Gold Plum





第二章


交錯


〜みのり&涼介の場合〜




IIIC




「私も、雪姫」


 紅が指先をわきわきと動かしながら近づいてくる。

目に涙を溜めながら笑っている雪姫の頬が

微かに引きつったよう見えた。


「うひゃひゃひゃ、ふ、二人で同時とは

ひ、卑怯マローうひゃひゃひゃ」


 雪姫の悲鳴に近い笑い声が女湯に木霊する中、

いつの間にか静かになっていた隣から

再び会話が漏れ聞こてくる。


「涼介君。先に出ようか」

「はい。そうですね」

「お嬢様方ー、僕たちは先に出ますから」


 壁越しに声をかけられ、みのりは手を止める。


「わかったわー。碧、女湯に来るんじゃないわよ。

涼介、碧をちゃんと見張っておいてね」

「了解」


 碧が犯罪まがいなことをするような人間ではないことは

わかっている。

だが、紅のこととなると何をするのかわからなくなるのか

碧という男だ。

それゆえ保険として碧の隣にいる涼介の名前を口にしたのだが、

まさか了承してくれるとは思わなかった。

間髪入れずに返ってきた言葉に驚いていると、

気の抜けたような側近の声が聞こえてきた。


「いやだなー。紅に絶交されたくはありませんから、

行きませんよ。……のところは」

「ん? 何か言いましたか?」

「いいえ、何も」


 紅の一言が効いているらしい。

みのりは碧と涼介の会話に胸をなで下ろした。


「お嬢様方も湯あたりなさらないよう気を付けてくださいね」

「わかったわー」

「うん」

「マロー」


 主である自分に対してはふてぶてしい態度をとる男が、

好いた相手の一言でこうも従順になるなんて。

やはり恋というのはすごい力を秘めているのだな。

自分もいつか碧のように誰かに恋することができるのだろうか。

みのりは壁に向かって返事をする紅と雪姫を見つめながら、

そんなことを漠然と考えた。










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