。

「・・・そ、そこを恥を偲んで頼むんだ!」

「・・・!」

 男は地に膝を落とし、頭を下げていた。シェゾは少しだけ息を呑む。大の男が土下座してまで己の助力を求めている。清々しい程卑屈というわけではなく、男の表情は苦悶を示していた。

「俺は見ての通り、スピードを生かして攻めるタイプだ。大勢と対すればその分体力を削られて、最後には力が落ちるだろう。」

「フン。」

シェゾは少し男への見解を改めた。少なくとも、自分の戦い方の性質を見極めるだけの頭はあるらしい。

「俺は魔導は使えないし、他にも魔導師がいたら太刀打ちできない。」

さらには、魔導師の資格はなくても、魔導を使える者もいる。

「報酬も出す。仇を討てるなら全財産投げ出したっていい!」

男は必死だった。シェゾは相当の実力者であることは落ち着いてみれば風格だけで理解できる。彼の助力を得ることができれば、仇を討てる確率は上がるだろう。その一方でシェゾも考えていた。男の敵討ちには興味はない。一応、身内を殺されたことを恨むのは頭では理解できている。だが、力を貸してやろうという気は起きなかった。元々己の気まぐれな性質もあるのかもしれない。ただ、気になったのは・・・。

(闇の魔導師を名乗る男・・・。)

目の前の男が集落の者に聞いた話によると、その男も銀髪だったらしい。

(俺のことを知っていてわざとそうしているのか?それともたまたまなのか・・・。)

 

『シェゾもたまには善い事してみたら?』

『はっ、誰がするか。大体俺は闇の魔導師だぞ。』

『だから、魔導力の属性に善悪なんて関係ないよ。闇の魔導師が善い事してたって全然おかしくないと思うんだけどな〜。』

『そんなことを考えるのはお前くらいのものだ。』

『そうかな?他の人はどうかは知らないけど、俺の知っているシェゾは優しいよ。だからそういうことしても俺は不思議だとは思わない。』

『・・・お前は俺を買いかぶりすぎている。』

『そんなことないよ・・・。』

 

 会いに行くと決めてあったせいか、不思議と彼の少年と交わした言葉がシェゾの脳裏に思い出される。

(あいつに会いに行く前だしな・・・たまには“善い事”とかいうやつをしてやるか。)

シェゾはそう決断を下した。

「いいだろう、力を貸してやる。」

「本当か!?」

「ただし・・・。」

期待する男にシェゾはある条件を突きつける。

(ああいった連中を野放しにするのは闇の魔導師の品位に関わりそうだしな・・・。)

シェゾの頭の片隅にそんな思いが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

<後書き>

 闇の後継シリーズ第二章。この話は所謂外伝的要素で構成されています。本編は例の少年とシェゾの交流がメインになる予定なので。

 お題との関わりは魔導力吸収についてチラリと触れているので、『吸収』となりました。というか、この調子だとバトルシーンに発展しちゃいそうなんですが。どうしましょう、下手したら三話で終わらなくなる!(オイ)

 

 

2006/06/13 UP