You are my
reason
to be

19


「うあ、また慶介に負けた…」
「出流は教科によって差が激しいからな」
「二人ともレベル高すぎ…」
 出流と慶介は、職員室前の廊下に貼り出された期末テストの結果を見に来ていた。
 1番の慶介と2番につけた出流の会話に、隣で聞いていた日高は「俺なんか…」と肩をおとす。
「気を落とすな日高、お前は性格が良い。大丈夫だ」
「何その慰め!?」
「はははは」

「なーにこんな所で盛り上がってるの?」
「あ、椎名」
「どれどれ、上位二人は相変わらずだな。俺は…っと、7番!微妙!」
(7番で微妙とか言ってる…)
 下から数えた方が早い日高には、もう言葉もなかった…。椎名は「ラッキーセブンだから良いか?」などとワケの分からない事を言って いるが、日高は(ラッキーセブンもなにも、その順位が羨ましいよ…)と、遠くを見る目で順位表を見つめるのであった…。







「西原っ」
 出流が一人で廊下を歩いていると、後ろから声が掛かった。数学教師の片桐だ。片桐は30代前半の男性教師で、授業内容も分かり易く、性格も温厚なため生徒からもそこそこ人気のある教員だった。

「テストはどうだった?」
「ああ、駄目。2番だった」
「ははは、2番で『駄目』か。トップはまた志村だったな」
「まぁネ。俺、教科によってムラがあるからさ」
「数学はほぼパーフェクトだったもんな」
 そうなのだ。数学では出流は、1問2点の問題を1つ間違えただけで、慶介に10点もの差をつけてトップだったのだが…。
(慶介ってあれだけボーっとしてて、オールマイティに勉強はできるんだからなぁ…)

「ところで…、西原は格闘技とか観たりするか?」
「え?うん。まぁそれなりに観る…けど?」
「実は今日、近くで格闘技イベントがあるんだけど、一緒に行くはずだった友達が行けなくなったんだ。数学トップのご褒美…というのも何だけど…、一緒に観に行くか?」
「え?ホントに?じゃあ行く」
「他の奴には内緒だぞ」
 チケット2枚しかないんだから、と片桐は笑顔で去って行った。

(なんか取って付けたような理由だったけど、片桐先生『結婚間近かっ』って彼女もいるらしいし、別に大丈夫だよな)


………

慶介にだけでも
言っておこうかな

(って、慶介にだけ言っておく理由をなんて言うんだよっ。
 自意識過剰だと思われちゃうだろっ)

 そもそも、言っておいたからってどうなるもんでもないよな、と思い至り、結局黙っておくことにした。







「どうだった、西原?面白かったか?」
 イベントが終わると、もう完全に日が暮れていた。会場の雰囲気に圧倒された出流は、帰りの車の中でもまだ半ば放心状態だった。
「かっこ良かったよ…」
 はぁ、と溜め息混じりに返事を返す。
(俺もあの人たちの半分でも強かったら、慶介を守ってやれるのかなぁ…。…なんて)

 と、車が静かに止まった。異変に気づいた出流が外を見回すが、住宅街というよりは林道に近いこの道は、信号もなければ寄るような店もない人気のない路地で、止まるような用事があるとは思えない。

「西原…
 キスしていいか?」


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