21:繋がり
〜名前を決めよう! Part3〜
「でも、本当珍しい商品だよね。」
シェゾが取り違えられた荷物を全て確認し終わると、アルルは彼とテーブルを挟んで向かい合わせの席に座った状態でそう述べた。二人の脇の床にはいろいろあってシェゾに気圧されてしまったDシェゾとラグナスが並んで正座をしているのだが、アルル達は敢えて言及しない。
「ほとんど流通してないからな。」
「何で?」
シェゾの言葉にアルルが首を傾げる。
「こいつはあの店と懇意にしている薬剤師が独自に開発した奴でな。そいつが直接取引きしている店に委託販売している形なんだよ。製法は多分そいつしか知らないだろうな。特許も取ってあるみたいだし。一定期間は製法を公開しないのが通例だからな。」
「何かズルイ感じ・・・。」
「下手に真似されて粗悪品が出回る方が困るだろ。」
「そういう考えか方もあるのか・・・。」
アルルが少しだけ頷く。
「でもウィッチに見せてもらったカタログには無かったな〜。」
アルルの言うカタログとはそこの店が馴染みの客及び取引先に提供している商品目録のことである。本来店の性質上、関係者以外門外不出の代物だ。
「載ってないかもな。飯屋とかにもたまにあるだろ、隠しメニューとかってやつ。」
世の中には素材が手に入りにくかったりして作れる数も少ない為メニューに載っていない料理といったものがある。その存在は主に店主と懇意にしている常連客等に知らされ、彼らの腹に納まることとなる。まあ、隠されている理由にもよるものなのだが、良い素材を常連の為に態々取り置く料理人もいるらしい。懇意にしてくれている客への感謝の意味もあるのだろう。
「ふ〜ん。」
「グ〜?」
「あ、カー君。起きたんだ。」
少し前までリビングに置かれたクッションの上でずっと眠っていたカーバンクルがのそのそと起きだしてくる。
「ググ、グググーッグ、グググッググ?」
「何だ?」
「うん、“今、御飯って言わなかった?”だって。」
シェゾに尋ねられ、アルルがカーバンクルの言葉を通訳する。どうやら『飯屋』云々の単語に反応したようである。恐るべし、食欲魔神カーバンクル。
「ううん、カー君。残念だけど、そんなこと言ってないよ。」
「グー・・・。」
アルルの言葉に残念そうに泣くとシェゾの手元に目を向ける。そこには例の魔導力回復タブレットのケースがあった。それをじっと見つめるカーバンクル。シェゾは何だか嫌な予感がした。
「こ、これは食い物じゃないからな!」
「ググ!?」
ケースを庇うように握るシェゾ。そして睨み合う・・・もとい、見詰め合う二人。
(これは先に目を逸らした方が負けだ!)
そんな思いがシェゾの脳裏に過ぎる。そしてシェゾとカーバンクルの様子を内心ハラハラしながら見守るアルル。なお、正座を続けていたDシェゾとラグナスの二人は足が痺れてきたのか、微妙な顔をしていた。
どれほどそうしていただろうか。シェゾとカーバンクルの牽制しあいは未だ終わらず、拮抗しているように思われる。アルルにはシェゾが警戒する気持ちが分からなくもない。カーバンクルは空腹の限度に達すると食べ物以外のものでも口に運んでしまうのだ。アルルのこれまでの経験上、ぷよや家財道具等も被害にあっていたりする。そしてシェゾは今、彼曰く、『希少で高価』な魔法薬を持っているのだ。どれくらいの価格かアルルは知らないが、恐らくは半端じゃなく高いのだろう。もし、カーバンクルがそれを食べてしまうと弁償しろと言われるかもしれない。自分だって大金持ちと言うわけではないのだから、それは困る。しかし、彼女はこの沈黙状態に飽きてきた。
(う〜ん、どうしようかな・・・。)
そんなことを考えながらふと脇に目を遣れば、面白く複雑な表情を浮かべている正座した大の男が二人。傍目には不気味で鬱陶しい光景だが、もっといろんな意味で危険な生命体はこの世界にいるので、アルルの感覚的には大して気にならない。たっぷり三十秒程彼らを見つめ、アルルは閃いた。そしてとびっきりの笑顔を浮かべて告げる。
「カー君、Dシェゾが御飯奢ってくれるって〜!」
『何!?』
「グ!?」
アルルの発言に目を見張る男三人と、期待に瞳を輝かせるカーバンクル。
「わ、我はそんなことを言った覚えはないぞ、アルル・ナジャ。」
Dシェゾが狼狽したかのように抗議するが、アルルは満面の笑みを浮かべたままである。ラグナスも彼女の突然の言葉に戸惑っているようだ。シェゾはとりあえずカーバンクルの注意を逸らすことができたので、ホッとしたようである。
「だってキミ、暇そうだし。」
答えになっていなかったがアルルの言葉にDシェゾは絶句する。言っていることは無茶苦茶だが、笑顔が張り付いているせいかアルルから感じられる印象は妙に清々しかった。
「だからと言って何故我が!何もしていないのはこの光の勇者も同じではないか!?」
何とか矛先を変えようとDシェゾは隣で正座していたラグナスを指差す。
「え!何で俺が・・・!?」
話題を振られたラグナスも反論する。そして彼らはお互いに責任を押し付けあった。醜い争いである。まあ、奢る相手がカーバンクルなので財布の心配をした上でも行動と理解はできるが。しかし彼らの間に決着がつくよりも早く、アルルが言う。
「だったら、二人で行けば?」
『!?』
元々アルルが最初にDシェゾを指定したのはたまたま彼と目があったからだ。彼女的にはどちらが出て行っても構わないのである。それにこのまま彼らの喧嘩を放っておいたら自分の家がシェゾのそれの二の舞にならないとも限らない。
「そうか・・・なら話は早いな。」
アルルの言葉に答えたのはDシェゾでもラグナスでもなく、シェゾであった。彼は穏やかな表情でDシェゾとラグナスを見遣る。
「さっさと行ってこい、タダ飯喰らい共が。」
菩薩のような顔とは裏腹に彼の声色は悪意に満ちている。
「シェゾ!?」
「オリジナル!?」
「また逆さに吊るされたいのか、貴様ら・・・。」
驚く彼らの前で阿修羅が再降臨しだしている。
「め、滅相もございません!」
「わ、分かった!行ってこよう・・・。」
ラグナスとDシェゾは揃ってシェゾの意思に従うことを表明したのだった。
シェゾの無言の圧力に急かされるかのように立ち上がった彼らが足の痺れで絶叫するのはこの三秒後のことである。
<後書き>
一応続き物形式でシリーズ(?)第三話。前回に引き続き、現場はアルル宅のリビングです。内容は彼らの人間関係いろいろという感じで『繋がり』です。パワーバランスが凄いです(爆) 自分で書いておいてなんですけど。
それにしても面白いようにナンバーが飛び飛びですね。次はどのお題で書きましょうか。話の大まかな流れは決まっているのですが、お題に沿うとなると微妙な出来だったりします。
2005/10/01 UP