ＧＰ２～麻里＆律子の場合～その２６

Gold Plum

第二章

交錯

～麻里＆律子の場合～

三

ⅰ

「待って待って待って！」

「え、ちょ、ちょっとあなた逃げようっての！

まだ話は終わってないのよ」

　女性は、実を盗んでいった大きな鳥のせいで乱れた短い髪をその

ままにその鳥を追って庭を出て行こうとする。

律子は逃がしてなるものか、と紺色のスーツの裾を掴んだ。

（ふっ、私の瞬発力を甘くみたわね）

　だてにスーパーの見切り品やタイムセールで強豪（他の主婦）たちと

競い合っているわけではない。律子は内心でほくそ笑む。

　女はぐえっと蛙の鳴き声のようなものを発したあと、

こちらへ振り返った。

「逃げてません！　追いかけてるんです！」

「何言ってるのよ。逃げようとしてるじゃない。

そうは問屋が卸さないんですからね」

　涙目で睨まれても怖くないが、わずかな罪悪感が律子を襲う。

だが、彼女が上着を取り戻そうと引っ張ったので、

反射的に引っ張り返してしまった。

（ここで引いたらこの子のためにもならないわ）

　まだ学生気分が抜けていないのだろう。

年上の大人としてきちんと自分が正してあげなくては。

律子は決意を新たに、裾を握っている手に力を込めた。

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