「あけましておめでとう、慶介」

「あけましておめでとう」



 出流と慶介は、寮の自室で二人きりの年明けを迎えていた。

 いつも家での大晦日では見ない、赤組と白組に分かれた歌番組を見て、出来あいだが、

ちょっと豪華なオードブルを買ってきて食べる…。標準よりも多分、質素で、そしてありきた

りな年明け。

 それでも二人にとっては、記憶にあるかぎりの、今までで一番幸せな、1年の始まりだっ

た。



 コツンと、出流は隣に座る慶介の肩口に頭を預け、目を閉じた。
        ひと
「慶介って、他人より体温高いよなぁ…」

「そうか?」



「うん。あったかい」

 出流は、心地いい温もりに、スリっと猫のように頭を擦り付ける。

 そんな姿に、いとおし気に目を細めた慶介は、体勢を変えて、ぎゅっと両腕で出流を強く

抱きしめた。

(おっ)

 予想外の反応に、感動を覚える。

 先日は、ちょっと強引に身体を重ねてしまったが、こういう変化があるなら、やっぱり

やって良かったかも知れない…と、出流はこっそりほくそ笑んだ。



(慶介め、俺にすっかりメロメロだな。俺だってお前にメロメロなんだから、おあいこだ!)

 などとアホな事を考えているとは、おくびにも出さない出流であった。


      ぬく
「う〜ん、温〜い」




こんなふうに他人に甘えるのは

初めてかも知れない



…考えてみたら俺は

物心ついてから、実の親にすら

全身で甘えた覚えがない









いつのまにか

俺の言動で父さんが不機嫌にならないように

無意識に気を使うようになってたんだな









こうやって全てを預けてしまえる事が

こんなに気持ち良いなんて知らなかった



この世にこんなに愛しい温もりがあるなんて知らなかった









自分が、こんなふうになるなんて

考えもしなかったな…









「出流、父さんはもう寝るからな。お前ももう寝なさい」

「あっ、待って。宿題でわからない所があるんだけどっ…」

「わからない所は、別に空白でも怒られないだろう。

 …疲れてるんだ」



「待ってよっ、一問だけだから!ねーえ、父さんっ」



うるさい!いい加減にしないかっ!



バタンッ



「……っ」


なんで…

なんでなんにも聞いてくれないんだよ…



  閉じられたのは、扉だけじゃない気がした



「か……」



「母さんのかわりに、父さんが死ねば良かったんだ!!」



ガチャッ

バシンッ!




ごめん……



ごめん、父さん





あんなこと

本気で思ってたわけじゃない…









「親に怒られた」とか

「殴られた」とか

他人に話せる奴が、羨ましかった



俺も誰かに言ってしまえたなら



少しは楽になれたんだろうか…









でも、言えなかったのは



言っちゃいけない事のような気がしてたから…



俺を殴ったり、感情的に怒鳴りつけた後はいつも





後悔してるの感じてたから…









殴られた頬よりも



いつも心が痛かった







「慶介……」

 不安をかき消したくて、強く抱きついた。

 昔の事を思い出すといつもこうだ。たまらない不安感と寂しさで、胸が潰れそうになる…。



「出流…」



 今は、力強く抱き返してくれる腕がある…。

 言葉少なではあるが、優しく名前を呼ばれるだけでも、出流には充分過ぎるほどの温もり

を与えてくれた。



「慶介、…大好き」

 もう、慶介無しで生きていく事は、想像したくもない。今まで平気で生きていたのが、不思

議なくらいだった。




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You are my reason to be… 2