ＧＰ２～麻里＆律子の場合～その３４

Gold Plum

第二章

交錯

～麻里＆律子の場合～

三

ⅸ

「じゃぁ、玄関の外で待ってましょう」

「は、はい。えと、ここでいいですか？」

「ええ。あ、そうだわ。この自転車を出して」

「はい。こうでいいですか？」

　律子が家の前の車道に立つ女性へ、

車庫に置いてある自転車を出すように指示すると

彼女は首を傾げながらも素直に従う。

（こういうところは素直なのね）

　意外と頼まれたら断れないタイプなのかもしれない。

そのくせ自分を押し通そうとする頑固な面がある人だと、

今までの会話から窺えた。

（こういうタイプって本人の知らない内に

厄介ごとに巻き込まれてたりするのよねー）

　律子は未だに自転車を出しきれていない女性を観察する。

「あなたはそれに乗ってね。私はこれに乗るから」

「え？　乗るんですか？　私が？」

　こちらの言葉に、女はわたわたと両手を動かし目を白黒させる。

律子は小動物のような動きをする彼女に笑みをこぼした。

「もちろんよ。だって鳥を追いかけるんでしょう？」

「あ、はい！」

　自転車を出し終えた彼女が嬉しそうに満面の笑みを向けてくる。

「母さんお待たせ。はい、これ。これでいい？」

「ありがとう。充分よ。

あっ、そうだ萌に自転車借りていくって伝えておいて」

　律子が自分の自転車を出し終えると同時に

翔が玄関から荷物を持って出てきた。

「わかった」

　律子は息子から荷物を受け取り、準備を終えると自転車へ跨がる。

「さあ、さっさと追いかけましょう」

「はい」

　すでに準備を完了していた女性へ視線をやると、

彼女は勢いよく自転車をこぎ始めた。

律子は翔に手を振り、彼女のあとを追うべくペダルを踏み込んだ。

一つ前を読む　　　 GPの部屋に戻る　　　次を読む