■おしゃべり写真館 ■ −第25話−

 「下町散策」 

写真&文 手林 進

 

 北海道で生まれ育った私にとって、東京の下町とはある意味で近寄りがたくある意味で親しみの湧く不思議な場所だ。今住んでいる文京区界隈にも下町がある。本郷菊坂界隈を歩いていると木造の家屋が軒下を寄せ合い、その軒先に植木鉢が所狭しと並べられていてほっとさせられる。下町の良さはこの庶民性みたいなところにあるのだろう。東京の下町とは江戸の庶民生活の面影の残っているところなのかもしれない。だが、北海道生まれにとっては江戸は遠くて自身の生まれ育った環境とはまるで違う世界だ。粋な江戸っ子は同一化して理解できないが、蝦夷っ子は理解できる。

 

 

 東京に住んでいて写真を撮りにでかけようとすると下町は避けて通れない。本郷菊坂、千駄木、根津、谷中、入谷、三河島、三ノ輪、不忍池通り、上野、下谷、鳥越、浅草、向島、京島、柴又、亀戸、門前仲町、月島、築地、銀座、人形町。思い付くままに撮影に出かけた地名をあげてみたが、江東区・墨田区・台東区を中心にどうやら下町は存在しているようだ。出かけてみると分かるがこれら下町とは言っても、下町風情はどんどん失われていて、ある一角がその面影をとどめているに過ぎない。特に下町風情を写真に納めようというわけではなく、おもむくままに撮影するだけだから、そこに人がからんできてはっと思わせられて思わずシャッターを切ったりすることもある。下町は町並みと人と切り離せないかもしれない。 気取らない食堂や飲み屋も撮影に出かける楽しみでもある。撮影の後のビールはうまい。いや、それこそが本来の目的であるのかもしれない。

 

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