ＧＰ２～麻里＆律子の場合～その２８

Gold Plum

第二章

交錯

～麻里＆律子の場合～

三

ⅲ

「ふふふ。それはおとぎ話よ。

まぁ、外部から来た人だから信じちゃうのは無理ないかも

しれないけど」

「外部ですけど外部じゃありません！

……いや、ええっと、そういう希望ってことですけど……」

　自分もよく空想してしまうが、ここまでひどくはない。

律子は目の前で必死に言い募る女性の言動に顔をしかめた。

（この子、病気なのかもしれない。

よく見たら顔赤いし熱があるのかも）

　具合が悪いのならば、信じられないような言動や行動を

してしまっても不思議はないだろう。

いくら温かくなってきたとはいえ、朝晩は冷え込む季節だ。

体調を崩してもおかしくはない。

律子はまだ赤いままの女性の顔を見つめながらおでこへ手を近づけた。

「あなた頭大丈夫？　失礼だけど熱でもあるんじゃない？」

「大真面目です！　奥さんももっと真剣に取り組んでください！」

　女がパシッと音を立てこちらの手を跳ね除けた。

音に比べればそれほど痛みはなかったが、

律子の怒りが再熱するのには十分だった。

律子は腰へ手をあて、人差し指を突き出しながら胸に溜め込んでいた

不満を一気に吐き出す。

「な、何よ！　こっちは親切で言ってあげたのに！

だいたいあなたがねー……」

「は、はあ……。いえ、それは！　いえ、確かにそうですけど……」

　律儀に聞いていると思っていたのもつかの間。

人の話を最後まで聞かずに口を挟んでくる彼女の態度が、

律子の怒りを余計に煽る。

（言い返そうとするなんて、私を甘く見てるのね）

　叱りつけることなら子供たちで慣れている。

ついこの間まで学生だった彼女とはわけが違うのだ。

律子がやる気を漲らせ、大きく息を吸い込んだ。

しかし、いざ声を発しようと口を開くと出鼻をくじくように、

ガラガラと窓の開く音が聞こえてきた。

いいところで邪魔が入り、律子は睨むように音がしたほうを見る。

「母さん、あの煎餅食べていいのー？」

　家の中で雪姫救出に燃えていたはずの息子が、

呑気な顔でこちらを覗き見るように顔を出していた。

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