2016年 新春企画

プレイバック・システム

オルソン工学の第9章音響再生装置に、スピーチの再生は、100Hz〜8kHz の周波数範囲と40dBのダイナミック・レンジが必要とある。オーケストラの再生は、40Hz〜15kHzの周波数範囲と70dBのダイナミック・レンジが必要とのことだ。

バロック音楽の 荘厳な パイプオルガンの響きの基音は16Hzと更に低い。S席で聴くオーケストラのテュッティは105dBに達する。ちゃんと再生するには、いままでのドライブによるスピーカでは全く歯が立たない。ブレーク・スルーが必要だ。

プレイバック・システム

40cmハニカム・ウーファと10cmピュア・マグネシウム・トィータによる2チャンネル・システムだ。エンクロージャは共に密閉型でトィータ用は理想の真球形だ。それぞれのユニットのバック・プレートには超重量のカウンタ・ウェイトを接着した。低いダイナミック・ノイズと明確な振動支点を実現した。

スピーカ・システム固有の大きな振幅偏差は、パラメトリック・イコライザを併用し、ユニット軸上10cmの至近距離でキャリブレーションした。SSC-X/R2搭載のタイム・アライメント・デジタル・シンセシス方式のデジタル・ネットワークのクロスオーバ周波数は150Hz、スロープは120dB/octとした。

従来のテクノロジーでは到達しえない理想スピーカと呼べる性能を備えたスペシャルだ。実現が不可能だった音楽信号波形とスピーカからの音響信号波形がプロポーショナルな唯一無二のシステムだ。20Hz〜20kHzの可聴帯域を超えてパーフェクトな振幅周波数特性と位相周波数特性が実空間で得られている。

ブロック・ダイアグラム

 

  

ユニット軸上10cmの振幅周波数特性

 

オーバー・ビュー

 

音はどう変わったのか

防音ドアをロックしたオーディオ・ルームはとても静かだ。音楽ソースに含まれる細やかで微かに消え入るホールトーンをすべて堪能するには不可欠な環境だ。オーディオ・システムそのものにノイズがあってはならない。ハイレゾ音楽データの再生は、ヒートパイプ排熱システムの自作の無音コンピュータだ。スピーカに耳を近づけると「ジージー」と聞こえる大型システムにありがちのコモンモード・ノイズも大敵だ。本質的な対策はグランドループの根絶だ。デジタル・セクションを絶縁トランスでフローティングしアナログ・パスのループを断ち切り、アンプの電源を同一コンセントから供給して対策した。

ビル・エバンスがアート・ペッパーがデイブ・ブルーベックが、往年の名演奏が、セッションの配置が展開が、目に見えるかのように明確だ。 眼前の空間のどこに楽器があるのか、アーティストの立ち位置がわかる。 エリック・クラプトンのバスクラリネットが左手スピーカの外側少し上にくっきりと浮かび上がる。アーティストの息遣いさえ感じられる。楽器のサイズや口の大きさがイメージできる。懐かしいジョーン・バエズをかければ、等身大の当時のままの彼女がセンター少し上の空間に浮かんでくっきりと定位する。同じフレーズを口ずさめばデュエットしてくれるかのようだ。

リスニング・ルーム評価に 振幅周波数特性は使ってはならない。

スピーカーから196cm離れたリスニング・ポジションにおける振幅周波数特性だ。劇的な音の改善がまったく反映されていない。音と相関しない物理特性は無意味だ。リスニング・ルームの物理評価データに、この「(振幅)周波数特性」は根本的に間違いだ。

反射は強大だ!大量の吸音材でも対策しきれない。気をつけねばならないことがある。それはキャリブレーションに、スピーカから離れたマイクのデータを参考にしてはならないことだ。音と相関が無いデータで埋め尽くされ音楽ソースが汚されてしまう。

役に立たないリスニング・ポジションの振幅周波数特性

 

エピローグ

長年夢見た「往年の名演奏を我が家で」がようやく実現できた。突き詰めてやってみないとわからない。やってよかった。測定用の無指向性ペア・マイク2本によるハイレゾの生録素材を等音量で再生すると、あの日あの時の音楽スタジオそのままの音に浸ることができる。ようやく官能的な楽器の音がなまめかしい人の声が、そのものが再現できた。

これで終わりか?
できるかどうかは別にしてやり残したことは少なくない
低域で数10%にも達するスピーカ固有のひずみもできることなら改善したい
今回わかった反射も抑制してみたい
もうちょっと・・・だ

ポスト・スクリプト。

35年も昔の話だ。我が家の新築時に手掛けたオーディオ・ルームは失敗作だった。「オーディオ・ルームの設計」なる書をたよりにライブに仕上げたのだが、音を出したその瞬間あまりのひどさに思いっきりがっかりした。家具や調度品が増えるに従い音は改善されたが子供の成長で手放した。以来10年ほど前にオーディオを再開するまで18年も遠ざかっていた。

冷却期間が幸いして同じ音源から違う音がする「おかしさ」に気が付いた。耐震リフォームを機に、手掛けるならこれが最後の機会だとオーディオ・ルームにも取り組んでみた。35年前の失敗も施工直後の部屋で確かめてみた。原理原則から全てを見直した。反射こそが諸悪の根源だ。一部が主張するよりもオーディオ・ルームの響きは遙かに少ないほうが望ましい。

思えば可笑しな趣味だ。音楽の再生装置なのに「原音は出せないのだよ」とはばからない。同じメーカでも同じCDを違うスピーカから再生すると音が著しく異なる。展示ブースで「今度はどんな音がするのか?」とわくわくしながら聴いた自分を覚えている。都合よくメーカーに洗脳されて楽しく散財を繰り返してきた。半世紀余りの時を費やしてようやくわかった。

従来の手法を踏襲する限り変化はあっても決して楽器の音は再現できない。個々の技術は間違いでは無いがオーディオ・システムに応用するには的外れだ。音楽に近づくには送出系で心血を注いだ「音響信号波形を音楽信号波形と相似にすること」 、「音楽ソース以外の成分はできる限り抑える」につきる。スピーカ・システムしかり、オーディオ・ルームしかりだ。