せま
 狭く薄暗い掃除用具室の中で舞は、あの3人組と喧嘩になった後、家に帰ってから千歳

に言われた言葉を思い出していた。




        ごう
「まーくん、『業』って聞いたことある?」

「ごう?何?」
              
なりわい ぎょう
「『業』って言うのはね、生業の業って書いて、『良くも悪くも、自分の身に起こった出来事

は、全て自分の過去の行いに基いている』っていうような考え方なんだけど。……まーくん

今日は何をした?」



「……喧嘩」



「僕はね、別に喧嘩が全て悪いって言ってる訳じゃないんだよ?ただ、人の恨みを買うって
                 
つな
いう事は、後々どんな災難に繋がるか分からない…、っていう事をちゃんと認識した上で、

喧嘩をするべき場面を選んでほしいと思ってる」

「……うん」

「今日の喧嘩は、本当にする必要があった?」

 舞は、黙って首を横に振った。

「そうだね」



「ごめん…、ちーちゃん……」

 泣き出しそうな声を出した舞に、千歳は優しく頭を撫ぜて微笑んだ。

「わかってくれれば良いんだよ。僕もまーくんに何かあったら悲しいし、無茶な事しないで

ね?」





                                                   はちあ
(ホントに、ちーちゃんの言う通りだ……。俺があの時手ぇ出してなかったら、トイレで鉢合

わせしたって、きっとちょっとムカツク事言われるくらいで終わってた…)

 重い気分で、ハアと大きく溜め息をつく。

(ちーちゃん、ごめん…。俺ってやっぱり、ガキで役立たずみたい……)
           うつ
 舞はぼんやりと虚ろな目で、休み時間終了の本鈴を聞いていた。








 千歳はテスト用紙の束を抱えて、一年A組の扉を開けた。しかしすぐに窓側2列目、一番

後ろの席に、そこに居るべき人物・二階堂舞の姿が無い事に気付く。

(……え?まーくんは……?)

 今朝は一緒にマンションを出て、学校の玄関で別れたのだから、学校に来ているのは確

かなはずだ。もしかしたら、途中で体調が悪くなって保健室にでも居るのだろうか…。

(まーくん、あんなに頑張って勉強してたのに……)

 もしかしたら具合の悪い体で、保健室でテストを受ける事になるのであろうか…。心配で

たまらないが、親戚だからといって舞だけ特別扱いする訳にはいかない。千歳は何食わぬ
       よそお
顔で平静を装い、テスト用紙を配った。



「先生」



 その時、一人の生徒が立ち上がった。

「弘……、真壁君。どうしましたか?」

「トイレに行って来ても良いですか?」
                                               さと
 弘人の真剣な目に、どうやら舞は保健室に行っている訳ではないらしい事を悟る。



「わかりました。早く戻ってきて下さいね」

「はいっ」
                           すで
 弘人は、返事をする間も惜しむように、もう既に廊下に向かって走り出していた。



(弘人君…、おねがいするね)

 千歳は、祈るような気持ちで弘人の背中を見送った。




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Fallin'

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