名誉ある、されど栄光なき戦い……
デルタグリーンは、米国の出版社ペイガン=パブリッシングから発売されたTRPG『クトゥルフの呼び声』(以下CoCと略称)のサプリメントであり、そのゲームにおいて中心的な役割を果たす秘密機関の名称でもある。本稿では、サプリメントの題名としてのデルタグリーンをDGと略称する。DGの作者であるジョン=タインズは米国のTRPG界における第一人者であり、d20版CoCの作者としても知られている。
デルタグリーンは、旧支配者の脅威から人類を防衛することを目的とする抗神組織(1)である。その工 作員(エージェント)は政府の機関に勤務していることが多いが、非公式・非合法の組織であり、本質的には陰謀団と呼ばれるべき性格のものである。旧支配者 の眷属や崇拝者だけでなく、マジェスティック12やカロテキアなど禁断の知識を弄ぶ勢力もデルタグリーンの大敵である。デルタグリーンの工作員たちは人類 を守護するために身命を抛つが、犠牲にしなければならないものはそれだけではない。作戦を遂行する際には、無関係の人間を巻き添えにしたり、同志を見殺し にしたりするなど、非情な行為に踏み切らなければならないことも多いのだ。従来のCoCで探索者が犠牲にしなければならないものは己の正気だったが、DG で工作員が犠牲にしなければならないのは己の人間性であるといわれている。
米国では根強い人気を誇るDGだが、日本での知名度は高いとはいえない。本稿では手短ながらDGの紹介を行う。DGはCoCの愛好家でなくとも楽 しめるものであり、日本のクトゥルー神話ファンがその魅力の一端に触れることができれば幸いであるが、より詳しいことを知りたい方は公式サイトを参照されたい。なお、DG関連小説で邦訳されたものとしては"Y.GOLO.NET"があり、湖の隣人の小屋に掲載されている(2)。
デルタグリーンの歴史については妖蟲世界が詳しいが(3)、本稿でも簡潔に説明させていただく。
デルタグリーンの前身は、超常現象の調査・研究を目的として1917年に創設された米国海軍情報部P課である。1928年、オルムステッドという人物の通報を契機として、連邦捜査局と海兵隊が合同でマサチューセッツ州インスマスの住民の一斉検挙を行った(4)。この作戦は「誓約」(COVENANT)と呼ばれ、P課の主任であるジェイムズ=ウェラン大佐が首席将校だった。
「誓約」作戦で得られた書類や石板の翻訳を担当したのが陸軍情報部第8課すなわち「機密室」(Black Chamber)である。『ダゴンの書』と呼ばれる石板の解読に機密室は成功したが、金融恐慌の最中に深きものどもの調査を続ける彼らにフーヴァー大統領 は不信感を抱き、機密室の解散を決定した。そして、クトゥルーの眷属について探索する仕事は海軍情報部P課のもとに移った。海魔の存在は海軍にとって由々 しき問題だったのである。
ラバン=シュリュズベリイ博士やハロルド=コープランド教授の著作を参考にして、深きものどもに関する調査が進められた。フィリピンやニカラグア で深きものどもの集落が発見されて殲滅されたが、やがて第二次世界大戦が勃発して別の脅威が現れた。カロテキアと呼ばれるナチス親衛隊(SS)の秘密機関 が第三帝国のために旧支配者の力を利用しようと目論んでいることが判明したのである。これに対抗するためにP課の再編が行われ、戦略事務局(OSS)の一 部門としてデルタグリーンが誕生した。1942年6月16日のことである。この時点では組織の正式名称はP課のままだったが、デルタグリーンという通称が もっぱら用いられるようになった。
SS長官ハインリヒ=ヒムラーに直属するカロテキアはほぼ無制限に活動の自由を認められており、異界の力を招喚して連合軍との戦いに役立てようと 探索と研究を重ねた。マーティン=クック中佐に率いられるデルタグリーンはカロテキアを粉砕するために死闘を展開した。やがて戦争は終結し、第三帝国は滅 びたが、カロテキアの残党は南米に逃れて組織を再建した。
第二次世界大戦が終結するとOSSは1945年10月1日に廃止され、デルタグリーンもいったんは解散した。しかし1947年6月24日に異星人 の宇宙船がニューメキシコ州に墜落した。ロズウェル事件である。報告を受けたトルーマン大統領は事件の解明および隠蔽のためにマジェスティック12を発足 させたが、同時にデルタグリーンが統合参謀本部直属の機関として復活した。このときからデルタグリーンが組織の正式名称となった。
「異星人の技術を諸外国に使わせないために必要な作戦の遂行」がデルタグリーンの主な任務とされたが、デルタグリーンの工作員たちは異星人にはほ とんど注意を払わず、深きものどもやカロテキアとの戦いを自分たちの使命と心得ていた。やがて統合参謀本部はそのことに気づいたが、デルタグリーンは南米 でカロテキアの残党狩りを行って成果を収めたので、当初の任務を免除されることになった。UFO関連の任務は完全にデルタグリーンの手を離れてマジェス ティックの管轄となった。このときから、デルタグリーンとマジェスティックは互いにほとんど関わりを持たなくなった。マジェスティックにとって、デルタグ リーンは二次大戦の栄光に浸っている与太者の群だった。そしてデルタグリーンにとって、マジェスティックは人類に対する真の脅威に眼を向けようとしない専 門バカの集まりだった。かくして、両者が力を合わせたら解明できたかもしれない多くの謎は謎のまま残された。
1955年1月、デルタグリーンは深刻な痛手を被った。1929年に機密室で『ダゴンの書』を解読し、戦後もデルタグリーンの一線級の研究員とし て活動していたダニエル=フリースが発狂して、「誓約」作戦で押収された文書をすべて焼き払った上、石板を粉々に砕いたのである。1959年5月には、デ ルタグリーンの主任であるマーティン=クック准将が過度の心労のために入院した。クック准将は1963年に退院したが、その後はモンタナ州で余生を送り、 1968年に自然死するまでデルタグリーンとは一切かかわりを持たなかった。
当時デルタグリーンの中核にあったのはデルタグリーン運営委員会だった。1961年、研究機関や軍から新たに26名がデルタグリーン運営委員会に 迎え入れられたが、運営委員会が新規にメンバーを採用したのはそれが最後だった。1960年代のデルタグリーンは必要に応じて様々な政府機関の人間と個別 に接触し、彼らに「協力者」の資格と情報を与えるようになったのである。その結果、デルタグリーンは中枢の統制力が弱まり、運営委員会の承認を得ないまま 行動を起こす工作員が現れるようになった。
1969年11月、海兵隊のウェイド大佐がカンボジアでの作戦に独断で踏み切った。赤色クメールが邪神の招喚を試みているという情報があり、それ を阻止するのが目的だった。その作戦は無惨な失敗に終わり、密林の中で邪神の神殿に突入した300人近い軍人が殉職した。生き残って退却に成功した者たち はウェイド大佐を殺害した。デルタグリーンの活動が明るみに出ることを危惧した統合参謀本部は組織の廃止を決定し、1970年1月24日にデルタグリーン は解散させられた。
1970年の夏、デルタグリーンの元工作員40名がワシントンで秘密裏に会合を開いた。彼らは組織の廃止を不服としており、人類に対する脅威と戦 う必要性を感じていた。1971年のクリスマスまでに、デルタグリーンは非公式に活動を再開した。インドシナ半島で数機の爆撃機が進路をはずれ、トゥチョ =トゥチョ族の村を爆撃するよう仕向けることが彼らの最初の作戦だった。司令部も予算もない状態でデルタグリーンは復活したのである。1970年代からご く最近まで、デルタグリーンの組織と呼べるようなものはまったく存在しない状態だった。工作員たちはFBIやCIAなどに務めながら、極秘裏にデルタグ リーンの作戦を遂行していった。
当時のデルタグリーンは指揮系統をまったく欠いていた。作戦の過程で得られた情報を収集して組織全体に行き渡らせるための中枢は存在せず、連携の 欠如や混乱から活動は多くの失敗を重ねることになった。にもかかわらず一定の成果が上がっていたらしいのだが、この時期のデルタグリーンの活動について知 られていることはほとんどない。
二次大戦後、カロテキアに代わってデルタグリーンの最大の敵となったのがマジェスティック12である。墜落したUFOの残骸を調査するために設立 されたマジェスティック12はやがてエイリアンと取引を行うようになり、科学・技術を提供してもらう見返りとして彼らの米国内での活動を黙認するように なった。エイリアンの活動は米国市民の拉致をも含むものであり、彼らのしていることに気づいたデルタグリーンの工作員たちはマジェスティックを祖国および 人類に対する裏切者と見なした。
デルタグリーンの重鎮であるレジナルド=フェアフィールド陸軍少将はマジェスティックに対して積極的に戦いを挑み、マジェスティックとエイリアン の会見を妨害するなど戦果を収めたが、当然ながらマジェスティックの逆襲が待っていた。1994年、マジェスティックの戦闘部隊であるNROデルタの暗殺 隊がフェアフィールド退役少将を襲撃した。フェアフィールド少将は貴重なデータを同志たちに送信し、邪神の眷属やエイリアンに対する徹底抗戦を呼びかける メッセージを残して斃れた。このことを受けてジョゼフ=キャンプ博士は同志たちを説得し、デルタグリーンを再結成した。
現在のデルタグリーンはAからZまで26の細胞で構成されており、各細胞にそれぞれ3人の工作員が所属している。細胞の序列はABC順になっており、したがってA細胞が最上位である。現在のデルタグリーンの綱領は次の通りである。
デルタグリーンの工作員は78名に過ぎないが、他に多数の協力者を擁する。ただし協力者すべてがデルタグリーンのことを熟知しているわけではな い。並の工作員よりも多くを知っているものもいれば、デルタグリーンのごく一部しか知らないものもおり、さらにデルタグリーンの存在自体を知らされていな い協力者すらいるのだ。そういう協力者はデルタグリーンの側が一方的に協力者と見なしているだけで、実際にはコマである。第5節で紹介するパーク博士も最 初はその種の「協力者」だった。
デルタグリーンに相当する組織として英国にはピスケスが、ロシアには参謀本部情報総局第8特務部(GRU-SV8)が存在する。また中国政府は神話存在 について高度な知識を有しており、独自の機関を擁していると見るべきだろう。さらに、DGの公式設定に含まれるものではないが、デルタグリーンの日本版と もいうべき黒蜥蜴も無視できない存在である。黒蜥蜴についての詳細な説明は他稿に譲るが、DGの世界観を継承しつつ独自の物語を作り上げており、一読の価値がある。
米国政府の秘密機関。グレイと結託しており、グレイから科学・技術の提供を受ける見返りとして、彼らが米国内で活動するのを黙認している。軍隊を も動かすことのできる強大な組織。デルタグリーンとは犬猿の仲であり、たびたび死闘が繰り広げられているが、全面戦争は双方にとって好ましくないので、戦 いを小規模なものに限定するという暗黙の了解事項が両者の間には存在する。国家偵察局デルタ部隊(NROデルタ)はマジェスティック最強の戦闘部隊であ り、また生体実験を行っている研究機関アウトルック=グループを下部組織として従える。マジェスティックは米国政府そのものともいえる組織であり、未曾有 の軍事力・経済力を有する。なおマジェスティックに関する設定のために、DGはクトゥルー神話にX-FILESの要素を持ち込んだゲームと見なされがちだ が、DGが世に出たのはX-FILESにマジェスティックが登場する以前のことなので剽窃ではないと関係者たちは主張している。
マジェスティックは1947年9月24日に誕生し、軍・情報部・学界の主導的な人物12名を中心として構成されている。国家安全保障会議に直属す るということになっているが、これは形式的なものに過ぎず、ジョンソン以降の大統領にはマジェスティックの存在が知らされていないのが普通である。マジェ スティックは自分たちの存在と活動を極秘の状態に保とうとしており、その一員だったジェイムズ=フォレスタル国防長官は口封じのため1949年5月22日 に暗殺された。
1980年10月31日にエリア51でマジェスティックの代表とグレイの会見が行われた。この会見の内容はレーガン大統領に奏上され、米国政府と グレイの間に条約が締結された。市民の拉致を含む種々の活動を米国内で自由に行える見返りとして、グレイは各国の軍事力の詳細な分析結果を米国に提供し、 これが冷戦における米国の勝利を決定的にした。米国市民の拉致は殺傷を伴うものであってはならないという当初の条件は頻繁に無視されていたが、新世界秩序 実現の野望に燃えるレーガン政権はグレイとの友好関係を保ち、後継者のブッシュ(父)もレーガンの路線を継承した(5)。
マジェスティックの中核となるのがマジェスティック運営委員会である。運営委員会は12名の委員から構成されており、現在はジャスティン=クロフ トが委員長である。このメンバーの中に大統領は含まれていない。マジェスティックには12の重要な部門が存在し、運営委員会の12名のメンバーが各部門を それぞれ率いている。グレイのことを信用している運営委員は稀であり、グレイとの同盟関係を維持するべきかどうかを巡って運営委員会は分裂している。委員 長のクロフトは私的な利益のためにグレイとの同盟を支持しているが、ユースティス=ベル空軍中将はグレイの侵略を警戒し、グレイに対抗するための有力な兵 器を開発する計画を推進しようとしている。また「石榴石」計画(6)の担当者であるゲイヴィン=ロスは運営委員会の粛清を目論んでおり、デルタグリーンにクロフトの一派を片付けさせようとしている。
グレイの背後にいるもののことをマジェスティックはまったく知らないが、グレイの正体はミ=ゴの開発したロボットである。彼らはミ=ゴが人類を研 究するための道具であり、ミ=ゴの思念によって操られている。ミ=ゴは地球で採鉱を行う一方で、人間の精神に深い関心を抱いている。人間はしばしば非論理 的に判断するが、それが却って正しい結論に至ることもある。これは人類に固有の特性であり、ミ=ゴにはないものなのである。
マジェスティックは邪悪な目的のために発足した機関ではないということに注意しなければならない。それどころか、ある意味では現在も国益のために 行動しているのだが、デルタグリーンにしてみればマジェスティックは絶対に許されざる存在である。だが、マジェスティックと自分たちにどれほどの違いがあ るのかと悩むデルタグリーンの工作員もいる。手段が目的と化した組織であるという点において、デルタグリーンとマジェスティックは左右の手のようなもので あるともいえよう。
SSの秘密機関。その前身は帝国保安本部第7局に所属する特命部隊Hであり、カトリック教会に対する監視・弾圧が本来の任務だったが、徐々にオカルトの研究および実践を使命とするようになった。後にヒムラー直属の機関となる。おそらく当初はラインハルト=ハイドリヒに率いられており、ハイドリヒが死んだときに帝国保安本部から独立したのだろう。
カロテキアは組織全体の長を持たず、独自に構成するいくつもの班から構成されていた。その活動は多岐にわたっていた。たとえば1941年、コーン ウォール沖の海底都市に住む深きものどもとカロテキアが接触した。この時、クラクフ近郊の強制収容所から運ばれてきた1000人のユダヤ人が深きものども の生贄にされたという。深きものどもを第三帝国の英国進攻に協力させるのがカロテキアの狙いだったが、デルタグリーンは奇襲攻撃を行って計画を頓挫させ た。
カロテキアは死者の再生に成功し、戦死した兵士を蘇らせて戦場に投入した。そのようなアンデッド兵は意志も知性も持たず、敵味方の区別なく近くの 人間に襲いかかるのが常だったが、とりわけソビエト軍との戦闘で効果を発揮したという。また欧州各地で魔道書を集めてまわり、フォン=ユンツトの未発表原 稿を求めてアレクシス=ラドーの墓を暴くなどした。そのようにして収集された文書の多くはソ連邦に持ち去られたらしい。さらに、古のものどもの超兵器を見 つけ出すべく南極探検を行ったが、その成果が上がる前に第三帝国は滅亡した。
ヒトラーは死に臨み、カロテキアに対して最後の指令を発した。これは「神々の黄昏」作戦と呼ばれ、全世界を第三帝国の道連れにすることを目的としたものだった。カロテキアがいかなる手段を用いようとしているのかデルタグリーンは突き止められなかったが(7)、 躍起になってカロテキアの残党狩りを行い、作戦を阻止しようとした。これを「狂気」(LUNACY)作戦という。結局「神々の黄昏」作戦は遂行されなかっ たが、カロテキアを殲滅することもできなかった。カロテキアに所属していた164名のうち37名が生き延びて南米に逃亡し、デルタグリーンはカロテキアの 残党を殲滅するために「南部の歓待」(SOUTHERN HOSPITALITY)作戦を行った。作戦は1956年までに完了したものと思われていたが、オラフ=ビッテリヒ博士・ギュンター=フランク博士・ライ ンハルト=ガルト准将の3人がまだ生き延びていた。そして彼らは今日なお生き続けており、カロテキアの三巨頭として知られている。
いったんは三巨頭を残して壊滅したカロテキアだったが、1975年から組織の再建が進められた。新生カロテキアはブラジルのラ=エスタンシアに総 司令部があり、三巨頭に率いられている。ビッテリヒ博士の下には、強大な魔力を持つ12人の大幹部がおり、彼らは「僧正」と呼ばれている。また軍事・経済 部門の指揮を担当する「騎士」という幹部が数百人いる。カロテキアの本体は総勢数百名に過ぎないようだが、「歩兵」と呼ばれる数千人の戦闘員を擁しているほか、世界各地のテロ組織や極右団体を陰で操っている。
ニューヨークを拠点とする秘密結社。スティーヴン=アルジスを総帥とし、ナイアーラトテップを崇拝するカルト集団だが、ネットワークと呼ばれる犯 罪組織を使役することによって巧みに自分たちの正体を隠蔽している。アルジスをナイアーラトテップと同一視するが、自分がナイアーラトテップの化身である ことを彼自身は否定している。
マダムAと名乗る謎の女性が1927年にニューヨークに現れた。彼女がニューヨークの上流社会に作り上げたオカルト結社がフェイトの前身である。 1930年代に組織の抜本的な改革が行われてフェイトが誕生したが、マダムAは1951年12月に失踪し、それ以後はアルジスがフェイトを率いている。 フェイトはDGおよびCoCにおける最強の組織であり、フェイトに比べるとマジェスティックですら取るに足らない存在である。ほとんど無敵ともいえる力を 有するフェイトだが、なぜかニューヨークの外側には勢力を拡大しようとしない。
1965年にCIAの外郭団体として創立された貿易会社。非合法の物資や技術をCIAが諸外国に供与する際に使われていた。米国に移住したトゥ チョ=トゥチョ族が1980年代に乗っ取り、その資金源である麻薬を米国に密輸するのに利用されている。また、シュブ=ニグラスを崇拝するニューポテン シャル同胞団もタイガー=トランジットの運営に関与している。
トゥチョ=トゥチョ族は風の神々を崇拝し、その領袖ハスターの力の表象である黄の印を奉じるが、彼らが真に危険な存在となったのは実は近年のこと である。インドシナ戦争のときに米国がトゥチョ=トゥチョ族を反共勢力として育成したことにより、彼らは力をつけたのである。DGの公式サイトに掲載され ている長編小説『エンジェル』には、米国内におけるトゥチョ=トゥチョ族の暗躍が描かれている。なおタインズの解釈におけるハスターは神性というよりも宇宙の力であり、アザトースやヨグ=ソトースに近い存在ということができる。
デルタグリーンの指導者。ハーバード大卒。A細胞に所属し、組織全体を統率する。OSSに務め、中国や東南アジアでカロテキアと戦った。二次大戦 終結時に少佐。戦後はしばらくCIAに務めた後、1947年に復活したデルタグリーンに戻った。現在は米国議会図書館の館員だが、とっくに定年を迎えてい るにもかかわらず辞めさせられることがない。議会図書館の地下にデルタグリーンの総司令部を構え、「光と闇の眼」を用いて議会図書館を守っている。卓越し た知性と精神力の持ち主ではあるが、ラバン=シュリュズベリイ博士のような超人ではなく、非情な決断を下さなければならないときは使命感と人情の板挟みに なって苦悩することもある。コードネームはアルフォンス。
FBI副長官。A細胞に所属し、キャンプ博士と共にデルタグリーンを率いる。コードネームはアダム。1999年、カロテキアのガルト准将に射殺された。
デルタグリーンの各細胞は3人の工作員で構成されるのが原則であり、A細胞にもキャンプとカーペンターの他に3人目の工作員がいる。そのコード ネームはアンドレアだが、正体は完全に不明であり、本名どころか性別も知られていない。ただしDGの公式サイトに掲載されているイラストを見る限りでは女 性である。アンドレアの役割は不明だが、デルタグリーンの「掃除屋」として暗殺を担当しているのではないかという説が有力である。
デルタグリーンの工作員。N細胞に所属し、コードネームはナンシー。本名はデブラ=コンスタンス博士。FBIに勤務していたが、魔力を持つ書物 『食屍鬼草稿』を読まされたことによって食屍鬼に変じた。食屍鬼ならではの特殊能力を有し、デルタグリーンにとって最重要の戦力だが、人間性の喪失に苦し められている。もちろん通常の社会生活を送ることは不可能であり、N細胞はもっぱら彼女の面倒を見るために存在している。食べた人間の姿と記憶を吸収する ことができるが、デルタグリーンが適当に入手してきた少女の死体を仮の姿としてあてがったため、外見年齢は実際よりも遙かに若い。『スタートレック』シ リーズのファン。
DGにおける食屍鬼の扱いはおおむね次のようになっている。食屍鬼は幻夢境とニューヨークの地下を自在に行き来し、自分たちの神としてモルディギアン(8) を崇めるが、モルディギアンはナイアーラトテップの庇護下にある。食屍鬼は本来は中立的な種族だが、伝統派と異端派に分裂している。伝統派は死者の肉だけ を食し、生きている人間に危害を加えることはない。異端派は麻薬を好み、ニューヨークで人間を襲っては人肉と麻薬を手に入れている。そしてモルディギアン の穏健な性格を嫌い、ナイアーラトテップがモルディギアンを更迭して別の有力な食屍鬼を自分たちの新しい神に選ぶことを期待している。デルタグリーンは ニューヨークの地下で異端派の食屍鬼と戦いを繰り広げている。すなわち、「未知なるカダスを夢に求めて」と「地の底深く」を強引に融合させたような設定で あるということができる。
デルタグリーンの工作員。T細胞に所属し、コードネームはテリー。環境保護局に勤務。ジェイムズ大佐に協力してカリフォルニアの集落を調査中、深 きものどもの存在を知り、以後デルタグリーンの工作員となる。深きものどもと人間の間に生まれた赤ん坊が射殺される現場をいきなり目撃してしまうなど精神 を消耗することが多く、自殺願望を抱くに至る。これはパーク博士に限ったことではなく、デルタグリーンの工作員にはアルコール依存症や過食症が少なからず 見られる。
デルタグリーンの元工作員。海軍特殊部隊シールのチーム7指揮官(9)。D細胞に所属していたが、深 きものどもとの戦闘で重傷を負ったときの記憶がよみがえって錯乱し、傷害事件を起こした。そのためレヴンワース刑務所に送られたが、デルタグリーンとマ ジェスティック12の抗争でパーク博士が窮地に陥ったことを知り、アルジスの手引きで脱獄。プエルトリコに乗り込んでパーク博士を救出し、アウトルック= グループの基地を壊滅させたが、その後の消息は不詳。コードネームはダレン。
ジェイムズ大佐は海軍将校だが、前身が海軍情報部の一部門だった関係でデルタグリーンは海軍とのつながりが深いようである。海軍情報部長官のハーリー=パットン少将はデルタグリーンの協力者で、新しい工作員をスカウトすることもある。
カロテキア三巨頭の一人。1911年生まれ。大戦中アフリカに派遣され、ベルギー領コンゴのアンジック族の集落で終戦を迎えたが、そのときアン ジック族と共に自分の部下を食らった。しばらくアンジック族のもとに滞在して彼らの秘術を習得した後、エジプトや中東などを転々としてから南米に赴き、カ ロテキアの残存勢力と合流した。人肉を常食することによって永遠の若さを手に入れ、金髪碧眼の美貌と超人的な能力を誇る。種々の武器の扱いや格闘術に精通 している上、防御力を高めるアンジックの指輪を装着しており、火力による攻撃が通用しない。
三巨頭のうちフランク博士はいったん癌で死んでおり、現在は機械の力で半生者として生きている身なので、空調の効いたラ=エスタンシアの屋敷から 一歩も外に出ることができない。またビッテリヒ博士も高齢のために動けないので、騎士たちを率いて実際に行動するのは必然的にガルトの役割となっている。 その超人的な力と美貌ゆえにガルトはカロテキアの騎士たちから最も尊敬されているが、第四帝国の建設には興味を示さず、もっぱら己の若さの維持のみを心が けている。フェイトともつながりがあり、アルジスに依頼されて仕事を請け負うこともある。
フェイトの総帥。フェイトはナイアーラトテップを崇拝するが、アルジス自身はいかなる神も崇めない。その正体を知る者は誰もいないが、這い寄る混沌ナイアーラトテップの化身ではないかという噂がある(10)。至る所に現れるが、とりわけマンハッタンの高級クラブ・アポカリプス(11) で頻繁に目撃されている。二次大戦後にニューヨークで活動を開始し、フェイトの支配者となった。1930年から15回も死亡が確認されており、1987年 にも飛行機事故で死んだことになっている。ほっそりした美貌のアラブ人で、どこに現れるときも一人きりである。常に盛装しており、丸腰である。いつも携帯 電話を持っているが、その携帯はどんな場所でも必ず通話できるらしい。
意外にもアルジスはデルタグリーンに敵対する存在ではなく、デルタグリーンの工作員に力を貸してくれることもあるが、彼の真意は不明である。また アルジスの助力を受けるものは、然るべき代償を支払わなければならない。謎に包まれているが、DGひいてはCoCの世界において最強の存在であるというこ とができるだろう。タインズの長編小説『交戦規定』では、アウトルック=グループと戦うデルタグリーンの工作員たちに助太刀しつつ、新しい神を創出すると いう自分自身の目的を達成した。その神が旧支配者に連なる存在なのか、それとも旧支配者に刃向かう存在なのかは不明である。
かつてペイガン=パブリッシングは『終末の時』というCoCのサプリメントの制作を企画したことがある。それはクトゥルー覚醒後の世界を舞台とした非常に特殊なサプリメントだった。結局ペイガンはこのサプリメントを発売しなかったが(12)、DGは多分に『終末の時』の影響を受けており、CoCと『終末の時』の橋渡しをする存在であると見なすこ とができる。したがってDGはきわめて終末論的な色彩が強く、人類に残された時間はもう少ないのだということを強く窺わせるものである。
デルタグリーンには戦闘や諜報のプロが揃っており、その力は相当なものである。しかしながらデルタグリーンの敵は途方もなく強大であり、彼らに比 べたらデルタグリーンは80人足らずの敗残兵の群に過ぎない。デルタグリーンの戦いは基本的には負け戦であり、工作員たちはそのことを知っていながらも戦 いを放棄するわけにはいかないのである。だが、私たちを勇気づけてくれる言葉がある。
異界の敵との長く破滅的な戦いに人類が敗北するようなことがあろうとも、人類の存在と苦闘の物語が無駄に語られたことにはなるまい──C.A.スミス(13)
下記のサイトについては本文中からもリンクを張ってあるが、印刷したときの便宜を考慮し、ここに列挙させていただく。
ペイガン=パブリッシング公式サイト
http://www.tccorp.com/pagan/
ジョン=タインズ氏の個人サイト
http://www.johntynes.com/
『デルタグリーン』公式サイト
http://www.delta-green.com/
湖の隣人の小屋
http://www5d.biglobe.ne.jp/~lake-god/
妖蟲世界
http://www2s.biglobe.ne.jp/~yochu/
黒蜥蜴
http://kurotokage.org/Kurotokage/index.html
ラインハルト=ハイドリヒ略伝
http://www7a.biglobe.ne.jp/~byakhee/bios/heydrich.html
デイヴィッド=ファーネル『エンジェル』
http://www.delta-green.com/opint/case_histories/ch_ADG.DF-0011.html
クトゥルーML
http://www.246.ne.jp/~kayano/cthulhu/
DELTA GREEN
BY DENNIS DETWILLER, ADAM SCOTT GLANCY & JOHN TYNES, 1996
Pagan Publishing
$29.95(USA)
DELTA GREEN COUNTDOWN
BY DENNIS DETWILLER, ADAM SCOTT GLANCY & JOHN TYNES, 1999
Pagan Publishing
$39.95(USA)
DELTA GREEN EYES ONLY VOLUME TWO: THE FATE
BY DENNIS DETWILLER, 1998
Pagan Publishing
$15(USA)
DELTA GREEN ALIEN INTELLIGENCE
EDITED BY BOB KRUGER & JOHN TYNES, 1998
Armitage House
$11.95(USA)
DELTA GREEN DARK THEATRES
EDITED BY BOB KRUGER & JOHN TYNES, 2001
Armitage House
$19.95(USA)
DELTA GREEN THE RULES OF ENGAGEMENT
BY JOHN TYNES, 2000
Armitage House
$13.95(USA)
本稿を執筆するに当たっては、湖の隣人氏より多大なる御教示をいただきました。その助力なくしては、本稿は完成しなかったことでしょう。ここに御礼を申し上げます。なお、本稿の不備や誤りについての責任はすべて私にあります。