「ちーちゃんっ!」

「うわっ…」
                          におう
 ガチャッっと玄関のドアを開けると、舞が仁王立ちで待ち構えていた。

「ど…、どうしたのまーくん…」

「ホントに誤解だから!弘人とはなんでもないっ。マジでただの友達!」

 どうやら、これを言いたくてずっとドアの前で待っていたらしい。



「…ただの友達…って、……あんなに熱烈にキスしてたのに…?」

 「まーくん、目うるんでたよ?」と靴を脱ぎながら言いリビングへ向かうと、顔を真っ赤にし

た舞が反論しながら後ろを付いて来た。

「あっ…あれはっ!弘人が……っ。…って、その…最近弘人の世話になる事が多くて…、な

んつーか、お礼で…」

「ただの友達に、お礼でキスするの?」

 幼稚園の頃、舞と弘人がよくキスをしていたのは千歳も知っているが、友達同士では普通

しないと教えてからはしなくなっていた筈だ。



 横目でチラリと見ながら言われ、ウッと言葉に詰まる。

(やっぱり、そう来るよな…)


                                                 づか
「俺もよく分かんないけど…。多分、俺が気を使わないようにっていう弘人なりの気遣い…な

のかな?たかがキス一つでも、お礼としてせがまれれば、それでプラマイ・ゼロになる訳だ

し…」

 その言葉に、千歳がピクリと反応する。



「たかがキス?…じゃあ、まーくんはお礼としてせがまれれば誰とでもキスするの?」

「そういう訳じゃないけど……」

「じゃあ、弘人君だからするんでしょ?それって、ただの友達なの?まーくんは弘人君が好

きなんじゃないの?」

そんな訳ねーだろ!!

 部屋中にビリビリと響くような声で怒鳴られ、千歳はビクッと舞を見据えた。その表情か

ら、本気で怒っている事がわかる。

「……ごめん」

「あ…いや、……俺、弘人じゃなくて…他にすごく好きな人がいるんだ。…だから……」

「…っ、そっか……ごめん」

 二人の間に、気まずい沈黙が落ちる。



「あ〜あ」

 重い沈黙を破って千歳がわざと明るく声を発した。

「僕って駄目な叔父さんだね。やっぱり自分が良い恋愛してないから、こういう話は上手く

いかないのかな?」

 冗談めかして言われたセリフに、舞が真剣な顔で問い掛けた。
                     きさき
「ちーちゃん…、それって自分でも后との関係は良くないって思ってる…。って事だよね?」

「っ……」

 舞は、図星をつかれた様に黙り込んだ千歳の肩を掴み、詰め寄った。



「ちーちゃん。真剣によく考えて答えてほしい。……もし、理事長に他の情夫との関係を切ら
                  あとくさ
せて恋人になれるのと、何の後腐れも無く別れられるのと、どっちか好きな方を選べるとし

たら…どっちが良い?」



「……え?」




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Fallin'

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