Gold Plum





第二章


交錯


〜みのり&涼介の場合〜




IIB




 雪姫を放り出した桶がカラカラと音を立てて転がっていく。

みのりは、桶を取りに行こうと湯船から立ち上がる。

波打つ湯に足を取られないように足を進めると、

一緒に立ち上がった紅が更に湯を揺らした。


「お嬢さま、私がする」

「そう? お願いねって、紅、手が猪になってるけど大丈夫?

湯だったんじゃない?」


 みのりは顔を紅のほうへと向け、ギョッとする。

全身をほんのりとピンクに染めた紅の手先が

髪色と同じ毛に覆われていたのだ。

ハイヒールを履いたかのような焦げ茶色の蹄を触ると、

ジワッと手のひらに熱が伝わってくる。


「温泉、気持ち良かったから……」

「……さん? いの…し…手?」


 うっとりと目を細める紅の猪化した手をなでてあると、

壁の向こう側から微かに声が漏れてきた。


(やだ。ここって男湯と繋がってるのね)


 女湯には自分たちしかいなかったから気づかなかったが、

自分たち以外にも客がいたらしい。

変なことは言っていないかと、一抹の不安がよぎる。

だが首を傾け、上目使いをしてくる雪姫の姿に、

脳裏を掠めた不安は一瞬で霧散した。










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