「ち…ちーちゃん……」



(あーあ、よりによってちーちゃんに見られちゃったか)
        ゆいいつ
 三人の中で唯一冷静な弘人は、顔を真っ赤にしてうろたえている舞の姿を観察していた。
ぎおん 
擬音を付けるなら、まさに「オロオロ」といった所だろうか。頼りない瞳が、これまた可愛い。

(舞…、そんな可愛い顔してたら、ちーちゃんの前で食べちゃうよ?)

 ……ある意味、彼が一番壊れているのかも知れない…。



「ちがっ…、ちーちゃん、これは違うから!」

「違う…、って言われても……」

 頬を真っ赤に染めて必死で言いつくろう舞の姿に、千歳は苦笑いで首を傾げた。

「だからっ、…その、詳しくは言えないけど…、ご褒美……?あれ?罰ゲーム…ってゆーの

も違うし……。…っと、とにかくゼッッタイ違うから!!変な意味じゃないから!!」

 言いながら、弘人は「ご褒美に」と言ったが、なぜご褒美でキスなのか?どう説明すれば

良いのか?ワケがわからなくなってくる。



「ま…、まーくん落ち着いて。そんなに力いっぱい否定したら、弘人君に失礼だよ」

「え?」

「僕には二人を反対するつもりも資格もないし、気にしなくて良いよ。ただ、こういう誰に見ら

れるか分からない所では、もう少し気を付けてほしいかな?」

「へ?」

「じゃあ、教室出る時に電気消してね?」

「あ、…うん」



「……え?」
                     しば
 舞は千歳が消えて行ったドアを、暫し呆然と見つめていた。

「えぇ…と、弘人?」

「ん?」

「アレって、もしかして完全に誤解…されてたりなんか……、するかな?」

「うん。そうだね。完全に」

 一言一言区切るようにハッキリと肯定した弘人に、舞の顔が情けなく歪む。

「やっぱりかっ……」

 机に両手をついて打ちひしがれる舞を横目に、弘人はニコニコと楽しそうに笑っていた。









 はぁ……。

 職員室の自分の席に戻った千歳は、小さく溜め息をついた。

(まーくん…、いつの間に弘人君と……)

 そういえば、弘人は昔から舞のことが好きだったのを思い出す。これは弘人自身も忘れ

ている事だが、弘人は幼稚園の頃、舞をお嫁さんにしたいと千歳に申し出た事があったの

だ。

(あの時僕、何て答えたんだっけ……)

 多分、それなりに常識的な大人の対応をしたのだろうが、なんとなく複雑な気持ちになっ

たのを憶えている。

(娘を嫁にやる父親の気持ちってやつ?あ、違う、息子を嫁に…、…アレ?;)
                        きさき
 しかし、そこでフと気が付く。もし仮に、后が今高校生だとして、舞が昔の自分のように后

に惹かれ、彼の情夫になる道を選んだとしたら…。今の舞のように自分は反対しないだろう

か?



 反対するに決まっている。


                                                  ちあき
 千歳が小学校6年生の時に亡くなってしまった、千歳の兄であり舞の父親である千秋に

「舞のことを頼む」と言われている立場上、今の舞以上に猛反対するだろう。



(僕も、まーくんにそれだけ心配させてるって事だよね……)

 千歳はもう一度溜め息をつき、机の上を見るともなしに見つめた。



(少し……、考えた方が良いのかも知れない)




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Fallin'

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