モートン先生

竹岡啓


 「クトゥルーの呼び声」には次のような記述がある。

 エインジェル教授が「クトゥルー教団」と呼んだものについて大々的に調査を行う私が訪問していたのはニュージャージー州パターソンの博学な友人だった。地元の博物館の館長で、高名な鉱物学者だ。

 ラヴクラフトにはジェイムズ=ファーディナンド=モートンという友人がいた。彼はニュージャージー州パターソンの博物館の館長で、ハーバード大学を卒業した鉱物学の権威だった。おそらく「クトゥルーの呼び声」に登場する「パターソンの博学な友人」とはモートンのことなのだろう。C.A.スミスへの言及があることと併せて、「呼び声」における楽屋落ちであるように思われる。

 なおフランク=ベルナップ=ロングの「ティンダロスの猟犬」にもジェイムズ=モートン博士なる人物が登場し、ティンダロスの猟犬がハルピン=チャーマズの死体に残していった青い漿液を分析している。この場合は鉱物学者ではなく生物学者だが、モートンとロングは共にニューヨークのケイレム=クラブの会員だった。「ティンダロスの猟犬」に登場するモートン博士が実在のモートンに因んでいる可能性について『クトゥルー大百科』の著者ダニエル=ハームズに問い合わせたところ、ロングとモートンが友達だったことは少なくとも事実だという返信をいただいた。ハームズ氏の親切な御教示に御礼を申し上げる次第である。

 モートンはラジカルな人物で、黒人の人権問題に取り組んでいたという。ラヴクラフトは誰に向かっても「おじいちゃん」と自称する癖があり、モートンもその例外ではなかったが、実はモートンの方がラヴクラフトより20も年上だった。