2014年 新春企画

MFBウーファ・システム/モジュール編

オーディオ・システムの音質はそれを構成する個々のデバイス(コンポーネント)に左右される。 影響が大きいスピーカ・ユニットやエンクロージャなどは特に重要だ。マルチウェイでは、ネットワークやチャネル・デバイダなども重要だ。

温故知新、「音楽工学、平岡訳」の第9章に「主観的に完全な忠実度をもつオーケストラ音楽の再生には、40〜15,000Hzの周波数範囲と70dBの音量範囲が必要 」とある 。パイプオルガンの基音32Hzで十分な音響出力が必要だ。

音楽再生に重要なファンダメンタル帯域の改善にMFBウーファ・システムの構築に取り組んだ。MFBウーファ・ユニットを、MFBアダプタとパワー・アンプの組み合わせでドライブする構成だ。 MFBにより何が改善されるのか 楽しみだ。

特製MFBウーファ・ユニット

MFBウーファ・ユニット
三菱PW3120型30cmハニカム・ウーファに、モーショナルシグナル検出機構として精緻な千竃式コイルが組み込まれた特製のMFBウーファ・ユニットだ。デジタル・マルチメータやデジタルLCRメータ によるボイス・コイルやの千竃コイルの直流/交流インピーダンスやインダクタンスなどを書き添える。

千竃式コイル

Voice Coil Chikama Coil
DCR ACR(1kHz) Inductance DCR ACR(1kHz) Inductance
PW3120#1 6.2Ω 9.61Ω 1.030mH 290Ω 313Ω 11.22mH
PW3120#2 6.1Ω 9.58Ω 1.036mH 290Ω 312Ω 10.93mH

エンクロージャ
内寸370mm x 370mm x 346mm、容量47Lのバスレフ型エンクロージャを密閉型に作りなおした、MFBウーファ・ユニットぎりぎりの超小型サイズだ。内部にカウンター ・ウェイト(ブラス製80mmΦ x 200mm ,8.5kG)を支えるスパイダーを作りこんだ。バフルは18mm白樺バーチ材18mm2枚積層だ。リアパネルにはスピーカ端子の他にモーショナル・シグナル出力用のRCA端子を 取り付けた。モーショナル・シグナルはドライブ・シグナルと同相接続だ。

フロント・ビュー

 

リア・ビュー

 

ウーファ・モジュール・ユニット特性
測定マイクは軸上100mmに設置して、 マランツSM-17SAでドライブした1W(6.9Vp-p/公称6Ω)時の実測データだ。最低共振周波数は70Hz。周波数帯域はこの70Hzから1300Hzまで、良好なサインショット応答波形は172Hz〜434Hと狭い。

フラットなメインアンプによるドライブでは音楽のファンダメンタル(基音)が決定的に不足する。楽器の質の表現に重要な、良質な孤立波レベルの再現が得られない。いままで測ることはできても、本質的な改善となると不可能だった領域だ。

単体特性

モーショナル信号振幅特性
電気的にフラットでドライブしたMFBウーファ・モジュール からのモーショナル・シグナル振幅特性だ。最低共振周波数のゲイン(ロス)は-6dB。ボイス・コイルからのリーク (疎結合)により8kHz程度までがMFBにより改善が期待できる周波数帯域だ。最低共振周波数70Hz〜高域共振周波数1300Hzまで-9dB/octを示している。

ドライブ(白)&モーショナル(赤)信号振幅特性 

モーショナル信号位相特性
安定なMFBシステム構築には位相情報が 不可欠だ。オシロスコープの波形パラメータ測定による可聴帯域20Hzから20kHzまでを31分割した点々法による位相位カーブだ。上記の振幅特性と位相余裕から、8kHzで50dBを大幅に超えるMFBが可能 なはずだ。

オシロスコープの波形パラメータ測定(振幅・位相測定

点々法による位相特性

ベーシックMFBシステム
オーディオ誌に紹介されたベーシックなMFBアダプタと市販のメインアンプの組み合わせでドライブするMFBウーファ・システムだ。
マランツ・パワーアンプSM-17SA型のゲインは26dBあるのでベーシックMFBアダプタのゲイン設定を35dBとしてトータルのオープン・ループゲインは61dBとした。MFB入力が1kΩシャントなのでウーファの最低共振周波数のロスは10dBとなる。最大MFB量は51dBまでの計算だ。

ベーシックMFBシステム

異常発振
メインアンプの出力端子をオシロスコープで観測しながらVR1を回してMFB量を増やしていくと高周波で異常発振する。音としては聞こえないが、破壊に直結するため極めて危険で始末が悪い。この測定にはオシロスコープのピーク・ディテクト・モードにより異常現象を観測しながら慎重に行う必要がある。MFBの限界への挑戦はハードルが高い。

発振波形(1MHz 4.24Vp-p)

MFB改善特性
白のラインがMFB無しの基準特性だ。黄が発振 直前にMFB量を合わせた改善特性だ。最低共振周波数70Hzにおける白と黄色の偏差、MFB量は40dBに達する。MFBアダプタとメイン・アンプの2ピースのタンデム構成アンプで深いフィードバックが実現できるのは驚きだ。 この検出方式の優秀さが伺える。

ピンクは、運用を想定したマージン10dBを差し引いたMFB30dBの改善特性だ。MFB40dBとほとんど変わらないことが分かる。3本の+6dB/oct白の平行線はダイナミック型スピーカの理論カーブを想定した参考線で、最低共振周波数70Hzで重ねている。狭いレンジで乖離が認められる のが分かる。

ベーシックMFBアダプタによる改善特性

理想イコライザ・ドライブ
ベーシックMFBシステムは+6dB/ocの理想的なダイナミック型スピーカを実現する手段だ。このままでは使えない。-6dB/octの積分特性のイコライザと組み合わせることで、フラットなオーディオ・デバイス(コンポーネント)と なる。SSC-Xのフィルタを設定した理想積分器でベーシックMFBシステムをドライブした音響特性だ。

SSC-Xフィルタによるイコライザ-6dB/oct

理想イコライザによる総合特性

つづく
軽い力ではダイアフラムが押し込めない。程々に強く押しこむと「むにゅー」っと押し返してくる。「制動(ブレーキ)」や「振動減衰(ダンピング)」などが現実に実感できる。オーディオコンポのカタログやキャッチコピー、オーディオ誌の解説が絵空事と思える別ものの世界だ。

軽く指の腹でダイアフラムを叩くとMFB無しでは最低共振周波数の「ボン」という音がする。MFBをかけた瞬間、これこそがダイアフラム の素材固有のと納得できる音に激変する。MFB以外のスピーカは、低域と高域の共振音が音楽にかぶさって聞こえていたことが伺える。

ダイアフラムを触ればこのように差は歴然だ。MFBの効果は多岐にわたる。 手に入らなかったスピーカ・ユニットそのものの性能改善が実現する。音楽信号通りにボイスコイルが動くところまで来た。ダイアフラム以降の音響特性にジャストフィットのテーラー ・メードが必要だ。