Sカーブ対応ボディマウントカプラーポケット






開発の経緯


 また技術部長が工作室に引き篭って何かしています。

 どうやら、試作したボディマウントカプラーポケット装備車がR145のSカーブを通過することができなかったのが気に入らなかったようなのです。Spur Z Roomのかがみさんのところでは、1例のみながら普通に交換しただけの車両が通過したとの情報があり、おまけに、検証していたらR195のSカーブすら曲がることができないとわかって、相当ご機嫌斜め。何しろ、それではR145の単純カーブを推進運転で通れるようになっただけで、普通に交換したものよりも対応範囲が狭いことになってしまうのですから。メルクリン社外品には対応しない車両が存在するので、R145は非対応としてはどうかとの進言もありましたが、それでもやるんだとか…。相変わらず往生際の悪い技術部長です。





研究開発?



 まずは車体のずれる量を検証してみます。R145連続Sカーブにおいては、互いの車両の反対側のバッファの外縁が触れ合うほどずれるようです。R195連続Sカーブの場合は、反対側のバッファ同士がちょうど重なるくらいになります。この位置にカプラーが移動することができなくてはなりません。計算上、R145のときはSHORTタイプカプラーではバッファの縁まで届きません。R195ならばぎりぎり届くようです。バッファを切り取ってしまえば何とでもなるのですが、それでは、車体外観に手を加えずに加工するという当初の目的を達成することができません。バッファは欧州車の証だから残したいのだそうです。マグネマティックカプラー自体が米国式の自動連結器を模しているだけに支離滅裂…。Nゲージ用伸縮式カプラーに似た構造を検討しましたが、伸縮や中立位置への復元など機構上の問題が多く、すぐに破棄されます。バッファの下にカプラーが入り込むか、バッファに当たらないようにカプラーを削るかしなくてはならないとの結論に至ります。
 前者については、首を振ったときだけ下がる機構を検討します。しかし、回転軸を車体内側に傾けるという原理を考えると、カプラーがねじれるように作動することや、曲線と直線との遷移箇所でカプラーの高さが異なってしまうこと、また、開放ピンの調整がやりづらくなったり、作動不良の恐れが高くなることなどが判明し、却下です。カプラー全体を0.5mm少々下げることで、バッファに干渉しなくする案が出来上がります。もっとも、これでは正規カプラー高の車両と連結した場合に、カプラーに斜め方向の力が加わってナックルがずれ、自然開放してしまう可能性が高くなります。
 後者については、カプラーのアームから上を切り取ることになります。R195連続Sカーブの角度ならばナックルの先端はバッファの下に隠れないため、仕様を限定すれば残せるかと思ったのですが、結局相手方のバッファに当たることが判明し、全部切り取らなくてはなりません。連結面間隔が伸びることを承知でMIDタイプのカプラーに交換すれば、先端を残してR195へ対応、もしくは、全て削り取ってR145へ完全対応させることも可能なようです。これらの場合も、カプラーの引っ掛かる範囲が狭くなり、自然解放を起こす恐れがあります。カプラー解放ピンの固定が弱くなることも予想されます。

 どちらの方法をとるにしても、正規の仕様ではなくなってしまいます。これまで規格に合わせてきただけに、この仕様変更はしなくないのですが…。その後もかがみさんとの討議を重ねた結果、少々独自の方式でもよいのでは…との結論が出ます。大体、Spur Z Roomに出入りする運行者で、マグネマティックカプラーを標準化しているところが存在しないようで、このカプラーを使うこと自体、独自方式ともいえる状況。もはや開き直って、カプラーを下げる方法を取ることにしてしまいます。





試験開始



 試験に使用するポケットが必要になるのですが、新製しようとすると時間がかかりすぎます。かといって、製造したのは2個のみ。制御室増設用は、元々改修計画と同様にカプラー高が0.5mm低いので、こちらを先に改修することにします。前項の検証中に負荷をかけすぎて底が抜けたのは社員には内緒。カプラーの作動角が小さかったので、バッファの下に入るまで動くように回転軸を削り込みます。これだけで仕様通りとなります。
 が、削りすぎてカプラーの復元性が無くなってしまいました。これでは正常に連結することができません。カプラースプリングを加工した線バネを補助として加えてみたところ、意外に強すぎて開放動作ができなくなります。これでは使い物になりませんので、回転軸後面を削り込んで中立位置に戻るようにしてやります。押さえ板を留める真鍮フックを取り付けていたのですが、削り込む際に邪魔になったため、引き抜いてしまいました。なくても押さえ板は十分に機能します。それから、ポケット後端の幅が狭く、スプリングの位置が安定していないことが判明したので、台座前縁ごと削り拡げます。これで作動性も元通りです。



 中間部用も試験に供することにします。最初は固定用のネジを緩めて下げてみたのですが、ポケット、押さえ板ともにガタついて、さすがに安定しないので、t0.5mmプラ板をスペーサーとして挟んでおきました。こちらは元々作動範囲が広かったようなので(そのせいで中立復元が安定しなかった可能性あり…)、これで完了です。本当はカプラー解放ピンを再調整しなくてはならないのですが、通過試験にはそれほど影響がなかったのでそのままにしてしまいました。結局、調整が行われたのは、次々項の連結部補強工事のときでした。





運転試験



 早速試験開始です。といっても、R195、R145のSカーブを通してみるだけなのですが。R195については、事前検証どおりにすんなりと通過します。
 一方のR145については、どこまでいけるのか未知数でした。連続Sカーブについては、バッファとカプラーとの位置関係上、元々無理だと分かっているので、ひとまず、間に55mm直線を挟んで試してみます。するとこれは通過できるようです。25mm直線も追って検証しなくては。
 結果に満足して推進運転をしていたところ、あることに気づきます。R145カーブから直線への遷移点において、バッファが引っかかってしまうらしいのです。どうやらカプラーが連結部で相当折れ曲がることができるらしく、そのせいで推進時に連結面間隔が異常に縮んでしまうことが原因のようです。カプラーの作動範囲を拡大したことで発生した問題です。さらに、カーブ外側に激しく突出した状態で直線に入ると、先行車両を押し倒すような力がかかっていることも分かりました。カプラー同士が折れ曲がらないようにする方法も考えなくてはならないようです。





連結部補強


 前項の理由から、カプラー連結部の屈折が発生しないように加工しなくてはなりません。正規高の車両との誤解放対策も立てなくてはなりません。


 カプラー高を下げることが決まった時点で誤解放対策が必要になったので、そちらから先に検討されました。SCOPE CARのときは、機関車側が下にずれる傾向にあったことから、リップのアームに真鍮線を植える方法を取りました。ところが、連結部に引張力がかからなくなるなどしてカプラーが開いた状態になっていると、ストッパーをすり抜けてしまい、用を成さない場合があることが判明します。Silberlingeにマグネマティックカプラーを装備した際にも同様の現象があったことから、このときはナックル側に取り付ける方法を検討しました。このときはナックルの下を塞ぐようにしたものの、あまりに引っかかる範囲が少なすぎて効果がありませんでした。今回は、取り付け位置はそのままに、相手方のナックル下まで伸ばすことにします。しかし、まっすぐ取り付けてしまうと、相手にも同じストッパーが付いている場合に干渉してしまいます。そこで、一度枕木方向に伸ばした後、線路方向に曲げて支えることにします。これはあとで作ることにしましょう。



 一方の屈折防止策については、少々難航しました。初期の案として、日本でよく使用される密着式自動連結器を参考にする方法でした。何らかの方法で連結状態を拘束することができれば屈折することはありません。ただ、そこまで強固に連結してしまうと、自動解放を行うことができなくなってしまいます。よってこの案は破棄されます。続いて、こちらも日本でよく使用される電気連結器を参考にしたものを考えます。カプラー下面にプラ板か真鍮線でストッパーを作るというものです。これなら安定しそうなのですが、前述の誤解放防止ストッパーに干渉してしまうことが発覚。またも破棄することになります。どうしたものか…。密着式自動連結器はぁ、ナックル外側のポケットにリップが入りこんでぇ、そこでがっちり固定されるからぁ…。…、リップを押さえてやればいいのか…? というわけで、ナックルの外側にリップ押さえを取り付けてみることにします。



 連結状態でリップが最大に開く量を考慮すると、ストッパーの幅は2mm前後必要になりそうです。真鍮線でフック状のものを作ろうかと思ったのですが、上下にずれた場合に外れてしまうことが予想されるため、プラ板で作ることにします。0.5mmプラ板から切り出し、断面に補強用真鍮線を挿す0.4mm径の穴を開けておきます。まずは制御室増設用に取り付けてみます。最初はナックル側面から斜め前方に向けて取り付ける方法を試したのですが、これでは早くからリップに干渉して連結することができなくなることが発覚したため、少し位置を後退させ、真横に突き出す方法にします。補強用真鍮線は、ナックル側面にではなく、ナックルアーム裏の開放ピン(正確にはその周りを囲むリップアーム)とナックル後端との間の隙間に0.4mm径の穴を開けて挿し込みます。早速、このストッパーがカーブ内側になるようにして試してみたところ、推進運転でも連結部分から折れ曲がることなく通過します。ストッパーの幅は適当に切り出したため4mm弱もありましたが、半分くらいでよいようです。スパッと切り詰めてしまいました。中間部用も加工します。その前に、放っていたカプラー解放ピンを再調整しておきました。ストッパーの幅は2mm弱としてみます。今度は、ストッパーの位置は変えずに、補強用真鍮線をナックル側面から打ち込みました。



 互いを向かい合わせて連結開放動作を行ってみます。ストッパーを取り付けても、動作に支障はないようです。カーブの通過も安定しました。ただの当て板になっているのですが、わざわざポケットにする必要性も無いようなので、以降の量産品にもこれを取り付けることにします。とうとう連結器が日本型になってしまいました…。





 社員には内緒の話。実は、制御室増設用を加工しているとき、カプラーに側面からの力をかけすぎて、カプラー回転軸を折ってしまいました。幸い、根元の接着が取れただけなのですぐに復旧しましたが、再調整が必要になったり、しばらく本線に復帰できなくなるのではないかと冷や汗をかきました。続いて中間部用に真鍮線を挿し込む穴を開けていたとき、ドリルがカプラー開放ピンを掠めてしまったらしく、ピンの位置がずれてしまいました。ピンの頭と取付穴上端とを揃えればよいようにしてあったのは幸いでした。さらに、加工中にカプラーピンを押さえてしまったらしく、根元から少し内側に傾いてしまいました。おまけに、ストッパーを接着した際に、リップアームもろとも固定してしまったようでした。しばらく自動開放がうまくいかず、これらの原因が分かるまで10分は費やしてしまいました。
 技術部のみなさん、車両加工の際は、面倒でも加工部位を取り外してから作業しましょう。