「舞!!」
                                         ひざ
 バタン!と、扉が勢いよく開く音と共に聞こえてた耳慣れた声に、両膝の上におでこを
         うなだ
乗せた姿勢で項垂れていた舞は、驚いて顔を上げた。

「弘人!?」



「!」

 舞の声を聞いた弘人は、掃除用具室の鍵を開け、急いで扉を開ける。…一瞬キツネに
             おちい                              
つままれた様な気分に陥るが、すぐに視線を下に向けると、手足をベルトで締められ、捨て

られた子犬のような顔で自分を見上げている舞と目が合った。


                           ため
(クッ…、なんて刺激的な……!俺の理性を試しているのかっ?)

「助かったぁ〜」

 弘人の心情など全く知らない舞は、心底安心している。



「……誰にやられたかは後だ。もうテスト始まってるから、急いで戻ろう」
 ぼんのう
 煩悩を押さえて、素早く舞の手足を拘束しているベルトを外した弘人は、ふと気が付いて

問い掛けた。

「……このベルトって、…もしかして舞の…じゃないよね?」

「え?ああ、俺の」



ベルトを外されたのかっ!?



「えっ!?」

「何もされていないだろうな!?どっ、どこか触られたりっ…!!」
                                                  ぎょうそう
 普段冷静な弘人に両肩を掴んで問い詰められ、舞は思わず後ずさった。必死の形相が

怖い…。

「ちょっ、お…、落ち着け!なにもされてない!手足縛られただけっ。その為のベルト!わ

かった?」

「…本当に……?」

 舞の言葉にちょっとは落ち着きを取り戻したものの、まだ心配そうな顔をしている弘人に

「ホントだって」と笑って、右手で弘人の左肩をポンポン撫ぜた。



「舞……」

 弘人は大切な宝物を扱うように、舞を優しく抱きしめた。

「なんか…、また迷惑かけちゃったみたいで、ゴメンな」

「構わないよ。心配したけど、迷惑なんかじゃない。……さっ、もう戻ろう」

 出来れば、いつまでもこうして抱きしめていたいが、今は時間が無い。



「あ、でももう少し落ち着くまで休んでから行こうか?」
                  づか
 何事かあったであろう舞を気遣って提案するが、舞は「いや」と首を振った。
      むし
「なんか、寧ろ変な緊張が取れて落ち着いてる。行こうぜ?」

 言葉通り、妙にスッキリした顔をしている舞の姿に、弘人もクスリと笑みをこぼす。



「そうか…、じゃあ行こう。……舞のベルトを外した犯人については、後でゆっくり聞かせて

もらうよ」
          こだわ
「(やけにベルトに拘るな…;)つっても俺、あいつ等の名前知らねーし……」

「(あいつ等?…複数犯か)顔は憶えてるだろう?」

「うん…、まあ」

「それで充分だよ…。舞は自分が見聞きした奴等の情報を、俺に教えてくれればいい」


                               おかん
 心なしか黒い笑顔でそう言う弘人に、舞はヒヤリと悪寒を感じた。



(弘人って……、時々ホントに………いや、やめておこう)

 ヘタな事を考えると、心まで読まれていそうで怖い;









 その日の放課後、便器に顔を突っ込んだ形で気を失っている4人の1年生の姿が、用務

員の手によって発見されたとか、されなかったとか……。




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Fallin'

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