挽歌 プロヴィデンスに春が……
(ハワード=フィリップス=ラヴクラフトに捧げる)
オーガスト=ダーレス
ハワード 大学の庭を下って66番地を過ぎ スワンポイントにも春は来ましたか?
ここ田舎では 春は空から吹き降りてきます 南風が広まって 空中に春が満ちます
池深く蛙が騒ぎ 空高い雲は
氷の溶けた水面に映えます ああ ワキアカツグミの歌に 早々と現れた雨蛙の叫びに
帽子のようなアラムの萼に いくたび心が躍ったことか!
あなたは何年も前から御存じだった 今や彼らがこぞって私に告げるのは
あなたが逝ってしまわれたということ 繁りつつある木を風が泣かせ
梟が滑空していき 孤独な鷹が叫ぶ
石と柳の葉が太陽を誘うところにも
悲しみが木霊します ああ 大地も天空も何と哀しいことか
──風が 木が 泉の音が──死を悼んで泣いています
あなたの生きている肉体は
ただ一触で土塊と化してしまった! もう一日とて
あなたから手紙は来ない 燦然と輝く空想にも
紙面一杯の暖かな友情ともお別れです されど──扉の彼方では
今なおクトゥルーが歩み アラブ人は彼の『ネクロノミコン』を読誦する
そして不死なる旧支配者は輝き続ける!
ハワード 春爛漫のプロヴィデンスはいかがですか
森の芝生は 垣根の彼方の野原は
あなたが足跡を残し 秋の木の葉と塵が今なお散っているところは?
かくも深き悲しみを言い表せる言葉などありはしない
信じねばならぬことも心が拒む 塵より生まれて塵へと還る あなたでさえも
長き道程を経て死へと至った されど心は信じ続ける 精神はあなたと共に
この身に残された時間はずっと あなたの思い出を胸に抱かずにはいられない
(あの心を持つ人はいない、その魂の居場所はその記憶を知る精神の内以外になし!)
ハワード 今も星々は常と変わらず巡ります
春が来て枝はたわわです
あなたが横たわっているところでも──66番地を過ぎ
あなたを喪った芝生と通りを下って スワンポイントにも春が……
【解説】
ラヴクラフトの死を知ってオーガスト=ダーレスが書いた詩。ダーレスに宛てて書いた1937年3月30日付の書簡でC.A.スミスはこの詩を絶賛している。Riverという文芸誌の1937年6月号に掲載された後、1944年にアーカムハウスから出版された『マルジナリア』に収録された。