ペンデルツークの前頭カプラー増設






初期試作



 当車両工場の加工技術は、なぜか唐突に出来上がるという不思議なものばかりです。まったく、技師長が思いつきであれこれ手を出すために必要性の有無の考証も無く着手されるものが大半です。
 いつの間にか、工場の片隅でこんな小物が製造されていたのです。

 いったいこれでどうしようというのやら…。




カプラー台座



 実はこれ、普通列車のペンデルツークとして量産されたSilberlingeの2等・荷物制御客車に取り付けるカプラー台座です。メルクリンではプッシュプル運転を前提としてか、全てのペンデルツーク制御客車で制御室側にはカプラーを設けていません。まあ、普通はプッシュプル運転で楽しむ車両なのですが、実車においては、必ずしも推進運転を行うわけではないのです。機回しができる場合はしているそうです。推進運転機能を持たない機関車がプッシュプル運転を必要とする運用に入る場合には、編成の両端に機関車を連結するのだとか。この時点で当鉄道には推進運転機能を備えた機関車が1両しか存在せず、それも別の運用に就いているために牽引させることができません。ならばというわけで製造を検討し始めたのです。




基本設計



 まずはカプラーの位置を決めなくてはなりません。一般の連結面におけるバッファとカプラーとの位置関係から検討した結果、カプラー回転軸を台枠前端部直下に設けることで、前後上下の位置関係がほぼ同じになることが分かりました。丁度その位置には、実車の連結器台座を模したと思われる出っ張りがあり、これがカプラー回転軸として丁度良い大きさ(高さは除く)のようです。方針が決まると、早速この位置でカプラーを固定するための台座を設計します。
 台座の寸法は、一般的なカプラーポケットのサイズを参考にします。奥行きだけは詰めなくてはなりませんでした。台枠前端がかなり後退しているために、台車までの間隔がかなり狭く、カプラー後端から4mmしか余裕が無かったのです。数日間は机上で計画を練るばかりでしたが、まずは作ってみようと一念発起、即席でカプラーポケットが出来上がります。カプラー回転軸はコの字型に曲げた真鍮線です。床下に取り付けるための基台を取り付け、早速車体に取り付けてみます。着脱することが予想されたのと、将来車両を譲渡することも考えられるため、ゴム系接着剤で固定することにしました。



運転試験


 実際に線路に乗せ、機関車に牽引させてみたところ、カプラーが上下に振れてしまい、全く牽引することができません。開放マグネットの上では、下向きに引っ張られて調子が良くありません。そこで、上下動を抑えるための押さえ板をちょいちょいと切り出して取り付けます。これがまた曲者です。取り付けたあとは、カプラーの動きが全く良くないのです。元々カプラー取り付け部に多少上下の隙間があったので、問題ないと思っていたのですが、どうやら空間不足だったようです。カプラー位置も少々高すぎる感があったので、基台の厚みを増やして隙間を広げます。ちょっと広くなりすぎる気がしたのですが、取り付け直前にポケット部分が分解してしまい、再接着した際の圧着で少々高さが減ったので、丁度良くなったようです。
 それでもカプラーの状態が安定しません。上下のズレは抑えることができても、開放のための首振りが全くできないのです。ポケット内部にカプラーと干渉する部分が見つかったので削りこんで対処します。何度か削って干渉は取れましたが、まだ動きが良くありません。カプラースプリングの圧力が強すぎることも考えられたため、短く切ったものも用意してみますが、殆ど差はないようです。今度は押さえ板を薄く削って何度か試しますが、確率論的な動作精度です…。開放に一発で成功しても、遅延開放動作が全くできていないことが殆どです。カプラー回転軸を作り直してみたりもしますが、それでもダメです。とうとう、押さえ板がぺらぺらになってしまい、上下の押さえすら利かなくなってしまいました。どうしたものか…。

※あまりに調子が悪いのが気に入らず、写真も撮らずに解体してしまいました…。




大改装



 どうにも作動性が良くならないので、もう一度ポケット部分を再構築してみます。カプラー位置が若干高くなっていることが判明したので、底板を少し残して切り取り、新しい底板を張り重ねます。底板の突き出しがカプラー回転軸で終わっていたことが縦方向の安定性を欠く原因と考えられたため、見た目は良くないのですが、突出量を多くしてカプラー後部全体を受けるようにしました。回転軸も、真鍮線の加工品をやめ、メルクリン製のものを模して2mmプラ丸棒から削り出した半円柱型のものにしました。後端に真鍮線を植えてカプラーの首振りを容易にするとともに、上端を曲げて押さえ板の固定も兼ねさせます。押さえ板も底板に合わせて大型化しました。(中央の写真で右が前項の押さえ板、左が今回のものです)おかげでずいぶん目立つようになってしまいましたが、作動性は大きく改善されることが期待されます。




もう一度運転試験



 再び線路に乗せて試験を行います。新しい構造にした甲斐あって、動きはやや渋いものの、確実に作動するようになりました。遅延開放も殆ど失敗することはありません。時々スプリングの位置がずれるのか、カプラー中立位置が変わってしまうのは何とかしなくてはなりません。

 おっと、またR145カーブの通過試験をしていませんでした。乗せてみたところ、可動範囲が狭いために通過することができません。一度台座を取り外して回転軸を削り込みます。今度は大丈夫。同時にカプラーが動きやすくなったようで、開放動作が確実になりました。先頭に立ってマグネット上を通過すると、用も無いのにカプラーがピコピコ振れています。そういや、カプラースプリングの固定をし忘れましたね。プラ板でポケット後端部の内幅を詰めておきます。ついでにやたらと目立つ突出部分を切り詰めてみました。これで見かけも大分良くなりました。




長さの調整と取り付け方法の変更



 以前のカプラーポケット改装で、カプラー回転軸がわずかに前進していました。制御室側はバッファが突き出ていることもあって、機関車次位に連結すると連結面間隔の広さが目立ちます。そこで、デッドストックになっていたSHORTタイプのマグネマティックカプラーに換装してみます。これで他の車両と間隔が揃いました。R145の通過も問題ありません。

 換装のために接着していた台座を取り外したので、ついでにもう一つ加工しておきます。もはや他人に譲渡することもなかろうと、台座をネジ止めにしてしまいます。ゴム系接着剤はプラスチックへの攻撃性が少なく、将来的に取り外すことが想定される場合には最適です。車体への影響はまったくなかったのですが、どうもプラ板とは相性が良すぎるようです。外すたびに完全に食いついたゴム系接着剤を除去しなくてはならず、これが結構な手間となっていました。
 台座の両端と、それに合わせて床板前端に開孔し、M1.4X2mmの精密皿ネジで固定しました。開孔する際に台座の強度が不足したため、後端にt0.5mmプラ板を貼り足しました。これで着脱自在になり、調整も簡単になりました。





 今後は、制御室床下の欠損部分追加とディテールアップとを予定しています。
 あとは、マグネマティックカプラーを装着した長尺客車がR145を通過することができるように、量産可能なボディマウント台座を設計しなくてはなりません。レジンで量産できる構造にするには…。(※今回製作したものは量産を前提にしておらず、レジンコピー不可です)