今日は、とうとうテスト結果が明らかになる。
                                         あきら
 4人組によってトイレに閉じ込められた時には、もう駄目かと本気で諦めそうになってしま
     さいわ                                             はず
ったが、幸いすぐに弘人が駆けつけてくれた為に、それ程のハンデにはならなかった…筈

だ。

 舞は、千歳が一人々々の名前を読み上げテストを返していく声を、緊張の面持ちで聞い

ていた。



「二階堂舞君」

「はっ、はい!」

 勢いよく立ち上がり、返事をした舞に、千歳はクスリと微笑をもらす。

 緊張した足取りで自分の前に立った舞に、ニッコリ笑ってテスト用紙を差し出した。



「…おめでとう」

「……え?」

 その言葉に、慌てて受け取った用紙を確認すると…。



「……あ…」



「舞君は100点です。…頑張っていた姿を、先生も知っています」

 千歳の言葉に、クラス中が「オオーッ」と歓声を上げる。弘人もホッと胸をなで下ろした。

「ちーちゃん……」

 舞の目にみるみる涙がたまっていくのを見て、千歳は特別扱いはいけないと思いつつも、

ついついヨシヨシと頭を撫ぜてしまう。



「やったな、舞ちゃん!これでご褒美ゲット!!」

「っば、バカッ!」
                       とびと
 舞は、大声でご褒美の事を口にした飛鳥を慌てて止めに入るが、当然もう千歳には聞こ

えている。



(ご褒美…?)

 しかし、まさか自分に関りのある事だとは思っていない千歳は、きっと弘人とでも何か約

束したのだろうとしか思わなかった。

「やけに頑張ってると思ってたら、そういう事だったんだね」

「う……」
                         すご
「でも、目的はどうあれ100点取れたのは凄いよ。おめでとう」

「………」

 笑顔で「おめでとう」を言う千歳に、さすがに罪悪感を隠し切れない舞だった。









「なんか…、いざ こうなっちゃうと、どうしていいか分かんなくなってきた……」

 その日の放課後、二人きりとなった教室で、舞は弘人にこぼした。
 きさき
 后の出した案は、100点を取れたら別れる≠ナはなく願いを聞き入れる≠セ。つま

りは、「他の愛人≠ネらぬ情夫≠ニ別れて、千歳一人を大切にするように」と告げる事

も出来る…、という事だ。

 舞は今、千歳にとって一体どちらが幸せなのか選びかねていた。もちろん、舞の気持ちと

しては別れさせたいのは当然なのだが、千歳の方には別れる気持ちは無いようで、何より

も、誰に強制されるでもなく千歳自身の意思によって、この12年間后の情夫として寄り添っ

てきた現実がある。


                             あいつ
「もし、ちーちゃんと別れてくれって言ったらさ…、后きっと、俺との間の話は教えないで、一

方的にちーちゃんを…切り捨てるっていうか…。ちーちゃん、訳わかんないままだと思うん

だよな……」

 訳も分からず別れを告げられた千歳が、どれだけ悲しむか……。あの繊細な人が悲しむ

様など見たくはない。



(なるほどね……)
                                      みこ
 もしかしたら后は最初から、舞がこういう壁にぶち当たる事を見越して、わざとこの様な提

案をしたのかも知れない。やっぱり食えない人だな…と弘人は思う。




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Fallin'

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