HPL哀悼

ヘイゼル=ヒールド


 H.P.ラヴクラフトが世を去ったことに対して哀悼の意を表したい。悪戦苦闘する新米作家にとって彼は真の友であり、彼の親切な助力のおかげで大勢の者が成功への梯子を登っていった。彼のことを実際に知っていた私たちにとっては、筆舌に尽くしがたい悲しみである。文筆業を始めようとする私を彼は手助けし、ひどい困難の中を突き進んでいく勇気を私に与えてくれた。だが、彼はただ長旅に出て「不在」であるだけなのだ、いつの日か私たちは彼岸で彼に再会できるだろうと考えることにしよう。


 H.P.ラヴクラフトの如き頭脳の持主はめったに見つかるまい──尋常ならざる知性の人だった。彼はさらなる知識を絶えず探求し、より豊潤かつ完璧に人間と人生を理解するべく延々と勉学に励んでいた。大変な旅行好きでもあった彼は古都とその秘められた伝承を探索しては大いに楽しみ、史跡を訪ねるために何マイルも歩き通したものだった。ラヴクラフトを知る人すべてにとって彼は本物の友であり、貴重な時間を惜しみなく割いては、哀れな駆け出しの作家に救いの手を差し伸べてやるのが常だった──真の導きの星ともいうべき人だった。彼は物言わぬ動物たちが大好きで、とりわけ猫を愛したが、その愛情は彼の作品からも読み取れるだろう。彼は脇道に逸れては寄る辺ない野良猫を撫で、親しげに言葉をかけてやったものだった。彼にとって隣家の子猫たちは尽きせぬ喜びの源だった。彼は建築と芸術の熱心な愛好家であり、彼と一緒なら博物館も一日中いる価値があった。彼は夜遅くまで倦まず仕事をしては、世界最高の怪奇小説を生み出していったが、自らの文学のために健康を犠牲にしてしまった。ラヴクラフトは世界への贈物であり、かけがえのない存在だった──人類の友だった。


解説

 「博物館の恐怖」「永劫より」など5編の合作をラヴクラフトと書いたヘイゼル=ヒールドは、ラヴクラフトを愛した女性としても知られている。ラヴクラフトが世を去ったときに彼女が書いた2編の追悼文をここに訳出した。初出は2編ともウィアードテイルズの投書欄である。

 ヒールドはラヴクラフトを日曜日の晩餐に招待したことがある。彼女は腕を振るってラヴクラフトの好物を作り、ラヴクラフトの方でも彼女の細やかな心配りが気に入った。自分の万年筆が壊れてしまったとヒールドがラヴクラフトに知らせたとき、ラヴクラフトはすかさずヒールドにウォーターマンの新品を贈ったという。しかし、二人の関係がそこから先に進展することはついになかった。ヒールドはラヴクラフトの写真を額に入れて寝室の壁に飾り、自分の気持ちを彼に伝えてほしいとミュリエル=エディーに頼んだが、ラヴクラフトの方では何の反応も示さなかった。エディー夫人は次のように語り、二人が結ばれなかったことを残念がっている。

 この見目麗しい女性への愛がラヴクラフトの心に芽生えてくれたら、さぞかし良い夫婦になったことだろう。二人は一緒に怪奇小説の傑作をたくさん書けたに違いない。なぜならヘイゼルはもう一人の奥さんとは違い、ラヴクラフトの繊細な感受性と生来の優しさを知っていたから、彼のことを優しく理解してあげられたはずなのだ。彼は商業主義におもねるようなことは決してできなかったが、怪奇作家としては常に最高峰にいた。そしてヘイゼルはそれだけで充分に満足だった。