「まーくん、何言ってるの…?」

 「もしも」と言う割には妙に真剣な瞳で問い掛けてくる舞の様子に、千歳は不審さを禁じえ

ない。

「いいから、答えてよ」

「よくないよ。なんでそんな事訊くの?まーくん、なんか変だよ」



「……――るから……」

「え?」



「実現…出来るから……」

「……え…、何……?」

 訳がわからないという様子で訊き返してくる千歳に、舞は全てを話す決意を固めた。ここ

まで来たら話すより他無いだろう。









「何…それ。……っ最低」
 きさき                                       あらわ
 后と舞との間で交されていた約束を聞いた千歳の表情は、不快感を露にしていた。吐き

捨てるように言われた言葉に、怒られるかも知れないとは思っていたが、ここまでの反応を

予想していなかった舞は戸惑っていた。

「ちーちゃん、俺…――」

「僕は何も知らないよ……。まーくんからも、后さんからも何も聞かされてない。…僕の事な

のになんにも知らされてないよっ?なんで?なんでそんな事勝手に決めるの?なんで僕の

気持ちを考えてくれないのっ?酷いよっ!……まーくんだけは、僕の事ちゃんと考えてくれ

てると思ってたのに……っ」

「!!」

 千歳の言葉に、舞は後頭部を思い切り殴られたような衝撃を受けた。千歳の上気した頬
                                          うかが
を伝う涙にも、自分の行動がどれ程千歳の心を傷つけてしまったかが窺える。

 后の事ではない…。千歳の気持ちを無視して話を進めてしまったという事実が、知らぬ間

に千歳の舞に対する信頼を裏切る事になっていたのだ。

 「まーくんだけは」……この言葉の重さが舞の胸を強く絞めつけた。



「ちーちゃんゴメン…!俺…、そんなつもりじゃなくて……ちーちゃんの事大切だから、…だ

から幸せになってほしくて……。でもちーちゃん、あいつと居ても全然幸せそうに見えない

し…!…俺……」

「その話はやめて……」

「ちーちゃん…」



 まただ……。

「…僕はどっちも選ばない。別れないし、恋人にもならない。…后さんに変な負担をかける

のは、もうやめて」

「なんでだよ!あっちから言い出した事なんだぞ!ちーちゃんは好きな方選んで良いんだよ

っ!!」

 全てを拒絶するかのようなその態度に、舞の声も荒くなる。しかし、千歳の態度は変わら

なかった。

「もういいよ、もうこの話はこれでおしまい。…おやすみ」



 そう言って逃げるように背を向けた千歳に、舞の胸にもモヤモヤとした怒りが湧き起こ
                                                    けねん
る。また、ここで逃げられたら本当にもうこの話を出来る機会は無くなってしまうという懸念

もあった。



「待てよ」

 自室のドアに手をかけた千歳の腕を、舞が強く掴んで引きとめた。

「なんで逃げんだよ。ちーちゃん、いっつもアイツの話になると変になるよな。…なんか隠し

てんのか?」

「……っ」
                       おど
「まさか…、アイツに弱みでも握られて脅されてんじゃないだろうな?」




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Fallin'

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