2016年 新春企画

オーディオ・ルームとフラッターエコー

振幅周波数特性を「フラット」に調整しても、不自然な音が改善出来ないリスニング環境がある。縦横高さの寸法比が単純な直方体のライブな部屋だ。音質に最も影響が大きいとされるオーディオ・ルームはいかにあるべきか?

6畳洋間の例

施工直後の6畳洋間の例だ。つまったような汚い音で、不明瞭で歯切れが悪い。ボーカルや楽器がどこで鳴っているのか分からない。ところが、リスニング・ポイントの振幅周波数特性はそれほどひどくないように見える。この時、リスニング・ポイントにおける振幅周波数特性をフラットに調整しても不自然さは払拭されない。

この歯切れが悪くつまったように不自然な音の原因はフラッター・エコーによるものだ。筆者もかつては振幅周波数特性がリスニングルームの評価に応用できるのではと大いに期待したのだが、フラッター・エコーのような反射や共鳴など時間遅れの成分を有する系の評価として振幅周波数特性は万能ではないことがうかがえる。

6帖洋間の振幅周波数特性例

フラッター&エコーの影響

自由空間では、どこで聴いても音源の周波数成分の相対的な振幅は保たれハーモニー(音色)は変わらない。音楽ソースに含まれるすべての音を余すところなく聴くには望ましい環境といえる。
 

自由空間では聴く場所でハーモニーは不変

 
 

 

単純な例だが反射があると、本来進行波である直接波(マジェンタ)と反射波(グリーン)の合成波(ブルー)はそこに留まって振幅だけが変化する定在波となる。聴く場所によってハーモニーが損なわれる大きな要因だ

平行平面による定在波

極端な例ではあるが反射面を音源から3.6mとしたときのの各点における振幅周波数特性のスパイス・シミュレーションだ。フラッターエコーの深刻さが窺える。

フラッターエコーによる振幅周波数特性

 

フラッターエコー対策

「オルソン工学第8章劇場やスタジオおよび部屋の音響学」に、フラッターエコーを抑えるための具体的な壁構造が示されている。全ての対抗壁を不平行化するなどに加えて理想的な寸法比として2の立方根が提唱されている。

オーディオ・ルームでは平面からの反射の根絶は難しい。各々の寸法比を2の立方根(3乗根)とし、さらに対抗する平面を2の立方根(3乗根)比で斜めにすることでフラッターエコーを分散して各面の吸音に努めるのが現実的だ。

 

フラッターエコー対策を施したオーディオ・ルームの形状

オーディオ・ルーム・プラン

耐震リフォームを期に、上記を参考に天井高2.4m奥行き3m幅3.8mを目標に計画したが建物構造上の制約から下図の形状で施工することにした。フラッター・エコー対策のために、斜め天井や左右対称斜め壁、不整形斜め対抗壁などを配した。また反射対策として、天井床前後左右壁全6面に吸音材を配置することにした。

オーディオ・ルーム概図