2021' 7/1

セブン・タイコス
「低域,中低域,中高域,高域」の音域で定位チェックが出来るユニークな評価用音源がある.「パイオニア・ザ・リファレンス」に収録された「セブン・タイコス」だ.「トライアングル,シンバル,小太鼓,大太鼓」 が,左右スピーカを結ぶ直線上を左から右へ等間隔に移動する. 「左・左寄左・中寄左・中心・中寄右・右寄右・右」の同じ位置に4種類の楽器がシャープに定位して聴こえればベストだ.

 

波形表示(小太鼓)

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トライアングルの定位異常
シンバル・小太鼓・大太鼓はほぼ同じ位置に定位するが,トライアングルは聴く毎に異なり時に大きく乱れる.「左・左寄左・中寄左」3つが「左」に固定したままだったり,2番目 の「左寄左」が1番目の「左」よりスピーカの左外側に定位して聴こえることさえある.このように大きく乱れた時でも,残る「中心・中寄右・右寄右・右」4つは ほぼ変わることなく中心から右へ順に移動して定位して聴こえる.

本革ハイバック・ソファ
トライアングルの定位変化は,ソファと頭の距離に関係することが分かるのに時間がかかった.深く座り頭がソファに近いと「左・左寄左・中寄左」3つが「左」に 固定する.着くと「左寄左」が左スピーカ外側に定位する.浅く座ると移動が少なく「左」からあまり離れない.ソファの表皮からの反射が要因と考えられるが,「中心・中寄右・右寄右・右」とは違いすぎる.原因は他にあると考えるのが妥当だ.

革製ハイバック・ソファ

吸音対策
念のため,スピーカも疑い左右を入れ替えたが変化はなかった.残るはオーディオ・ルームだ.定位に支配的な左右前後の4面の壁は,中高域で吸音性能に優れる定尺50mm厚のホワイト・キューオンを立てかけて覆っている.天井全面は20mm厚の発砲ネオプレンゴムを貼り付けてあるし,床はコルク・タイルを敷き中央はシャギーのカーペットを敷いている.これらの対策でも取り切れない原因が他にある.

左スピーカ周り

リスニング・ルーム出窓
オーディオ・ルームの左前方にある出窓が30cm程凹んでいて左右が音響的に非対称だ.見た目に対象となるように凹みに壁面と面一なるよう段ボール箱を積み上げていた.対策のつもりだったが右壁の材木板と段ボール紙とでは剛性に差があることは確かだ.硬いガラス窓を室内側に移動すれば良さそうだ.やって確かめてみよう.幸い出窓は遮音に留意して真空2重ガラス・サッシを外窓と内窓の2層構造だ.

出窓(赤で示す)

出窓(施工時)

出窓リフォーム
東急ハンズ渋谷店にて 窓枠材料の24mm合板をカットしてもらい調達した.DIYで内窓の室内面が壁面と面一になるように移動した.浅く座り頭をソファから遠ざけて確認した.改善されてトライアングルは左右スピーカを結ぶ直線上を「左・左寄左・中寄左・中心・中寄右・右寄右・右」の順に定位して聴こえる.深く座り頭がソファについても「左寄左」が,左スピーカ外側に定位することがなくなった.

対策前

対策後

エバレーション
出窓リフォームの効果を確かめてみた.ソファの皮革反射対策として浅く腰掛け頭をソファから十分に離しての試聴だ.出窓を覆う左前方と対称の右前方の壁を覆う50mm厚のホワイト・キューオンを外すとセブン ・タイコス4種類の楽器の音にかぶるような響きが耳につくが,それぞれが左から右へ順に左右対象の位置に定位して聴こえる.リスニング・ルーム左右の形状と材質が定位に支配的と確認できた.

アナリシス
理想フラットに仕上げたスピーカ・システムから 視聴位置2mの周波数特性だ.耳への最終伝送路リスニング・ルームが理想空間ならフラットなはずだが,天井床前後左右の6面の平面からの複雑な反射波により著しく劣化している.前後左右の壁全面に50mm厚のホワイト・キューオンを立てかけたりや天井全面に20mm厚の発泡ネオプレン・ゴムを貼り付ける程度では反射対策として十分でないことが分かる.

スピーカの周波数特性

視聴位置2mの周波数特性

トライアングル周波数スペクトラム
CDからトライアングルをリッピングしてEfuさんのWaveSpectraで分析した周波数成分だ.20kHz以上に及ぶ豊富なハーモニクスが認められる.定位に支配的な基音は800Hzと低くその1波長は40cmだ.凹んだ出窓の往復で遅延した反射と直接音の合成による位相変位が主原因で耳とソファの距離差が影響して著しい定位の乱れが生じたと考えれば合点が行く.

トライアングルの周波数スペクトラム

 

ポスト・スクリプト
「Pioneer The Reference」CDは非売品だ.持ち主宅のシステムを聴いた印象は小太鼓はまずまずだったがトライアングルが途中で戻るなどで 散々だった思い出がある.2013年のことだ.2年後リスニング・ルームが完成し,CDをお借りして最初の評価はトライアングルの最初の3つが左に近いなだった.持ち主宅よりはるかに良かったので当時は満足だった.

何回かお借りして評価する度にトライアングルの冒頭の3つが著しく異なることに気がつき条件出しにトライした.最初の発見は,リラックスして視聴できるように導入した本革電動リクライニング・ソファだった.本革ハイバック・シートがリスニング環境として不向きだとわかった.当時背もたれを低くすることができる電動リクライニングシートを探したりした.

オーディオの評価用音源の存在意義の一つはオーディオ・システムの現状を把握するためにあるのだが,結果が思わしくない場合に改善できるかというとこれが難しい.トライアングルは最高音域の楽器で中高音は十分な対策を施したつもりでこれも災いした.左右の耳はシートバックから等距離なので左右で定位が著しく異なるのは他に原因があるのではと気付いた.

「原因は出窓の凹み」と目星をつけ対策して問題が解決した.残る本革電動リクライニング・ソファだが,ビデオ鑑賞に快適この上ない.ソファ背もたれに大きいクッションを重ねクリティカル・リスニングの対策とした.リスニング・ルームは左右が対称でなければならない.これを満たさないと特定の音域の定位に深刻な影響を与える事実を再確認することができた.