ゴトウ千香子の描く世界は、さまざまな形式と自在な表現が混在し、ある種のまとまりのなさや、とりとめのなさが感じられるかもしれない。
しかし、これらの多様さや一見分裂した表情にも、実は一貫性のある作家の姿勢と表現のベクトルを見いだすことができる。それは、音楽と絵画、東洋と西洋、都会と自然といった二項対立を表現によって一元化するスタンスである。とりわけ音楽と絵画の融合のための実験は彼女の最大のテーマであろう。
ゴトウさんはロンドン大学・ゴールドスミスカレッジ美術学部に留学し、絵画や版画などを学び、同時にモーツァルト、ラヴェル、ドビュッシー、サティ、バルトークなどの音楽を絵画で表現する試みをはじめた。帰国後は義太夫節など日本的な世界に没頭し、音と絵画の可能性を追求してきたのだが、一年半ほど前から湯布院に住み、自然界と音楽の融合を目指しているという。
音楽と絵画の関係といえば、両方に才能を発揮し、その選択に苦慮したパウル・クレーや、クレーのバウハウスの同僚で音楽の純粋抽象の世界を絵画で模倣したカンディンスキーなどを思い起こす。これら今世紀初頭の大きなテーマも、戦後美術における絵画の事物化という動きの中で、抽象化は進んだものの、精神性よりも物質性が強調されてきた。すなわち彼女の目指す絵画は、今日非常に困難な拠(よ)り所のない棘(いばら)の道だと言えなくもない。
その難題に立ち向かうとしたら、飽くことのない探究心とイマジネーションを失わない素直さであろう。陳腐な形式や流行にとらわれることなく、さらに自己と世界の関係を緊密に深め、独自の「目で見る音楽会」を実現してほしいと願うものである。
大分市美術館
学芸課長補佐兼係長
菅 章
(大分合同新聞2000年7月より抜粋)
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the sound of the moon2(the detail)
月の音2(部分) |
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the sound of the moon1(the detail)
月の音1(部分) |
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the sound of the water
水の音符 |
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