一階の居間では、親戚の大人達がアルバムを囲んで時折涙を交えながら語り合ってい

る。舞の父が死んだ≠フだ、と皆が言っていた。



(しぬ≠チてなんだろう…?おとうさんは、これからどうなるの……?)

 まだ3歳になったばかりの舞には、死≠ニいうものが何なのか、まだよく分からなかっ

た。ただ、泣き叫ぶ母や沈痛な面持ちの大人達の様子から、なにか良くない事が起こった

事だけは感じられる。




(ちーちゃん……)

 明らかにいつもとは違う家の雰囲気に心細くなった舞は、千歳の姿を探して二階に辿り着

いた。千歳の部屋の前に立ってみるが、物音などは一切聞こえてこない。…ここにも居ない

のだろうか?

 コンコンと、小さな手でノックをしてみるが、返事は無い。
                                                
うかが
 思い切って部屋のドアを開けると、明かりは点いていなかった。しかしよく様子を窺ってみ

ると、暗闇の中から静かにすすり泣く声が聞こえる。




「ちーちゃん…?」
           わず
 暗い部屋の中で僅かに動く人影に恐る々々声をかけてみると、ピクリと反応を示した。

「…っまーくん……」

 振り向いた千歳の顔は涙に濡れていた。



「まー…く…うぅ…っ」

「ちーちゃんっ」

 思わず手を伸ばした舞の、小さな体にすがり付いてきた千歳を必死で抱きしめると、すが
                                
どうこく
るものを見つけた安心感からか、すすり泣きが激しい慟哭に変わった。


                    
すで
 6歳で千歳が両親を亡くした時、既に結婚して家庭を持っていた兄の千秋は、それでも自

分の家に千歳を引き取り、心からの愛情を注いでくれた。
                             
 かけが
 千歳にとって兄・千秋は兄であり父親でもある、掛替えの無い存在だった。



「ちーちゃんっ…、なかないで?…だいじょうぶだよ。だいじょうぶだから…」

「独りにしないで…っ嫌だよ…、おいてかないでっ……」

「おいてかないよ?ちーちゃんのそばにいるから、ずっといっしょだよ」

 気が触れたように必死ですがり付くいてくる千歳の体を、舞はその小さな体で懸命に支え

た。




 千歳が泣き疲れて眠りにつくまで……。









「…ん……」

 千歳が目覚めると、自室のベッドの上だった。

 どうやらまた昔ように泣き疲れて眠ってしまった自分を、今回は舞の手によってここに運

ばれたらしい。子供の頃の舞は、当然千歳の体をベッドまで運ぶ事は出来ず、気が付くと

二人で抱き合うように床で眠っていたのだが……。

(僕…成長してないな……。また、まーくんに心配させちゃって…)

 しかも、今回自分は何をしただろう…。逆上して大切な舞の頬をぶってしまった。
                            た ち
 成長していないどころか、歳を取って余計に性質が悪くなった気さえする。



はあ……
        おお                        かかわ
 片手で顔を覆い溜め息をつくと、あれだけ泣いたにも拘らず頬にベタつきが全く無い事に

気がつく。…舞が綺麗に拭いてくれたとしか考えられない。



「まーくん……」
                            にじ
 子供の頃から変わらない舞の優しさに、涙が滲む。



 時計を確認すると、23時を回っていた。…舞はまだ起きているだろうか?

 千歳は静かにベッドを降りると、部屋を後にした。




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Fallin'

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