Gold Plum
第二章
交錯
〜みのり&涼介の場合〜
六
@
「お嬢様、到着しました。ここが、温泉宿『わさび谷』ですよ」
碧がバーンと腕を広げた先には、
趣のある木造建造物が建っていた。
青々とした葉が生い茂る森の中に
ポッカリと穴が開いたような場所にどっしりと構えている
3階建ての建物は、古き良き時代の分校といった雰囲気だった。
時折、鳥の声が聞こえてくる。
脇を流れる川のせせらぎと風の音(ね)に合わさる音色が
荒んだ心を慰めてくれるようで。
みのりは、ふうとおもむろに息を吐き出した。
「こんなところに宿屋なんてあったんだなあ」
「そうねー」
涼介が目をつむり、清涼な空気を深呼吸する。
みのりも彼に釣られるように息を吸い込もうと両手を広げ、
我に返った。
「って、ここ梅願じゃない!! 見つかったらどうするのよ!」
川を挟んだ向こう側に聳える山々は梅宮が所有するものだ。
自分たちはあの場所から逃げているというのになぜ近づくような
真似をするのかと、みのりは碧を睨みつけた。
しかし彼はいつものように飄々と返してくる。
「大丈夫ですよ、お嬢様。灯台下暗しって言うじゃありませんか」
「いいと思いますよ。俺。
温泉ってほとんど行ったことなかったし」
「観光しに来たんじゃないのよ」
毒気を抜かれるような涼介の態度に
みのりはがくりと肩を落とした。
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